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俺TUEEEのに無力です  作者:
バトラーの見る夢/中編
32/82

カガチ対スチュワート

 残すは決勝戦のみとなった段において、運営側は明日への持越しを決定した。既に日が暮れており時間がなかったのが最大の理由である。

「それでは残りは明日ということで……」

「おい、待て!」

 その決定にカガチ様が異議を申し立てた。

「さっきの中途半端な試合でたぎるこの気持ちはどうなるんだよ!」

 カガチ様の一方的な申し立てに運営側の人間が顔を見合わせた。

「それは明日発散して頂くということで……」

「あ!?」

 カガチ様は恫喝したつもりはないだろうが、周りはそのように受け止めた。強面の大男で雰囲気もある。無理もない話であった。

「……」

 運営側は困り果てて顔を俯けた。試合とはいえ、バトラーに勝利した人間から恫喝を受けたのだ。

「それほど時間はかかりませんから、今日のうちに終わらせましょう」

 運営側に助け舟を出したのはスチュワートであった。

「時間はかからないって……まさかお前もさっさと降参する気じゃないだろうな?」

 カガチ様はスチュワートの言い方が気に入らなかったようで憮然とした表情であった。

「さぁ? それよりもご自分の勝敗の心配をした方がよろしいのではないでしょうか?」

 対するスチュワートは涼やかに微笑んだ。するとカガチ様は心底楽しそうに大笑いを始めた。

 こうして決勝戦が始まったのである。


 戦いは一瞬の睨み合いの後に超音速の攻防から始まった。攻防の一部始終を目で追えたのは会場内にはそれほどいなかっただろう。恥ずかしながら当時の私は確認できない側であった。

 カガチ様が右拳を突き出すとスチュワートは紙一重でそれをかわし、数撃の連打で反撃を打ち込む。連撃とはいえ、一撃一撃は非常に重く、その衝撃と低い音が会場全体に伝わる。カガチ様はその連撃を意に介することなくスチュワートを殴りつけようと左の拳を振るう。が、その時にはスチュワートは後ろへと下がっていた。


「おいおい。こんな攻撃じゃ時間がかかって仕方がないぞ」

 カガチ様は平然としており、動きが見えなかった者達からするとスチュワートの攻撃を受けたとは理解できなかったことだろう。事実、カガチ様が言う通り、効いていなかった。理由は幾つかある。

 一つ目は魔法力の絶対量の圧倒的な差。スチュワートは王国で最大クラスの魔法力の持ち主だが、それでもカガチ様と比べると遥かに少ないのである。

 二つ目は戦闘技術の違い。王国の戦闘技術の肝は魔法力の応用である。単純な打撃戦においては魔法力の移動や分配による強弱でより大きな威力を発揮させる。また、魔法の発動も魔法力の応用である。一方でカガチ様は魔法力の応用はしない。いや、できないと言うべきだろう。戦闘において魔法力の移動はしないし、魔法も使えない。単に魔法力を身にまとって戦うだけである。圧倒的な魔法力を有するが故に可能な戦い方であった。また、魔法力を一瞬だけ多く利用する術も持っているらしい。これは文化と民族の違いが影響しているのだろう。

 魔法力を戦争と威圧という政治手段として利用してきた王国と純粋に戦闘を楽しむために利用してきた北方の文化の違いといえる。北方民族は下手に魔法力を分配すると遊びの組手で死ぬ事故が多発する----攻撃力が高まる一方で防御力が下がるのが原因である----が、魔法力を娯楽ではなく現実的な手段として利用してきた王国ではより殺傷力を高める魔法力の分配が発展したのである。

 また、北方民族の対王国戦においては魔法力において圧倒している以上は分配で攻撃力を強化する必要はなかっただろうし、分配した場合はむしろ弱点が生まれて倒されるリスクの方が高まる。その為に北方では王国とは逆に魔法力の応用技術がほとんど発展しなかったのだと考えられる。

 それはとにかくとして、三つ目の理由として、スチュワートは防御と移動に魔法力の大部分を割いており、攻撃に利用している魔法力の割合は多くなかったことである。確かに攻撃に魔法力を割けばカガチ様にダメージを与えられるが、一方で拳がかするだけでも致命的なダメージを負いかねない。このような場所で博打を打つ必要がないのでスチュワートの判断は正当なものだろう。しかし、それによってスチュワートの攻撃ではカガチ様に有効打を与えられない状況となったのである。

 この一瞬の攻防でもっとも被害を受けたのは観客席であった。カガチ様の拳圧や音速を遥かに超えた二人の動きから生ずる衝撃波が観客席を破壊したのである。特にカガチ様による被害は甚大であり、観客席の一部が完全に崩壊してしまった。それでも死傷者が出なかったのはこの世界の人間が尋常ではないのに加え、カガチ様が「偉そうにしてる連中----いわゆる上級貴族----の席が壊れる様にした」からだろう。


 通常の打撃では意味をなさない以上、スチュワートの次の手は魔法であった。だが、カガチ様もスチュワートにばかり攻撃はさせない。スチュワートとの距離を詰めると拳を振り下ろした。あまりにも真っ直ぐで単純な動きであったために、カガチ様の動きに対応できるスチュワートはなんなく再び距離を置くが、カガチ様の拳は止まらない。拳は会場の石畳を強く叩きつけた。同時に凄まじい振動が辺りを襲い、叩きつけられた地面は大きくへこんだ。地盤が歪められた闘技場は観客席諸共斜めになり、方々の壁が引き裂かれた。

 さすがの異世界人もここまでの衝撃や崩壊は予想していなかったのか、ところどころで悲鳴が聞こえる。軽いパニック状態と表現してもよいだろう。そんな観客席の喧騒をよそにスチュワートは冷静であった。

