権蔵の願い
「花代」
「愚問」
権蔵様の呼びかけにフローラは侮蔑の籠もった笑みを浮かべて答えた。
「千里眼で見られてたらアタシがバトラーを血だらけにしたり、ベラベラ喋ったりするわけないデショ」
投げやりな口ぶりは不満半分呆れ半分といった調子だ。
「アタシの妨害を破って覗き見できる奴なんて数えるほどしかいないんだしさぁ。その中でも頑張って見ようとするのはスチュワートくらいだけど、アイツはバトラーがいる場所を覗こうなんてしないわよ。下手に敵に回しても馬鹿らしいし」
「おや、私でも役に立つものですな」
言われっぱなしもなんなので細やかな反撃を試みた。
「イヤだねぇ。ポンコツ呼ばわりされたことを根に持ってんのかい? 小さな男だね。ポンコツの癖に。何度でも言うけどアンタは間違いなくポンコツよ。そりゃもう穴だらけでバケツにしたら入れる量より漏れる量の方が多いくらい。・・・・・・だけどね、執事の穴の連中がアンタをバトラーにする時に言った様に穴を補って余りある長所があるからね。総合的には歴代バトラーに勝るとも劣らないってアタシは思うよ」
女性に舌戦を挑んではならないと思った。しかしボロカスに言いながらも彼女は彼女なりに私を評価してくれていたようだ。
「まぁ、アタシは能力的にはスチュワートの方がバトラーに相応しかったって今でも思ってるけど」
それでもきちんと評価を下げて、憎まれ口を叩いていくことを忘れないのは流石だ。こんな彼女と組んでいたマルスは出来た人間である。
「て、ことで見られてないから安心して性癖でもなんでも暴露してください」
私と同じく散々に打ちのめされた権蔵様は苦笑いを浮かべたが、すぐに真顔に戻った。
「まず、私はバトラーに謝らなければなりません。・・・・・・申し訳ございませんでした」
権蔵様はそう言って深々と頭を下げた。
「ここに来るまでに度々襲撃があったと思いますが、その内の少なからぬ者は私の指図によるものです」
「富蔵様の使者が帰ってこなかったのもですか?」
「ええ、仰る通りでございます。予想通りバトラーには通用しませんでしたが、武力による襲撃、金や女を使った誘惑・・・・・・様々な手を使いました」
「襲撃も勧誘もいつものことですから」
「なるほど、さすがです」
なにが「さすが」なのかはわからないが、権蔵様は感心したように頷いた。
「父の許にいるバトラーをお呼び立てするにはこれしかないとおもっていました。半端な者が潜り抜けないように父からの使者に厳しい試練を仕掛けていたのですが、意にも介さないとは想像以上です」
「私に直接声をかけて呼ぶ形では駄目だったのですか?」
「はい。バトラーに用事があるようには見せたくありませんでした。警戒を招きますし、勘繰ってバトラー到着前に事を済まそうとする連中が暴発するのも避けたかったのです」
そこで権蔵様はわずかに間を開けた。
「この奥に娘がいます。地下全体を花代に確認させたので今は一人でも安全ですが・・・・・・娘を守って頂きたいのです」
権蔵様は土下座をしてみせた。戸惑う私に涙声で続ける。
「私も父親です。可能ならば私の手で守ってあげたい! しかし! 私では無理なのです! この身命を賭しても守り切れません! 誠に身勝手な願いとは理解していますが、何卒! 何卒! 私に代わって守ってください!」
権蔵様は自身を責めるように地面に頭を叩き付けていた。




