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俺TUEEEのに無力です  作者:
バトラーの見る夢/前編
18/82

ファロス

 最終試験は三か月間に亘って繰り広げられた。

 口頭で歴史・政治・地理・文化・礼儀・作法・経済・魔法・貴族の家柄・王家に関すること等々様々なことに関して微に入り細に入り聞かれ、それについて即答しなければならない。これは時と場所を選ばない。例えば寝ている横で気配を消した教官が小声で聞いたとしてもすぐに、しかも完璧に答えなければならないのである。

 もっともこれは序の口である。満点でなければ話にならないレベルなのである。しかし、私にはわからなかった。当然、時空コンピュータを使ったカンニングで答えていたのだ。ファロスやカイトや対してはなんとも申し訳ない話だ。

 他にも礼儀作法の実技、これは普段からの所作である。これも時空コンピュータを利用した。時空コンピュータは基本的に動きの再現等は苦手である。しかし、一定の行為に対して、あるいは一定の行為をする際に決まった動作を正確に再現するといったことは可能だった。もちろん、臨機応変さの欠片もないし、つぎはぎともいえるぎこちなさはあっただろう。しかし、箸にも棒にも掛からぬというレベルではなかったようである。

 料理というのもあった。料理は材料などによって一つとして同じものがなく、道具も違う。従って動きの再現による調理はできない。いや、そもそも再現すべき動きができなかったというべきだろう。それではどうしたか? 例の創造である。幸いにも料理は一人で作る機会が与えられる。そこで主にファームル伯で出された伝統的貴族料理を再現したのである。また貴族料理とは魔法力を減らす処理こそがその本質であると理解してからは『山菜汁』や『魚汁』なども創造して提供してみせた。

 他にもお茶の淹れ方というのもあった。これも時空コンピュータで相手の体調を測りながら最も望んでいるだろう温度・濃度で提供をした。つくづく時空コンピュータ頼りであり、その様な不正の手段をもってカイトやファロスと争ったのである。


 そして最終試験である組手の前にそれまでの暫定順位が発表された。

「一位ウマ、二位ファロス、三位カイト。なお、これは試験のみの順位で今までの評価は含まれておりません」

 教官の発表に対してカイトが挙手をした。

「異議あり」

 カイトは静かな口調で続けた。

「ウマさんが一位であるというのには納得ができません」

 それに対して教官は予想通りと相槌を送る。

「ウマ君の修辞は機知に欠け、礼法には優雅さがありませんでした。カイト君の申し立てはその点ですね?」

 教官の確認にカイトは無言で頷く。

「なるほど。確かにその点を重視すれば納得できないのも道理でしょう。しかしながら、機知や優雅さには好みも入りますので加点対象とはなりますが、それに欠けるからと落第にはならない。この点はよろしいですかな?」

 教官の確認にカイトは再び無言で頷いた。

「ウマ君はそれらの減点を遥かに超える加点があったから一位なのです。まず料理。提供した材料からは作りえない伝統的で正統な貴族料理にとどまらず、庶民料理を貴族向けにアレンジした各地の名物料理の数々は不可能と考えられる水準です。そして提供される茶は相手に応じて完璧に調整されていました。さらに先ほどの修辞においても最近の流行や聞いたことはないものの納得させられる言い回しなどの新進気鋭の手法を取り入れている点も評価しました。これらの点は先ほどの欠点を補って余りあるものだと思っております」

 現在は使われていないが将来的に、十数年後には使われる言い回しを“納得させられる言い回し”と教官たちは評価していた。

「バトラーに新たな手法は必要でしょうか? バトラーとは常に王道、正道を歩むべきではないですか?」

 カイトの意見に教官は首を振った。

「そのような議論は我々の間でもありましたが、カイト君の考えは執事の範疇を越えた好み、思想の押し付けです。主が新しい考えを求めてもそう言って拒否をするのですか? 我々は執事が主の求めに応じない、応じられない方が問題であるとの結論に至りました」

