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俺TUEEEのに無力です  作者:
バトラーの見る夢/前編
14/82

フローラのマルスのファロスがゴーダでリュート

 執事の穴では様々なことを学んだ。武芸百般は執事の嗜みと昔言われたが、なるほど、それにふさわしいものも学んだ。棒術を主に剣術、槍術、鎚、弓に徒手、その他見たこともないような武器も含めて様々なものを学んだ。それらに関する種々の流派に亘る知識と実技についても学んだ。習うことは各流派の基本技らしいが時空コンピュータには各流派の奥義に関する情報も蓄えられていた。学んだのか見たのか闘ったのかはわからないが何時かの『私』が経験したことなのだろう。なんにしても、その流派に関して知るたびに時空コンピュータの情報が開示されていった。

 武術に関する情報を得たからと言ってその様に動けるかというと、それはまた別の話である。時空コンピュータの示すがままに動くものの、やはりこの世界の人間とは種の違いがある。この世界の住人、それもトップクラスの人材の動きとは比べ物にならない。速度が段違いなのである。ところが、それをどう勘違いしたのか「あの様にゆっくり、かつ、正確に動けるのは完璧に習得しているからである」などと教官連中に感心される始末であった。


 執事の穴で学ぶことは武術に関することだけではない。神話、歴史、地理、政治、各貴族の血統、礼儀作法、修辞、料理、地方ごとの文化、方言、その他も諸々のことを次々に叩き込まれる。新たなことを知るたびに時空コンピュータから様々な情報が送られ”座学上は完璧”であった。もっとも知っていることとできることは大きく違い、動きも求められる礼儀作法には大変な苦労をした。一方で自動で翻訳される修辞学は楽であった。これに関しては、一から、それこそ海岸の砂を山頂に持ち込み砂の城を作るような苦労をして一語一語を積み上げていき、それを完成した先人である『私』たちの努力の賜物である。頭が下がる話だ。


 なんにしても、もし時空コンピュータの記録がなければ考査において答えられることは何一つなかっただろう。いや、答えられずに退所処分となった方が好ましかった。私の身に起こったことは、カンニング同様の不正な手段で執事の穴に残り、バトラーを望んだ者たちの夢を踏みにじった罰として仕方がないだろう。だが、私への罰だとしたらあまりと言えばあまりな現実が存在していた。

 一方で当時の私は現実に起きていることを露ほども知らず、カンニングで申し訳ないと思いつつも、完璧な回答であると褒められて気分が良くなっていた。


 執事の穴では当然ながら魔法も学ぶ。もっとも魔法力を持たない私には意味のわからないものであったし、そもそも努力を嫌う世界においては魔法の理論は碌に研究されていなかった。それでも『私』達の集めた情報や経験と合わせればぼんやりと形は見えてくる。おそらく魔法とは『魔法力』を介して『なにか』を『働きかける』力である。その力は『強化』、『変化』、『操作』の三つに大別でき、多くの場合はそれらが複合して発動していると考えていいだろう。

 例えば一番単純と考えられている『発火』、『爆発』等の『火炎系の魔法』であるが、これは魔法力を利用して酸素や水素に『強化』と『操作』働きかけている可能性が高い。『催眠』なら『睡眠物質』に働きかけてその働きを強くする方法や『他の物質』に働きかけて『催眠物質に変化』させる、あるいは直接『眠る様に操作』するのかもしれない。先代バトラーが私にやったのは『肺内の空気の操作』と『私の横隔膜の操作』であったのであろう。私自身には魔法力は存在していないはずなので、おそらく呼吸などで体内に溶け込んだ魔法力を使ったのだろう。もっとも推測に推測を重ねているのに過ぎないのでもっと別の方法なのかもしれない。もっとも推測が正しければ『あり得ない変化』によって『創造』する時空コンピュータの動きは先代バトラーが断言したように『魔法ではない』のである。地下室に沼を創り出したのも同様に不可能なのだ。もしあれが屋外であったのならば、地下水脈などの地中の水分や大気の水蒸気を操作して沼を『作った』と理解されたかもしれない。それならば私を襲撃した暗殺者ギルドの一人が水蒸気や地中の水から水弾や氷柱を『作り出した』のと同様に可能なのである。


