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俺TUEEEのに無力です  作者:
バトラーの見る夢/後編
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北方戦争10

 カガチ様はフローラの亡骸と共に帰還した。それを牽制任務を終えていた戦士たちが出迎えた。

「手厚く葬るがよい」

 フローラを床に丁寧に置くとカガチ様は顔をそむけた。そして咳き込み吐血した。

 カガチ様の体に棒は刺さったままで、折れた左腕は力なくぶら下がり、右胸からは折れた肋骨が飛び出していた。

「それは使わぬぞ」

 青い顔をしたカガチ様が私を止めた。七色軟膏を取り出したのに気がついたのだ。私は静かに微笑みを送ることしか出来なかった。

 カガチ様が止めるのも道理である。戦争中に魔法力の減少や肉体の脆弱化を起こしてしまう虹色軟膏は使えないのだ。しかし、それ以上の問題があった。そもそもとして使いたくても使えないのだ。


 魔法力の一時増加----むしろ通常は抑制していると考えることもできる----を普段使わないのには訳がある。殺し合う必要がないので致死レベルの火力になるからというのも理由の一つだろう。しかし問題はもっと別の話であった。魔法力の増加に肉体がついていけないからだ。

 魔法力によって強化された動きの負荷に肉体が耐え切れないのだ。そのため全身の筋肉が裂かれてしまう。骨も複数個所でヒビが入るなどの骨折を起こす。

 過剰な強化による負荷も含めて魔法力が肉体の許容量を超えてしまう。これによって一時的に魔血病と同様の状態に陥るようだ。それもかなり重度の魔血病である。内臓などにもかなりのダメージを受け、しかも治りもかなり遅くなる。怪我を負えば治るどころか悪化さえする。その状態が相当期間続くのだ。そして最悪の場合、死に至ることさえある。

 いわば魔法力の一時的な増加は捨て身の必殺技なのだ。

 その様な特殊な状態に陥っている肉体を虹色軟膏で無理に治せばリュートの二の舞となる可能性が高い。故に虹色軟膏は使えないのだ。


 それでは何のために虹色軟膏を取り出したのかというと、やはり使うために取り出したのだ。ただし使う相手はカガチ様ではなかった。

「おい! 何をする気だ!」

 私がやろうとしていることに気がついたのかカガチ様は色をなした。

 その時の私は生々しいフローラの死体を触り、まだ温かさの残っているのを確認した。彼女の肉体に命の残り香を感じていたのだ。

「無視をするな! 馬鹿なことは止めるんだ!」

 私はカガチ様の言葉に耳を傾けなかった。カガチ様にとって面倒な相手が復活する。だから止めているという程度にしか思わなかった。

 私は軟膏を大量に掬い砕けた首の骨に這わせる様に入念に塗った。カガチ様の深いため息が聞こえたが構わずに塗り続けた。


 祈るような気持ちで待ち続けること数分。フローラの表情が僅かに動いた。青かった顔色にもいつしか血色が取り戻されていた。蘇生に成功したのだ。私は単純に嬉しかった。王国と北方の民の戦争など私には関係がない。十年間苦楽を共にした相手が死ななくて済んだ。その事実だけで充分であった。

 フローラは目を見開いた。同時に半身を跳ね起こした。流石の彼女でも事態の把握には暫しの時を要したようだった。一拍空けて、カガチ様や私、そして千里眼の魔法で散々に覗いてきたであろう内装から、彼女は自身が捕らわれの身であると判断したのか後ろに飛び退くように起き上がり身構えた。

 しかし間をおかず自身の身に起きた異変に気がついたのだろう。首を擦った後、信じられないといった表情で両の手の平を見つめていた。

「首の骨が折れていましたので治させていただきました」

 フローラは焦点の合わない目をした。

「アタシの魔法力がないのもアンタの仕業?」

「ええ。正確には治療に使った虹色軟膏の副作用です」

 フローラが一瞬怒ったようにみえた。しかし、それはすぐに悲しみ、恨み、絶望、ありとあらゆる負の感情が深いレベルでない交ぜとなった視線にとってかわった。

「……アタシがなにをしたっていうんだい」

 視線の先に私を捉えて続ける。

「そりゃ殺される、それも痛めつけられて殺されるくらいの覚悟はあったし、そうなっても仕方がないこともしてきた。だからって……」

 フローラが唇を噛みしめる。当時の私には理解できなかった。少なくともその時は「今は辛いでしょうが生きてれば良いこともあるでしょう」と声をかけるくらいのつもりであった。

「リュートもあの吐血の中でこんな気持ちだったのかね」

 寂しく呟いたフローラは天を仰いだ。

「我が面倒を……」

「冗談ごめんだわ!」

 声をかけたカガチ様をフローラは強く拒否した。

「アンタは敵。どんなに落ちぶれたとしても敵に同情を掛けられるほど惨めな真似はしたくないわ」

 フローラは一転、胸を張って出口へと向かって行った。そして振り返ることなく私に最後の言葉をかけた。

「バトラー、さっきは言い過ぎたわね。アンタのことだから別に他意はないんでしょ。執事の穴との契約で自殺できないのがこれほど疎ましいとは思わなかった」

「その体では九伯家には戻れまい。どうする気だ」

 カガチ様がもう一度声をかけるが彼女は声を出すことなく後ろに向かって手を振った。



 カガチ様はメニチェを後にして一人歩くフローラを塔の上から見つめていた。

 そして私に対して明らかな非難を込めた口調で話しかけてきた。いや、むしろ詰問というべきものであった。

「お前と彼女の間に何があったか知らんがあまりにも残酷だ。あの武の極致に達するのは才能だけでは無理だ。尋常ならざる努力を続けたのだろう。それを奪うほどの恨みがあったのか? 幾らなんでもあれほどの戦士から魔法力を奪い無力な奴隷以下として生き続けることを強要することはないんじゃないか? 自殺ができないことを知ってたんだろ? 故郷には帰れず、魔法力もない。そんな若い女性がこれからどうやって生きていくのか? お前がやったことは魔法力や人間関係、社会的地位諸々の全てを奪いさり荒野に放り出すような真似だ。無事荒野を抜けて人里に至ったとしてもまともに生きていけると思うか? 拳を交えた相手だけに想像するのさえ辛い。ましてあれほどの戦士に……」

 カガチ様は私の行動を酷く誤解していた。いや、フローラの認識もカガチ様に近かったように思える。私の行動はあまりにも軽率だった。


 私はなにも考えていなかった。

 ただフローラに生きていて欲しかっただけなのだ。

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