油断大敵
今日も夢を見た。私が“あの永い夢”を望んでいるのか、時空コンピュータが忘却を許さないように見せているのか。いずれにしても完璧なデータベースで補完された夢は完全に再現されたものである。いや、そもそも、どの『私』の夢なのか判然としなくなってもきている。しかし、少なくとも後悔と無力感が私を苛むということは事実だろう。
「強めの雷魔法!!」
そんな誰かの叫びと同時に電撃が私を襲った。完全な不意打ちであった。
「強めの雷魔法、強めの雷魔法、強めの雷魔法ッ!!」
魔法の主を発見する前に次々と電撃が私を襲ってきた。
強力な魔法であった。しかし目的は私の足止めだろう。皮肉なことに、だからこそ逆に私の動きを止めることは叶わない。肉体が強く傷められれば傷められるほどに人間性が排除されるのだ。ゆえに黒焦げになろうとも思考はクリアであった。
いくら悩み疲れていたとはいえども私の不意をつける時点でかなりの達人である。しかも売名目的の貴族とは違って名乗りを挙げずに不意打ちをしてくる相手である。おおよその見当はつく。予想通りの相手なら一人ではないはずだ。
「強めの雷魔法、強めの雷魔法、強めの雷魔法、強めの雷魔法ッ、強めの雷魔法ッ、強めの雷魔法ッ‼」
なおも雷撃は続く。この雷撃の目的は間断なく撃ち続けて私を束縛することであるのは明白だった。並みの貴族なら渾身の一発であろう威力ではあるが、予想通りの相手ならこれでも連発性を重視して威力をかなり抑えているはずだ。
電撃を無効化する方法は大きく分けて三つ。抵抗を極限まで抑えて雷撃を無事通過させる。自分の回りの抵抗を抑えて電撃をそちらに迂回させる。自身の電気抵抗を高めて電撃に避けさせると同時にあたっても表面だけのダメージに抑えるという三つだ。
電撃の威力は抑えているが相手はかなりの実力者である。電撃の迂回を狙うのは得策ではないだろう。電撃は魔法力を使ってコントロールできる。実力者であればそのコントロール制御能力が段違いに高く、こちらの思った通りに誘導できない可能性が高いからだ。ここは威力を抑えていることを逆手にとって高抵抗で電撃の威力を下げるべきだろう。そう判断して自分の周りに卵状の純水の薄い膜を展開した。
「水円錐」
それを見越していたかのように少女の声がした。同時に空中に渦を巻くように水が集まると砲弾状に固まる。そしてライフル弾の様に回転しながら私に向かってきた。
水の砲弾は水の膜を易々と打ち破り私の脇をかすめる。
「水円錐、水円錐、水円錐」
水の砲弾が次々と容赦なく降り注いでくる。初撃こそ掠めたが二撃、三撃と喰らう私ではない。ライフル軌道の為に弾道予測が容易だったのもあり軽く避けることができた。しかし簡単に避けながらも驚いていた。魔法は物質創造ができない。従って今撃ち込まれている水は大気中の水、あるいは他の物質を液体化して操っているということなのだ。私が水を創造し周囲に水分が多くなっていたとはいえども、これだけの質量の水を集められたのは驚きである。それだけ優れた魔法能力を持っているということだろう。だが、なぜわざわざ水分を集め難い大気上に砲弾を作ったかというと……。
「火炎爆発」
予想通りであった。大気を乾燥させ火炎の威力を上げてきたのだ。その炎が私の視界を奪うように顔面に炸裂した。いや、炸裂するはずだった。それを見越していた私は魔法が炸裂する前に身を引いて避けたのだ。
「水柱」
続いて私が引くのを予想していたかのように地面から2~3Mの巨大な氷の筍がつららを逆様にしたように次々とせり上がる。
「水柱、水柱、水柱」
氷の槍はなおも私を狙ってそそり立って攻撃をしてくる。水を操るなら大気よりも水分が豊富な地面からの攻撃の方が正当なのだ。さきほど大気中に水の砲弾を作った意味は空気を乾燥させるばかりが目的ではなかっただろう。
「氷乱舞」
私の考えを妨げる様に、叫びに応じて氷の柱は砕け散り辺りに15㎝くらいの氷の刃を無数に散らす。逃げ場はない。魔法で強化された刃は標準的貴族であっても容易にその命を奪うだろう。私はそれらを溶かした。溶かすと言ってもなにも塩を創造してかけたわけではない。先ほどからの戦いで拡散したナノマシンを利用して氷の分子を揺らして直接溶かしたのである。
「強力な雷魔法」
そこに先ほどとは比べ物にならない強力な雷が私を襲った。純水の膜はすで破壊され、足元には私が溶かした水。逃げようのない不可避の一撃であった。私のことを徹底的に研究し、全てを見通し、あらゆるパターンを想定して仕掛けてきたのだろう。……だが、私には影響のない一撃であった。
しかし、そもそも魔法は魔法名を名乗る必要がない。魔法名を叫べば多少は威力が上がるようだが、叫ぶ目的は家に付属する魔法を名乗って家名を上げるためだ。平家物語などで一騎打ちで名乗りを挙げるのと大きな差はない。それでは家名を挙げる気がない相手が魔法を名乗る理由は? 簡単な話である。意識をそちらにいかせるための囮である。
そう考えていると突然に視界が変化した。これは以前にも経験をしたことがある。私は首を刎ねられたのだ。