 執事の穴では魔法の実技もある。もっとも大部分の魔法は各貴族の家の秘技となっている。したがって実技で使われる魔法は極一般的な『火炎系の魔法』や簡単な『水の操作』等々の限定的なものであった。魔法力を持たず魔法も使えない私は初めこそ大苦戦であった。しかし、魔法の形がぼんやりと理解できてからは最も苦労しない実技の一つとなった。執事の穴の地下空間は朝の走り込みの汗と組手で散らした血肉によって拡散したナノマシンで満たされていた。地下空間はもはや私の肉体の一部とも言えるレベルで掌握されていたのだ。当然、触らずに火を起こすなどは簡単な話だった。分子を揺らして熱を起こしても良いし、酸化による発火を起こしても良い。必要なら酸素ごと創ることができた。水も分子レベルで操れる。ほとんど完璧なレベルでできた。それを見ていた教官や同輩たちも完璧であると思っていたようだった。優れた技術は魔法の様であるとよく言ったもので、技術によって魔法と同様の現象を起こしていたのである。早い話がペテンである。使えもしない魔法をさぞ使えるような顔をしていた。それも与えられたに過ぎない技術を我が物顔で得意になって使っていたのだ。それによって誰かが幸せになったのだろうか? これによって生まれた不幸は大きなツケとなって『私以外の者』が払うことになってしまったのではないか? 夢の中で自慢気な表情を見せている愚か者を殴りつけてやりたかった。


 執事の穴の独自の技も習った。例えば『縮地』である。距離を瞬時に縮める執事の基本技にして奥義とも称される技である。『縮地』の練習は候補者の絞り込みがほぼ終わる入所1年後から始まった。この『縮地』の理屈はわからない。おそらく『魔法』と同じく魔法力の『働きかける』力を利用している可能性が高い。しかし、それではなかなか説明が困難である。だからこそ先代バトラーも『縮地』が『魔法』であるとは考えたことがなかったのだろう。『魔法』と考えれば『空間』に『働きかけて』一種のワームホールを作るのだろうか? ただ『働きかけ』の先は『物質』であることが基本なので、もしそうなら例外ということになるだろう。『魔法』でないすると『魔法力』そのものに『空間』に働きかける性質があるとも考えられる。そう考えれば高い魔力を含有する『巨大な魔晶石』こと『転移石』がタイムマシンの利用や瀬野悠馬の召喚に必要なのも説明ができる。


 この『縮地』の練習方法であるが、壁の向こうに移動するというものだった。極めて難易度が高いらしい。らしいというのは、当然ながら私にはそんな手品じみた真似はできないからだ。執事の穴入所一年以降の候補者達の脱落原因の大部分はこの『縮地』であった。そもそも出来ずに落第するか、半端に成功して壁に埋まるなどの大怪我が原因で退所するかという次第であった。

 地球人には真似できない『縮地』であったが、私は『縮地』の天才で通っていた。『縮地』を偽装する方法ならいくらでもあった。例えばナノマシンで満たされた地下なので離れた場所に肉体を再構成してもいいだろう。この地下空間の私は『どこにでも居るし、どこにも居ない』ことが可能だったのだ。そしていつ存在し、いつ存在しないかも選択できたのだ。だが、当時の私が使った方法はもっと単純なやり方だった。素直に壁をすり抜けたのだ。“ナノ”とは名ばかりの物質として存在しているかも怪しい微小なナノマシンを利用すれば『壁の間』を抜けていくことなど容易だったのである。

 肉体を原子レベルに分解し、時空コンピュータとナノマシンを利用して壁を構成する分子の隙間を電磁力を無効化して“抜ける”という方向性を持って移動し、再び結合する。確率に依存することなく確実に原子を運ぶ。そして再構成する。ただそれだけ(・・・・・・)の話なのだ。なにも粒子で通り抜けようという話ではない。もちろん粒子レベルでの通り抜けも可能なのだろうが、そこまでする必要はなかったし、なにより私が私でなくなるようで嫌だったのだ。

 早々に『縮地(・・)』に成功し、それのみならず過去のいかなるバトラーよりも長距離を移動した私が天才扱いされるのは当然の話だった。

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