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俺TUEEEのに無力です  作者:
竜安寺貴子の章
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ナウル伯領

 ナウル伯領の中心都市の入り口で私を出迎えたのは、私の目的であるスチュワート本人であった。

 彼ならば私の来訪を察していても驚くことではない。むしろ、気がつかない程度の相手だったならどれほど楽だったろうか。


「積もる話をしたいところですが、馬車を用意しております。ご自由にお使いください。私は館にいますので、いつでも、用事がなくとも是非いらしてください。心ばかりの歓迎を致します」


 スチュワートは頭を下げると立ち去ろうとした。


「私の用は貴方にあるのですよ。スチュワート。先ほどのお招きを今から受けてもよろしいですか?」


 不躾な私に対してスチュワートは「相変わらずですね」と苦笑いを浮かべた後に「ええ、喜んで。さしたる準備はしておりませんが」と屈託のない笑顔を寄越してきた。


 スチュワートの館はファームル伯の館を移転させたかのようであった。それこそ柱の傷一つとっても同じだった。だが、このような柱の傷から壁の汚れまで複製する荒技を「一晩でやりました」と言われても納得するしかない相手だ。おまけに、法隆寺も一晩で建てられることだろう。

 当然ながら『急な来訪』に対して『さしたる準備がない』ながらも礼式に則った完璧な饗応など造作もないことだった。


「私としては会いに来てくれたというだけで嬉しいのですが……貴方の方はそれだけの用事でここに来たわけではないのでしょう?」


 宴もたけなわ、スチュワートはそう切り出した。

 どう答えるべきか? 実は非常に悩ましい問題だった。

 この世界の『執事』というものは『個人』に仕えるのであって、その『主』たる『個人』が満足すれば良いと考える。

 『先代バトラー』も『主』を満足させるために『主の子孫』が遠からず没落するのがわかっていてもゴーレムの導入を見送った。子供だから、子孫だからと特別な扱いはしないのだ。


 そう考えると『貴子(お嬢)様』の存在をスチュワートに伝えたところで事態の好転は期待できない。むしろ悪い方向に変化した例ならば記録されている。

 大別すると、権蔵様の娘の存在について知っていますか?

A知っていた

B今知った

 どこぞのアンケートのようになってしまったが、

C知っていたのか今知ったのかわからない

 という例もある。


 いずれでも、それらは問題ではない。問題はそれでどうなったかだ。権蔵様の、それも素性が怪しく隠している娘をバトラーが気にかける。この異常事態にスチュワートは調査をし、血筋の秘密にまで辿り着く。

 スチュワートがザルグ家の血に『主』たるアンリ様の要素を強く見いだしていたケースでは「平民の血が混ざり穢された」と激高し、暴走した。この時は富蔵様との約束を反故にし、即座に動き出した。他にも富蔵様の死後に苛烈な報復を始めたケースもある。

 幾つか試されたケースではいずれも好転しなかった。失敗しかない選択であるためにパターンの蓄積は多くはない。


 一方で、これの意味するところは、時としてそれほどまでにスチュワートの心を揺さぶる要素でもあるということだ。動かし方によっては好転の可能性も秘めた魅力的なものに感じた。

 しかし、反応をみてからでは遅い。結果が出るのが数分、あるいは十年以上後では『時の超克(時間を戻す)』の限界を超えているのだ。

 従って私の返事はこうだ。


「旅や寄宿の生活にも飽きたところです。しばらく腰を落ち着けたいと思っています。こちらで軽く商売でもしながら過ごしたいのです」


 早い話が先送りだ。折を見て様子を見ながら勝算がありそうならば『お嬢(貴子)様』の話を切り出せばよい。

 この提案にスチュワートの顔が曇った。そして大きな溜め息をつくと、割り切ったようなどこかサバサバとした表情となった。


「……街並みを観て貰えばわかると思いますが、私としては非常に困ります。折角の街に異質なものは……いや、失礼。バトラーならば、承知の上での申し出なのでしょう。

 なるほど、たしかにそれならば権蔵様(ナウル伯領)の方に伺ってからいらしたのも納得です。彼はここの領主ですからね。バトラーが移住を希望している。必要なら領主の威光も使える。いかに王より賜ったとはいえ、代官に過ぎない私に拒否できるような問題ではありません。

