二部から引き続き登場第一号は君ですか?
「ますたー、さすがです!」
「はぁ、はぁ、あれだけ魔法を喰らっても平気だった奴も……最後はあっけないもんだな」
「くそーっ! 出番がほとんどなかったぜ!」
私の首が切り落とされたのを合図に襲撃者たちが次々に姿を現し、私の近くに……正確には私の首を小脇に抱えている『ますたー』と呼ばれた男のもとへと集まり始めた。
「……これで我らの方が『執事』よりも格が上だと世間も認知するでしょうな」
先ほどまで息を切らしていた精悍な顔つきの中年男が疲れ以上の喜びを表している。
「さすがはますたーですぅ。いままでだれにもできなかったのにすごいですぅ」
青い髪の少女は媚びたような甘え声を出す。
「あー、もうちょっと違う動きをしてくれたら俺も活躍できたんだけどなぁ」
赤髪の生意気そうな少年は不満を漏らしていた。
「あのバトラーを討てたのだ。個人の活躍など些細なことだろう。参加できたことを光栄に思え」
「そりゃおっちゃんは大活躍だったから満足だろうよ。だけど、まぁ、これでクロウの野郎がデカい面をできなくなると思えば上出来だよな」
不満を漏らしていた赤髪の少年も中年男に同意した。
「なるほど……さすがは王立三大ギルド。見事なお手並みです」
首だけになった私は素直に彼らを褒め称えた。
「な!?」
「馬鹿な……」
「嘘だろ?」
先ほどまで勝利に酔いしれていた一同が驚きながら私を見る。よほど奇異だったのだろう。しかし私は肺などなくとも空気を送り出せるので首だけになっても発声できるのだ。
「やはり……と言うべきか」
私の首を小脇に抱えた男だけはさして驚いた様子は見せなかった。
「お久しぶり……というべきですかな? あなたに首を刎ねられるのは二回目ですので」
私はその男に見覚えがあった。
「まさかとは思ったが……竜安寺と一緒にいた子供か……随分と立派になったものだ」
男の方も私を憶えているようだった。
「あの時にちゃんと殺しておけば……いや、そもそも殺せなかった相手だから今ここにいるのか」
男は苦笑しながら私の首を地面に置いた。
「いえいえ、まだまだ未熟の盛りでございます。現にこうして首を刎ねられているわけでございますからな」
私はそう応答しつつ、肉体を引き寄せた。肉体は倒れたまま地面を擦って私の方へとやってくる。
「なにアレ!? 気持ち悪い……」
「むぅ……首を切っても死なぬとは……」
「おいおい、マジかよ?」
首と肉体が繋がる様を四人は驚きながら見ている。そして完治。
「さて、改めましてホロウ殿。お久しゅうございますな」
私は四人の大将格、『ますたー』と呼ばれている、以前にも私の首を刎ねた暗殺者ギルドの『ホロウ』に挨拶をした。
「先代のバトラーと和議を結んだあとにお前が生きているという噂は入っていたが……まさか本当に生きていたとはな。それがバトラーにまでなっているとは襲撃直前まで夢にも思わなかったぞ」
ホロウは感心とも諦めともとれる口ぶりであった。
「ますたー……知り合い?」
青髪の少女がおずおずとホロウへと質問をした。
「いや。昔、殺したと思っていた相手だ。竜安寺関係者への攻撃ができなくなった原因でもあるな」
「それじゃあホロウ様の今の苦境はバトラーが原因ってことじゃないか!」
赤髪の少年が吠える。それを中年の男性が小突いて止めた。
「言われてみれば殺したと思っていた相手も和議を結ばされた相手も二人ともバトラーだな」
ホロウはというと苦笑いであった。彼らには彼らの事情があるようだった。以前のケースからするとホロウは竜安寺絡みの仕事を先代バトラーとの約定により断ったのだろう。その中には非常に重要な案件もあり、それが原因でホロウのギルド内での立場が弱くなったようだ。それを逆転するための起死回生の一手が今回の襲撃であり、バトラーを討ち取ることによって求心力の復活を図ろうとした可能性が高い。もっとも今回も同じケースとは限らないが、その原因を追究する気は私にはない。
