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俺TUEEEのに無力です  作者:
バトラーの見る夢/中編
28/82

ブトウカイの始まり

「これは私にとっては理想的な組み合わせですなぁ」

 トーナメントの発表を目にしたスチュワートが漏らした言葉だった。

 私とスチュワートは決勝まで当たらない組み合わせだったのだ。

「バトラーの名に恥じぬ戦いを期待しております」

 スチュワートの言っている戦いは決勝のことではない。私はカガチ様と準決勝で当たる組み合わせだったのだ。彼はこの準決勝、カガチ様との戦いのことを指しているのであった。

 カガチ様の実力は九伯家の隠蔽工作により一般には全く知られていない。世間では九伯家と争う蛮族の族長程度認識である。それはそれで『武』の九伯家と争えるのだから凄まじく強い蛮族ということである。それは間違いでない。しかし、執事の穴に伝わっていた情報は一味違うものだった。

 その出来事はこの時よりもさらに遡ること十五年前のことであった。九伯家は蛮族征伐の為に北方辺境伯の騎士団を差し向けた。当時の騎士団長は執事の穴の出身者である。正確にはマルスやフローラと同じく準出身者であったが、実力は彼らと同様正式な出身者に引けをとるものではないとされていた。むしろ執事ではなく騎士という道を選んだだけあって、こと戦争に関して言えば、並みの執事の穴出身者よりも上回っていた可能性もある。

 この戦争のプロは当時の族長を打ち倒して北方蛮族の征服まであと一歩に迫っていた。そこに登場したのがカガチ様である。当時六歳程であった彼は一撃でかの団長を殴り殺し、戦況を一変させた。慌てた九伯家側は和平を申し出て二十年間の停戦期間が結ばれ今日へと至るのである。

 この顛末を知る者は執事の穴などに在籍しており特殊な情報を得られるか、千里眼の魔法で直接覗いていた一部を除いては九伯家の力によって一切秘された。世間的には、五分以上の戦いであったが長期化やバトラーの死去によって団長が執事の穴の教官として派遣された----実際はその前に戦死している----から停戦となったとされている。この隠蔽には執事の穴も協力したらしい。出身者があっさりと倒されたとなると権威が傷つくためだろう。

 ともあれ、カガチ様は世間的には九伯家と戦いながらも停戦にまで持ち込んだ強力な蛮族の指導者であるが、事情を知る者にとっては世界最高峰の実力者を一撃で屠る恐るべき存在であったのだ。おそらくだが、九伯家ゆかりのマルスとフローラが優れた才能を執事の本旨たる個人技に注ぎ込まず、執事の穴としては邪道ともいえる連携技の方に注力していたのも九伯家の宿敵である対カガチ戦を意識したものだったのかもしれない。


 大会自体は恙なく進んだ。私がカガチ様と対戦するのは準決勝である。そこまでの問題は力加減であった。この世界の住民は魔法力の影響で望むようなダメージを与えようと自然に加減ができる。しかし私の場合は相手に合わせて適度な攻撃をしなければ、全く通用しないか逆に殺してしまうのである。

 そこで私がとった方法は先に相手に攻撃をさせ、それと同量の衝撃なりのエネルギーを相手に与えることであった。幸いにもこの大会レベルの相手はそこまで速くはない。しかも攻撃するには踏みとどまって力を入れる必要がある。ならば、攻撃を受けて、そのエネルギーを無効化しつつ、掌を相手に触れさせて、衝撃を放つ。魔法力の移動速度が不十分な未熟な相手であるから、ほとんど防げずに大ダメージとともに退場するのであった。遠距離から魔法を放つ者に対してはそれを平然と受けながら----もちろん時空コンピュータとナノマシンで無効化して----接近するだけで、相手が勝手に恐れて降参するのである。バトラーの名による威圧効果だろう。逃げに専念されると追い付けず、触ることさえ困難な私にとっては非常に助かる話であった。

 スチュワートは開始早々に軽い爆発を起こして対戦相手を圧倒して駒を進め、カガチ様に至っては相手に息を吹きかけて場外へと押しやっていた。


 先ほどは恙ないと表したが一人だけ異色の人物がいた。ナウル伯ボルグ様である。彼はサーベル片手に対戦相手を切り刻んだのである。ボルグ様の残酷さと他の出場者との実力差は大会を知る者の間では知れ渡っており、対戦相手は当然ながらすぐに降参を申し出た。しかし、その申し出は大会運営者から却下された。この点も執事の穴の組手と異なる点である。審判に大幅な裁量が認められているのだ。確かに賞品や運営費等を提供する貴族の娯楽であり、一部の者は賭けとして楽しんでいる中で簡単に負けを認めさせないのは一理あることだろう。しかしボルグ様の場合は少し違った。相手の鼻を削ぎ、両目をこする様に切り、耳を剥ぎ、肉を切り刻み、雨のような出血を起こさせても、相手の降参を認めないのである。

 その理由は単純なものだった。ボルグ様が大会の大支援者の一人であること。例えば私の目当てである『転移石』もボルグ様が用意したものであった。この支援者が自分の趣味を妨害されない様に念入りに運営者や審判団に対して賄賂も贈っているのだろう。かくしてボルグ様の悪趣味な殺戮劇を止める者はいなかった。

「もうよろしいのではないですか?」

 もっとも、それは私が参加する前までの大会の話であった。


 思いもよらぬ横槍にボルグ様の手が止まった。同時に興奮と悦楽で爛々と輝いていた瞳に暗い影が落ちる。運営側はスポンサーであるボルグ様の趣味とバトラーの権威の板挟みとなり、どちらの考えを優先すべきか決めあぐねているようだった。

「諸君らの判断の方がバトラーの判断よりも正しい自信でもおありですかな?」

 そこにスチュワートの一言である。

「……ただいまの試合はボルグ様の勝ちといたします」

 抵抗する気を失った審判団は即座に勝負の勝ち負けを決定した。納得できないのはボルグ様であった。舞台の上から私を睨みつけていた。

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