 良いでしょう、許可します。……ただ、私の妥協にも限界があることを知っておいてください」


 スチュワートはそう言って手を差し出してきた。


「もっとも、それはそれ。バトラー、いや『ウマ』さんは私にとって特別な存在なんです。これからも館の方にいらしてください」


「次からは、あの堅苦しい饗応はなしだと助かります」


 手を握った私にスチュワートは「変わってませんね」と答えて続けた。


「貴方がこれからも変わらず、私との関係も変わらずに友誼が続くことを心から願っています」


 表情は笑っていたが、目は真剣そのものであり、そこには哀願の色が籠もっていた。

 館を辞した後、街の様子を見て歩いた。

 街はファームル伯領からそのまま移転してきたかのようだった。

 道幅、道路の質、並ぶ建物に商店の一つ一つまで同じだった。観測によれば、個人の住宅の家族構成まで同じだ。流石に家々の中までは同じではないが、スチュワートがその気なら同じにできるだろう。

 不可能という理由でやれないのではなく、干渉して同じにしたときの悪影響からやらないだけだ。あくまでも街全体の総和として可能な限りファームル伯領と同じにした上で実験したいのだ。彼の目的からすれば許容範囲なのだろう。

 完全に近い再現がなされていることは過去のパターンや現在の観測、様々な風聞から知っていた。しかし実際にこの目で見て実感すると中々の衝撃だ。私はこのような超人と対峙しなければならないのだ。


 そして……この完璧な街に私という異物が入るのだ。スチュワートが良い顔をするはずがない。

 それに彼は私が平穏な暮らしをしている人々の生活が壊されるのを由としないことを知っている。それを踏まえての『変わっていない』であり『許可』なのだ。


 故に私がこの街にいる限り、この街を壊すことはできない。理由は二つ。一つは私と敵対すること。もう一つは私の干渉によって有用な実験結果を得られなくなることだ。彼の目的はあくまでもファームル伯領に昔日の姿を取り戻すことであり、そのための情報が欲しいからこの街を実験対象としているに過ぎない。

 異物の存在や干渉で街並みや崩壊の経過が大きく変われば街を壊すことは無意味であり、壊す必要がなくなるのと同義となる。

 よって、私がいる(異物がある)限り、この街が壊されることはない。そう確信できるし、過去のパターンもそう示している。

 そして五年、十年と過ごせばファームル伯領の実情との乖離が大きくなり、私の存在の有無にかかわらず破壊が先送りされる。そこまで離れたら、ファームル伯領を手中に収めて双方を近づけさせる必要があるのだが……その前提には竜安寺家の排除が必要であり、そこには『お嬢(貴子)様』も含まれる。


 要するに『お嬢(貴子)様』をお助けすることは、とりもなさず、二つの街に住む人々を助けることにもなる。


 街の『表』を確認した後は『裏』の確認である。観測上のデータは揃っている。周辺の情報収集から条件もほぼ揃った。私はあえて人通りの少ない方へ進んだ。


 実は少し前から私を付け狙う一団がいたのだ。だから襲わせて様子を見ることにした。どの程度悪質でどの程度の実力を持っているのか。

 いきなり殺しに来るような団体なのか数を頼って脅迫するのか。一例に過ぎないが彼らから情報も得られるだろう。しかし、それ以上に興味があった。


 この集団の不思議なところは----

 ----同時に背後から頭に角材が振り下ろされた。


 ほとんど魔法力が込められていない一撃だった。それが幸いし、彼らに返した衝撃は角材を撥ね除ける程度で済んだ。


「ひっ!」


 対峙する前から彼らは怯えていた。魔法力の操作も碌にできないのだから『物』を介さずに『素手』で殴ってくるべきだ。

 だが、それができなかった。なぜならば、彼らは私が怖い(・・)のだ。


「や、やっぱり、バトラーを襲うなんて無茶だったんだよ」


 潜んでいる一団がヒソヒソと話している。そう、彼らは私がバトラーと知って襲ってきたのだ。

 貴族崩れや暗殺者ギルドからの襲撃は慣れていたが、平民と呼ばれる人々からバトラー(・・・・)と知って襲われたことはなかった。だからこそ、彼らには強い興味を引かれたのだ。


「うるせぇ!」


 もはや潜む必要がないと判断したのか頭目らしき者が怒声を発した。同時に私の前に姿を現した。

 一団は子供であった。頭目らしき少年が怒鳴る。


「おい! お前がバトラーだな!」


「そうでございます」


 彼は恐怖と興奮が相まって震えていた。


「お前の、お前のせいで俺たちはこんな目にあってるんだぞ!」


 私はしばらく考える。たしかにこの街の人々は北の地で虐殺にあった。出兵に伴う徴発も酷かった。私はそれを……少なくとも虐殺の場にいて傍観した。だからといって恨まれる筋合いはない。