「しかし……」

「順位を決めるのは貴方ではなく我々です」

 教官はなおも食い下がるカイトをそう言って黙らせた。

「それでは一つだけいいですか?」

「どうぞ」

 発言を許されたカイトは慎重に口を開いた。

「先ほど仰った『補って余りある』とは、バトラーとして(・・・)欠点を補って余りあるということですか?」

 教官たちは顔を見合わせた後に、そのうちの一人がゆっくりと言葉を選ぶように返事を返した。

「危惧する点は理解しました。バトラーは完全無欠にして比類なき者が原則です。しかし、ウマ君のは完全ではありませんが欠けているというほどではなく無欠と言えるでしょう。過去にも特定分野が苦手なバトラーはおりましたので、ウマ君がバトラーになれないというわけではありません。……ただし、これは極めて大きなハンデであり、過去の例においても苦手を大きく補える何かをもっていて、それまでの成績含めて誰もが納得できる者がバトラーとなっております。」

 カイトが私がバトラーになれるかどうかを気にしたのは、バトラー不選出による十年の拘束を嫌ってのことだったのだろう。カイトが3位になったのも、ファロスをバトラーにするために、あえて低い点数を取った可能性が高いのだ。


「カイトの申し立てが一段落ついたところで私からもいいですか?」

 タイミングを見計らっていたファロスが挙手をした。

「明日からの組手の試験ですが、私は棄権します」

 教官は目を丸くし、カイトはファロスを睨みつけた。

「できれば理由を教えてくれませんか?」

 教官の一人がファロスを問いただす。

「そうですね、カイトに心身を破壊させられては困る。……と、言うのでは駄目ですか?」

 当時の私を除けば誰一人として納得しない答えであった。

 カイトが片八百長をしてでもファロスを勝たせようとしているのは私を除けば誰の目からも明らかであった。さらに言うとファロスがカイトによってそこまで一方的な試合を展開させられると考えている者もいなかっただろう。後にファロスの本気の戦いを目にすることになるのだが、それはゴーダに負けていた試合の動きとは完全に別物であった。ゴーダがあのまま成長していたとしてもあの領域達していたとはとても思えない。それどころか成長著しかったフローラにすら劣っていた可能性さえある。ではフローラは本気のファロスに勝てるかというと、本気を出していないファロスにすら勝てないだろう。それほどの違いがあった。

 それではカイトとファロスのどちらが強いかというと、これについては正直に言ってわからない。歴然とした差があるのかもしれないし、ないのかもしれない、例えば何の知識も持たない者が第二次大戦中のドイツのティーガー戦車と日本の最新式戦車である10式を見比べたらどう思うだろうか? より大きく重く、車高が高くてごっつくて、立派な主砲が付いているティーガー戦車の方が強そうと感じることだろう。この例えに則れば、両方とも戦車であり素手の人間では歯が立たないことは理解できるし、武器であるから新式の方が基本的には強いということはわかるが、どちらが新式かはわからない。私の判断能力では今の段階でもそれが限界である。時空コンピュータを利用してシミュレートしようにも双方の情報が足りないし、私自身の能力で考えようにも、音速を軽く超えた攻撃を繰り出し、連撃後の拳の温度が断熱加熱によって300℃を越え、かつ、その温度に関しては平然としているような超人達のどちらが強いかなど私に想像がつくはずがないのである。


「それではこんなのはどうでしょう?」

 納得していない周囲に対してファロスは新たな理由を示した。

「ウマさんの本気を見たい」

 ファロスは本気なのか、本気だとしたら正気を疑う理由を続けた。

「カイトにバトラーになられては困るのは教官の皆さんだけ(・・・・・・・・)ではなく、ウマさんも同様なのでしょう? 仮にカイトが勝てば……彼の実力なら間違いなくバトラーに選ばざるを得ないでしょう。もしウマさんがカイトのバトラー襲名を防ぎたいのならば本気で戦って勝たないといけませんね。さすがに本気を出さずに勝てるほどに甘い相手ではありませんから」

 ファロスはからかうように小さく笑った。

 思えばファロスは初めからバトラーになる気がなかったのであろう。そうだとすればゴーダに対して実力に見合わない負け越しを喫していたのも説明がつく。あえて比類ある(・・・・)者を演じてバトラー襲名を回避しようとしていたのだ。ファロスがそんな真似をした理由は幾つか考えられる。例えば次期バトラーの見極めやバトラーが世に出ることそのものの妨害ということも考えられる。自分がバトラーになりたくない理由は、自らの主がバトラーを召し(・・・・・・・)抱えることを(・・・・・・)望まない(・・・・)というケースもあるだろう。貴族間のパワーバランス上あり得るのだ。バトラーの名跡はそれほどの重さがある。なんにしても想像しても仕方がない話である。


 いずれにしても、かようにして組手は私とカイトのみによって行われることとなったのである。

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