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俺TUEEEのに無力です  作者:
竜安寺貴子の章
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ゴリラ

 その日、私は松尾を連れて富蔵様の屋敷を訪れていた。


「では、寄進をありがたく頂戴いたします」


 竜安寺商会の保有する施設等の権利証を受け取った私は富蔵様に謝意を述べた。富蔵様は遠慮はいらぬと頷いた。


「これから爵位を賜るのに無一文では格好がつかぬからな。それに、牧場の貴馬種なんぞはお前が用意したものだ。むしろ返却みたいなもんだろ」


 富蔵様はそう言って笑うと続けた。


「それに、あの馬は儂らでは少々持て余す。『船』よりも積載量で劣るうえに、盗まれるわけにもいかぬしな。いくら本来は速くて小回りが利くとはいえども、厳重に警備していてはそのメリットを活かせん。使おうにもコストが高すぎる。やはり貴族用だな」


 そして富蔵様は私の脇に立つ松尾を一瞥した。


「それに船旅も悪くないもんだろ」


「え、ええ。快適な旅でした。俺らが使ってた馬車なんかよりも全然速いし横にもなれるしで……」


「その『船』もバトラーのお陰なんだけどな」


 富蔵様の言に松尾が驚きつつもすぐに納得した様子で頷いた。


「恩返しって訳じゃないが、他に何か手伝えることはあるか?」


「そうですね。それでは……ゴリラさんをお呼び頂けませんか」


 私の申し出に富蔵様は呼び鈴を鳴らした。それに応じて程なくゴリラさんがやってきた。


「何か御用でしょうか?」


 恭しく控えるゴリラさんに対して富蔵様は「バトラーが何か用があるらしい」とだけ答えた。


「こちらにいる松尾、それに館にいる使用人達を鍛えて頂けませんか? 型などは一通り覚えさせたのですが魔法力の使い方は全く教えていませんので」


 富蔵様とゴリラさんは驚いた様子だった。魔法力の使い方は戦いの要諦。私が教えていないことが余程に意外だったのだろう。残念ながら私は魔法力を教えるどころか持っていないし、全く理解できていないのだ。


「『バトラーの使用人』の噂は色々聞いているが……。魔法力の使い方を全く習っていない平民の子供達の仕業とは思えんぞ」


 納得していない様子で富蔵様が呟いた。

 私が持たせた『武器』の仕業なので当然だった。しかし、これより先を考えると彼らの持つ魔法力という本来の力を少しでも引き出しておきたい。とはいえ、力を隠している花代には頼めない。魔法力の多寡で言えばベアトリクスも候補だが生まれながらに恵まれているだけで教えられるか疑問だ。何よりもメイドの中で一番年が若いベアトリクスはお嬢様の近くに置いておきたかった。

 その点、このゴリラさんはかなりの腕利きなのは間違いなく、修羅場も潜っている様子だった。


「なるほど。たしかに普通では考えられませんが……。なにしろバトラーですからね。むしろ納得できます。私の方は構いません。会長の判断に従います」


「ああ。それでは……」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 松尾が富蔵様を遮った。


「何を勝手に決めてるんですか! 俺は、俺たちは『バトラー』の弟子なんですよ? 今更用心棒風情に習うことなんかないですよ」


「教育不足ですね」


 ゴリラさんが冷たい目で私を見た。


「お恥ずかしい限りです。後で注意しておきます」


「てめぇ! バトラーさんにケチをつけてんじゃねぇよ! 文句があるなら俺に言え!」


 啖呵を切る松尾を叱ろうとしたが、ゴリラさんに目で制された。そして彼は富蔵様に話しかけた。


「会長。地下の倉庫をお借りします」


「む? 良いがあそこは特別な加工などしておらんぞ」


「構いません。何か壊れる様なこともないでしょう」


 そして松尾を見た。


「おい、ガキ。地下に来い。バトラーに代わって教育してやるよ」


「てめぇこそ俺を平民と思ってると痛い目見るぜ。なにしろバトラーさんに武術を教えて貰ったんだ。貴族崩れをのしたのも1回、2回じゃねぇんだからな」




 ゴリラさんが案内したのは荷物が雑然と置かれた地下の一室だった。彼はそれらの荷物を軽く動かし四畳半ほどの広さを確保した。


「なにもバトラーまで来なくても……。会長の様に部屋でお待ち頂ければすぐに済んだのですが」


「お前がすぐにオネンネするからな」


 松尾が青筋を浮かべて反駁した。


「うん? まだ襲いかかって来ないのか? バトラーがいるからってお上品に待たなくてもいいんだぞ。別に階段で襲って来ても良かったし、荷物を動かしてる最中でも良かっただろうに」


 ゴリラさんは呆れた様子だった。


「そんな不意打ちなんか必要ねぇよ」


 松尾は懐から出したメリケンサックを嵌めた。


「会長の部屋に武器を持ち込んだのかよ。いけねぇな」


「ほざけ!」


 憤然と松尾が襲いかかった。


「あ、バトラー。言いたいことがあったんだ」


 ゴリラさんがこちらに話しかけながら、倒れ込む松尾を片手で支えた。

 不覚なことに動きが感知できなかった。


「いや、たしかにさ、俺は魔法力の移動は得意だよ? だからといってよ、こんな連中を鍛えろって……・それはいくらなんでもないだろ」


 ゴリラさんは私の困惑を悟ったかのように不可思議な表情を見せた。


「いや、まさかとは思うけどよ……。俺が誰かわかってない?」


 デジャブ感じる光景だった。そしてその沈黙に是と捉えたのか、ゴリラさん、いやゴリラは額に手を当てた。


「……『ゴーダ』だよ。その様子じゃ俺を憶えているかも疑問だが。最近じゃ『ヒッポミ・ポーサ』なんて名前の方が有名だけどよ。そっちはお役御免ってことで、今の仕事場はここってことよ。……まぁ、記憶になくてもいいさ」


 同窓だったゴリラは実際に気にした様子もなく続けた。


「なんにしてもコイツらを鍛える件は承知したよ。……しかし、お前がバトラーとは信じられないな。隙だらけだし、俺を忘れてるし……。なぁ、お前も最近だらけてるんじゃないのか? お前も鍛え直してやろうか?」


 ゴーダ改めゴリラはからかうように笑った。

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