 全てを知っている者ならば『なにもしなかったこと』を恨むことができるが、それでも逆恨みの域だ。


「お前にとっちゃとるに足らないことかもしれないがな!」


 私の思案に少年は一層の怒りを見せた。


「失礼ながら、誰かと間違えておられませんか?」


「間違えるなんてあるものか! バトラーは一人しかいないんだからな!」


「そうだ、そうだ」と同意の声が上がる。なるほど、話すことで恐怖が薄れたようだ。脅かすつもりはないので、それは別に構わない。


「私が何か致しましたか?」


 少年が青筋を浮かべた。


「お前が爺さんをここで働かせたからだ!」


「お祖父様をですか?」


「そうだ!」


「なるほど。年齢を考えると先代のバトラーではないでしょうか?」


 私の一言に子供たちがハッとなった。指摘されるまで気がつかなかったようだ。不思議なようで当然なのかもしれない。見も知らぬ『バトラー』を恨み続けたのだから。子供たちはこれで(バトラー)と戦わなくて済むと安心したようだった。


「じゃあ……爺さんたちの魔法力を封じたのも?」


「えっ…………」


 魔法力を封じるのは私にしかできない。少なくともそのような魔法はデータにはない。


「失礼ですがお祖父様の出身をお教え願えませんか?」


「あ? 王都の外れって聞いてるけどよ」


「マサラの方ですか?」


「なんだ? やっぱり心当たりでもあるのか?」


 子供たちに緊張が走る。しかし一度消えた闘争心に再び火が付くことはなく、怯えのみが見てとれた。


「そうではないのですが……」


 おそらくこの子たちは彼ら(・・)の孫だ。


「お祖父様は竜安寺商会を通じて働いていませんでしたか?」


「やっぱり、お前が爺さんを!」


 やはり彼らは、あの(・・)盗賊の子孫だったのだ。マサラ子爵領で権蔵様・幸子様を『音無しのホロウ』と共に襲ってきた35人の盗賊、バトラーにより虐殺された盗賊。私の血によって復活した盗賊たちの孫なのだ。


「いえ。聞いているかわかりませんが、私はあなた方のお祖父様に襲われた側です」


「爺さんがバトラーを!?」


「いえ、当時の私は一少年でしたから」


 驚く子供たちを宥めつつ続けた。


「私がしたことは先代バトラーによって斃されたあなた方のお祖父様たちを治したことです。それがここへの移住に繋がりますし、今の境遇へも繋がります。ですから、私を恨むのは筋違いでもないですね」


 困惑する子供たちの一人が「そういえば竜安寺商会の奴に弱体化させられた上で傷を治されたとか……」と呟くと「俺も聞いた」「いや、初耳だ」などとそこかしこで声が起きた。


「お(めぇ)ら黙れ!」


 頭目らしき少年が一喝した。


「なるほど、爺さんたちは恨んでたかもしれないが、俺らにとっちゃ恩人だったってわけだ。なにしろ、アンタが治してくれなきゃここにいる連中は半分も存在していなかっただろうからな」


 頭目の少年は、あまり拘らない性格のようで冷静に整理し合理的に結論づけるとドカリと座り込んだ。


「そんな恩人を襲ったんだ。ケジメだ。俺を殺してくれ。代わりに他の連中は許してやれよな。アンタとは交渉できるような立場じゃない。あくまでもお願いなんだが」


 少年は不敵に笑った。


「なるほど。しかし殺したところで私は少しも得をしません」


「まぁ、そうかもしれないがケジメも必要だろ? 自慢じゃないが俺らを逆さに振っても金は出てこないぞ。全員とっくに身寄りを失ってるから親への文句も言えんしな」


「では、こうしましょう。全員私のところで働きなさい。働いて返すのです」


 子供たちが驚いたように顔を見合わせた。


「い、いや。だけど俺たちにできることなんて掻っ払いくらいしかないぜ!?」


「必要なことは私が教えます。私が教えるのでは不足ですか?」


「いや、勿論ないけど……」


「では、私に身を預けなさい。もっとも住む場所から探さなければならないのですが……。そうですね、第一の仕事は適当な場所探しを手伝って貰いましょう。この街はあなた達の方が詳しいのですから」


 混乱する子供たち相手に話を強引に進める。やがて頭目の子供が覚悟したように立ち上がった。


「俺は『松尾左陣』っていいます! これからよろしくお願いします」


「ええ、知ってますよ。私の方こそよろしくお願いします」


 頭を下げる子供に私は心の中でより深く頭を下げた。

盗賊たちの話は前部『俺YOEEEなりに拾ってくれたお嬢様の為に頑張ります』の『本当のバトラー』~『復活の奇蹟』のあります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] 松尾さん、懐かしい。 こういう初期に登場したキャラとの再会シーンはタイムリープ系作品の醍醐味ですね。
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