 カガチ様が突如火球に包まれたのである。スチュワートがゴーダをリタイヤさせた魔法である。あの時と違うのは火力である。カガチ様の足元の石畳の欠片が熱せられて液状化を始めていた。それにも関わらずカガチ様は涼しい顔であり、苦しむどころか嬉しそうな笑みさえ浮かべていた。この魔法がゴーダに使ったのと同じ魔法ならば、次に来るのは爆発である。爆発の衝撃に耐えられないと判断した当時の私は準々決勝と先ほどの上半身喪失で散布したナノマシンを利用して、エネルギーの侵入などを一定程度遮断できる薄い膜を試合会場を円筒状に包む形で作り出した。闘技場には貴族ではない観客も多い。その人たちも爆発から守るためにはある程度の高さが必要だった。そのため筒の高さは16mに及んだ。

 その巨大な円筒に気が付いた人は多くはなかった。しかし、数少ない例外には試合をしている二人が当然含まれた。膜の形成と同時に二人は私の方を見たのだ。彼らは誰がそれを作ったのかも見抜いていた。だが、それがなんなのか理解したのはスチュワートの方が速かった。私との付き合いの長さが影響したのだろう。膜の役割を瞬時に見抜いた彼はすぐにそれを利用する作戦を打ち立て、淀みなく実行に移していた。


 脚力と風の魔法によってスチュワートは飛んだ。そして上空からやはり風の魔法を撃ち込む。大量の空気を円筒に押し込むように送り続けたのである。カガチ様を包んでいた火球は大量の空気の中に溶け込み、その様はグラスの底に紅蓮の液体が溜まっているかのようであった。スチュワートが送り続ける空気は圧縮を続け、試合会場の地面を強く押す。その力は闘技場全体を強く揺らし、不気味な地鳴りを辺り一帯に唸らせるほどであった。その超高圧の炎の海でカガチ様はスチュワートの次の一手を待ち続ける。それはゲームに夢中な子供の様であった。

 遥かな上空で試合会場の空気を限界まで圧縮させたスチュワートはまるで指揮者がダクトを振る様に右腕を上げた。すると会場は凄まじい揺れに襲われた。空気の圧縮を止めたのだ。いや、止めるどころか逆に押し上げることまでしたのだろう。抑圧から解放された空気は円筒を勢いよく駆け上がっていく。同時に炎も天へと昇って行き、それはまるで炎の間欠泉であった。

 膜は臼砲の筒の役割を果たし、中の物を外へと大量に巻き上げた。この引っ張る力によって闘技場全体が地震に襲われたのである。筒の外に吐き出されたものは炎に限らない。液体と化した石畳やその下の土砂に岩盤、その上で王者然と君臨していたカガチ様さえも例外ではなかった。

 カガチ様は闘技場の彼方へと放物線を描いて打ち上げられた。スチュワート念入りなことに依然として火球の魔法を解いてはいなかった。火の玉は花火か投石機で打ち上げられた燃えた藁の玉のようであった。あるいはUFOなどと表現されるかもしれない。


 スチュワートの場外勝ち。

 カガチ様は魔法が使えないのでスチュワートの様に風を操り浮くことができない。それを知っていれば誰もがそう思ったことだろう。それを知らない者たちでさえスチュワートの勝ちを疑う者はいなかった。大歓声と万雷の拍手がそれを証明していた。しかし結果は違った。

 火勢が弱くなったかと思ったら、赤い尾を引いて火球が試合会場へと戻ってきたのである。カガチ様が炎諸共空気を吸い込み、それを一気に吐き出して空中での動きを制したのである。そこには物理法則などというものは存在しない。ただカガチ様の存在のみがあるのだ。これは同様に物理法則を無視している魔法の世界の住人達からしても奇異で信じられないものであったようだった。先ほどまでの喧噪が嘘の様に静まり返っていた。


「ただいま」

 カガチ様は散歩から帰ってきたかのようにそう言った。その身を包んでいた炎は粗方肺腑に収めたのかすでに火の跡形はない。ところどころ焼けた衣服と全身に付いている煤が火球の名残であった。

 唖然とする観客の中、もう一人の主役はさして驚いた様子も見せずに静かに笑っていた。

「参りました。私の負けです」

 突然の敗北宣言を審判団は受け入れようとしなかった。

「バトラーが勝てなかった相手に私が勝てるとでも思っているのですか?」

 間をおかずに発せられた質問によって、審判団もスチュワートの敗北宣言を受け入れるしかなかった。


「今度はこんな狭い場所じゃなくて、お互いに全力を出せる場所で本気で戦おうぜ」

 スッキリとした表情のカガチ様がスチュワートに声をかけた。

「お断りいたします。命あっての物種でございますから」

 スチュワートは微笑みながらそう応じていた。


 無傷の二人に対して闘技場周辺は瓦礫の山となっていた。それでも死者どころか重傷者すら出さなかったのはこの世界の住人らしい話である。しかし、この大会以降はルールが変わった。魔法は禁止され、勝ち負けは特殊な武器を利用した仮想魔法力の削り合いで決めることとなったのである。ルールが変わった原因もこの世界らしい理由であった。もちろん多少なりとも怪我人が出たからではない----それが原因ならボルグ様が出場者を切り刻んだ時点で変更されている----。それでは闘技場に留まらず周囲の建物に被害が出たからか? これも否である。理由は「埃を被って不愉快だった」そんな有力貴族が一人いたからだ。その貴族はすぐに専用の特殊武器を開発し、ルールを整え、魔法力から仮想魔法力を設定する方法を編み出したのだ。これが中級・上級以上の貴族に受けて----秘伝の魔法を公開しなくて済む点も大きかったのだろう----彼らも参加する様になったという。お嬢様が参加した大会もそれであったのだ。

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