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俺TUEEEのに無力です  作者:
バトラーの見る夢/後編
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北方戦争12

 王が着陣したのはフローラが去ってから3ヶ月後のことだった。その頃になるとカガチ様の怪我も幾分か良くなっていた。とはいえ、腹部の傷跡は生々しく左腕の自由も戻っておらず、折れた肋骨は完治からほど遠かった。いまだ出陣はままならず、カガチ様の負傷の噂を聞いて攻撃を仕掛けてくる小規模な集団に対しての迎撃に出向かなかった。もっともそれらの集団は政局(パワーゲーム)と関係がない小貴族が多く、元から各地の守備隊に脅威を与えるような実力を有しておらず、出向く必要がなかった。


 小競り合いをしている間に王は北方辺境伯のアヅノ城に入城したらしい(・・・)。ナドヤ山の近くであり、北方辺境伯領の主要都市の中で最北端に位置する都市を備える城だ。普段は八騎士が駐屯する北方民族との最前線でもあった。九伯家は王を迎えるにあたり大規模な改装をおこなったという。3ヶ月というのは改装に必要な時間でもあったのだろう。

 なぜ王の入城が「らしい(・・・)」なのかというと、ナドヤ山の向こう側にはナノマシンが散布されておらず情報の集まりが悪いからである。同じくナノマシンの散布がなされていない『島』に陣取る公爵の情報も集め難かった。

 それら、もっとも注意しなければならない二か所からの情報が少なかったのは不幸だった。そして意欲的な情報収集を怠ったのは私の驕りであった。

 当時の私は王に関していえば、まだ遠くに居たため情報を集める必要性を感じていなかった。しかし、実際には王にとっては十分な距離であった。


 王は『全ての魔法力を統べる者』と言われている。そして魔法も『全ての魔法力を統べる魔法』とされている。しかし実態は謎である。ただ一つ言えることは『滅茶苦茶』ということだ。これは伝承の話ではなく、実際に私が体験し直接に見たので間違いのない事実だ。


 

 その日は朝から妙な感じであった。違和感の原因が静けさであると気がつくまでにしばらくの時を要した。連日続いていたナドヤ山のざわめきがこの日はなかったのだ。

 陣を引き払ったかのように静けさだった。しかし人はいる。ナノマシンで確認するとみな黙っており、祈るかのように目を瞑っていた。この異変にはメニチェの住民も首を傾げた。

 その調子で夜のとばりが降り、何事もないまま一日が終わると思ったその時であった。


 カガチ様が突然上を向いた。怪我の治りに応じて良くなったはずの顔色は今までに見たことがないほどに真っ青だった。それに続いて何人かの戦士も上を向く。その表情は一様に恐怖と焦りが入り混じったものだった。

 何事かと思った次の瞬間、私の意識は途切れた。


 私が意識を取り戻したのはナドヤ山の中腹であった。

 メニチェは、いや北の大地は赤く輝いていた。眩しく美しいその光は残酷で無慈悲な明るさだった。

 いくつもの巨大な火球が大地に落ちて行っていた。火球は大地にぶつかると爆発することなく吸い込まれるように消えていった。爆発の代わりに大地が赤く染まり、瞬く間にそれが周囲に広がっていく。火球は核融合を起こしながら落下していたのである。いわば小型の太陽だった。

 メニチェは溶岩の海に沈んでいた。大地は溶けるだけでは収まらず気泡を立てて蒸発を起こしていた。

 その熱は北の超人達ですら耐えらないものだった。ほとんどの者は焼け焦げながら赤く輝く海へと沈んでいく。それでも幾人かの者は耐えられたようだ。自らの肉体を燃やしながらも近しい人の亡骸抱きしめて叫んでいた。

 カガチ様も叫んでいる一人だった。その声には悲しみと憎しみが混じっていた。それは慟哭ではなく、復讐を誓う獣の咆哮に聞こえた。僅かに生き残った他の戦士たちも同じく雄叫びをあげていた。


 その獣たちに向かって天空から火球が落ちていく。

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