「ホロウ様、いかがなさいますか?」
「『不可能を可能にするバトラー』が正式な二つ名のようだが……暗殺者ギルドではなんて呼ばれているか知っているか?」
ホロウは中年の男を無視して私に聞いてくる。もちろん過去のパターンからおおよその見当がつく。だが知っていると答える必要もないだろう。
「『不死身のバトラー』だ。体に大穴を開けようとも水に沈めようとも死なないのだと」
ホロウの言ったことは実際にあったことである。死なないのか死ねないのかはわからないが、それらを体験したうえで今日も私は生きているのだ。もっとも死なない存在を生きていると定義してよいのかはなはだ疑問ではある。
「知っているとは思うが当ギルドは何度かあなた、バトラーの暗殺を試みている」
そう。暗殺者ギルドからの襲撃は今回が初めてではない。“王立最強の集団”を自負する暗殺者ギルドにとって、世間一般では最高・最強の評価を得ている『バトラー』やその出身母体である『執事の穴』は目の上のたんこぶなのだ。世間の評価だけではない。努力を許された者同士としてライバルであり思想も対局にある。『執事』は主の為に努力し主の為に死ぬのであるが、暗殺者ギルドは“王より努力を認められた集団”としての側面が強い。すなわち“彼らの主は王”であり、王に背かない範囲で自由に、あるいは王の為に仕事を請け負う集団なのである。彼らからすると“王を主として頂かない”バトラーや執事たちが最強・最高の評価を得ている現状は許せないし、有能と認めてればこそ“王の為に命をかけない”努力する個人など反逆者に他ならぬのだ。ゆえにバトラーが誕生し、そのバトラーが貴族に仕えるまでは暗殺者ギルドが命を狙うというのは通例となっている。もっとも、多くのバトラーは執事の穴へ入る前から主を決めていることが多く、実際に襲撃されるケースは稀である。それでは私の場合はどうか? バトラーとなってから七年以上経つがいまだに誰にも仕えていない。すなわち今でも襲撃可能ということである。そのため度々襲撃に遭ってきた。もっとも今回ほどの襲撃は初めてであったが。
「殺せない、死なないと報告を受けていたが……なるほど。私でも殺せないのだ、他の者が殺せる相手ではないな」
ホロウはそう言ってため息をついた。
「まさか諦めるのかよ!? こいつは裏切り者だぞ!」
少年が抗議の声をあげた。暗殺者ギルドにとっては王国民でありながら王の陣営と対立したことがあった私は裏切り者なのだ。もっとも私は王国民ではないのだが、そのような説明は無駄だろう。
「強いうえに不死身の相手にどうしろと言うのだ? 我々は死ぬ相手を殺す訓練しかしていないのだ。死なない相手を殺すのは我々の仕事じゃない」
ホロウは少年ではなく、私の目を見てそう言った。そこには憐れみが籠っている様に感じた。
「退くぞ。バトラー殿、邪魔をしたな」
ホロウは手下に命じると俺に目礼をして去って行った。私が彼らを相手にしていないのを見抜いたのだろう。彼も私を相手にしなくなったのだ。
人や生き物を殺すのが正しいとは思わない。しかし彼らはそれを生業としているし、この世界ではそれが認められているのだ。それでは私は? 死なないし、殺されることもない。食べ物は碌に食べることができない。いや、むしろ食べられる側にとっては完全に無駄死にとなるから極力食べるべきではないだろう。殺すという手段によって世界の輪に入っている彼らに対して私は? 私が相手を殺したとしてそこに意味はあるのか? 子供が面白半分に蟻を潰す以上に意味がないことではないか? 世界の輪から完全に逸脱し、世界に居場所がなく、全てが無意味となっている私に存在意義などあるのだろうか?




