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俺TUEEEのに無力です  作者:
バトラーの見る夢/後編
41/82

北方戦争5

 結果から言うとゴーレムの殲滅は間違いだった。これはこの戦いにおける最大の分岐点の一つだったのだ。ここの選択如何によって後の歴史や私の立場は大きく異なったはずである。


 九伯家はこのゴーレム投入に家運をかけていた。幾重にも施された魔法や結界、魔晶石に代表される希少な物質、オート・セミオートの術式といった高度な魔法技術が必要等々、戦闘用ゴーレムは一基で城よりも高価であった。そのゴーレムを1800基用意し、追加分の準備も終わらせていた。

 これは九伯家をもってしても多大な出費である。しかし彼らの予定では実力を見せつけたゴーレムの販売や占領する北方の富、上昇した王国内での影響力や地位によって問題なく回収できるはずだった。

 この戦いの目的の一つはゴーレムの披露であった。それが諸侯を集めた主な理由の一つだった。極めて強力な北の蛮族をゴーレムが打ち倒すことによってゴーレムを持つ者と持たぬ者に身分を再構成し、かつ、そのゴーレムを九伯家が管轄する。これにより新社会制度は九伯家が決めることとなるはずであった。実はゴーレムは魔法を使えない北方蛮族用に特化してあるため魔法に弱い。そのため九伯家は第一段階で対ゴーレム戦闘ができる者、すなわち魔法を使える者と使えない者を厳格に峻別する予定だったのだ。さらに第二段階で対魔法強化を施したゴーレムを発表することにより、その対魔法抵抗を問題としない大貴族とその他という社会構造にするはずだった。

 この数十年をかけた九伯家の戦後さえも見据えたゴーレムを中心とした構想は、私の『拡散執事ビーム』によって儚くも溶け散ってしまった。


 九伯家はこの戦争に三つの勝利を想定していた。

 一つはゴーレムのみの被害で北方蛮族を降伏させることだ。これは彼らが想定した最上の結末である。ゴーレムにより各集落を破壊していくことで心を折る作戦だった。拠点を壊していく分には鈍足は問題とならず順番に踏み潰せるのだ。軍勢による牽制でカガチ様をメニチェに拘束すれば、援軍を出せぬ北の民の集落はなすすべもなく破壊される。住む場所を失った北の民は、魔法を使えぬこともあり土地の造成や住居の建築に手間取りメニチェに逃げ込むざるえない。メニチェには全国民を収容し養う能力はなく、たとえそれを強行しても巨大になった都市の外縁部までは守り切れないという算段の上で、その後はちょっかいをかけながら包囲するという計画だった。

 包囲に失敗する、または包囲しても降伏しない場合の勝利パターンも考えていた。この場合、鈍重で実際の戦闘では相手に逃げられるゴーレムでは決め手に欠け、最終的には人間を投入して決戦を挑むことになる。そこからさらに二つの想定があった。一つは動員した貴族の力を使うケース。もう一つは九伯家の力のみで屈服させるケースである。

 北方蛮族と正面から戦えば多大な被害が出ることを九伯家は知っていた。従ってこの二つの間での上策は他の貴族の戦力を投入する方であった。ライバルの貴族たちの戦力を落とし、自らは新たに得た北方の領地と新兵器ゴーレムと無傷の騎士団によって圧倒的な優位を確保できるケースである。この前提には終始戦争を優位に運ぶ必要があった。そうしなければ様子見の貴族達が九伯家の為に率先して血を流すことがないからだ。

 想定上最も好ましくないケースは九伯家が単独で北方蛮族と戦わなければならないケースだ。この場合はたとえ勝てても九伯家に甚大な被害が出る可能性が高かった。北方の地を得る代わりに九伯家自慢の武も失ってしまえば元も子もない。よって、これは九伯家としては極力避けたいケースであったが、諸侯に檄を飛ばした手前、場合によっては考えざる得ないケースだった。

 そして私が招いたケースは三つ目のゴールのさらに下であった。自慢のゴーレムは集落の一つも破壊せず一分程度で融解された。超高級品にも関わらず、たとえ相手がバトラーとはいえ、一瞬で300基が破壊される脆弱さを諸侯に披露してしたったのだ。想定の前提が崩れてしまったのである。その様な状況では九伯家の為に血を流す家は存在しない。しかも不良在庫と化したゴーレムを大量に保持しているのである。私は彼らを自力でほぼ無傷の北方の民に勝利し富を回収しなければならない状況へと追いやってしまったのだ。


 もし私がゴーレムを破壊せずにいれば、九伯家の立てた想定の中で最上の通りに進んでいた可能性が高かった。そうすればあらゆる被害は最小限に収まったかもしれない。九伯家としても強力無比な北方の民を無傷で手に入れられればそれに越したことはなかったのだ。

 私はそのチャンスを台無しにしてしまったのである。



 ナウル伯勢の生き残りはゴーレム戦後に全員回収した。彼らは虹色軟膏によって傷は治った。しかし、これさえも悲劇の始まりであった。

 案の定捕虜たちの維持はメニチェの負担となりすぐさまに王国側への返還がおこなわれた。もっとも返還といっても何か交渉するわけではなく一方的に送り返したのだ。

 カガチ様は王国側が返還を拒むと考え----メニチェの補給負担を増やすのが作戦なので実際拒んだであろう----、貴族を先頭に歩いて帰らせた。そうしなければ王国側は攻撃した可能性が高いと考えたのだ。

 その返還方法が奏功し彼らは無事に王国側の陣地へと帰ることができた。しかし、それは意味のないことであった。なにせ彼らの大部分はそのまま処刑されてしまったのだ。

 平民たちは王国側にとっては補給の負担になるだけでなく、役立たずどころか混乱を招く不安要素に過ぎなかった。多くの貴族からすれば平民は『人』未満であり何の痛痒も憶えず処分(・・)したのだ。

 貴族に連なる者達が辿った末路も似たり寄ったりだった。基本的に全員主家筋によって処刑された。いや、その家の財産が没収された分だけ家族にとってはより厳しかったかもしれない----ナウル伯の領民は既に財産を没収されていたが----。処刑の理由は幾つかあった。主家を無視して勝手にナウル伯の軍勢に参加したこと、あまりに不甲斐ない戦いによって貴族と主家筋の恥を晒したことなどである。

 しかし最大の原因は魔法力を失ったことだ。これは虹色軟膏の治療による一時的な副作用なのだが、魔法力を失ってしまえば貴族とは認められない。一時的という話も彼らにとっては眉唾であった。むしろ“魔力を奪って無力化した”と考えたのかもしれない。こうなると変わり者でなければ自害を選んでも不思議がないほどに屈辱的な話となる。自死を選ばなくともよほど本人に人望があるか、あるいは逆に相手にされていないか、もしくは主家筋が存在しないなどの特殊要件がなければ、もはや平民以下の存在であり財産目当てや見せしめ等々の目的で処刑の憂き目にあったのだ。 

 当時の私はこのような結末を予測することすら拒否し、純真無垢なことに彼らの帰還を無邪気に喜んでいた。

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