神の存在証明 1
二つの世界がまざり、あぶれた世界は神にとりこぼされた。
いつしか掃除するものがいなくなり、ヴェラムと呼ばれるそこは空気が穢れた。
彼らはそれに気が付かないまま、今日も世界を回すのだ。
「ヴェイム、今日はどんなの考えたんだ?」
「えっと……魔法が使えない主人公が実はすごい魔法使いの生まれ変わりで、
嫉妬したやつに魔法を封じられていたって最終回でわかる話」
「お前は魔法使えるのによく違う立場の主人公を考えつくよな」
「創作者になるなら客観視は必要だからね。女体化主人公とかはなってみないと、さすがに再現ムリだけどさ」
人を殺したことがないがミステリーは好きで書くし、勇者だろうと魔王だろうと主人公にする。
「モテたことねーのにハーレム書くくせに」
「言うな。ほら、キャラデザのデータ送っといたから」
魔法でも何でもない機械を使ってヘタクソながらもラフを描き、絵の得意な友人に再現してもらう。
魔法学校なのに近年は科学でできた機械ばかりで遠隔の授業が行われるし、便利すぎる時代なものだ。
「魔法は才能のないやつには使えないしな」
「神様が使えるやつを選んでるんだろ。俺のサーモンピンク髪は創造主サマと同じ色だし」
「ほんとにいるのか? 神様って」
神様の存在を疑う友人に、背筋が凍ってしまうような、おぞましい空気に教室は飲まれた。
この世界では、特に首都では神様が絶対見ているという強迫観念があり、居ないといえば罰が下る。
「お前そんなこと聞かれたらまずいぞ。放課後で俺ら二人だといえど、
最近は盗聴器っていうのがあるんだから」
「そんな心配するくらいなら、魔法だけでよかったよな」
「まあ、たまにほかの世界の存在を考えたことはあるよ」
この広い宇宙で我々のような知的生命体が存在しないのはおかしい。
「フン……あるわけねぇ」
「ロノヴェル」
二人きりだと思っていたが、窓辺にいた男に聞かれていたらしい。
販売されたばかりの新型短倫科学車に乗って夜中に徘徊している不良生徒。
魔法が使えるものの、不良は謹慎期間は魔法を制限されておりホウキ通学はできない。
よって徒歩か馬車、科学車になるが不良に親が車を出すのはほとんどない。
「絡んでくるなんてめずらしい。よほど神はいるとアピールしたかったんだね」
幼少期から高等まで腐れ縁ながら、あれは別の世界があるのを期待しているような顔をしていたとわかる。
逆に言うと神の存在はないと言いたいが、通報人の目を気にした彼なりの隠喩であろう。
「その知ったような、観測者みてぇなノリやめとけよ。理屈っぽいやつはモテねぇぞ」
「男子校でモテても困るっつの」
奴は眉を潜めながら短倫で浮遊して去った。
「モテモテのワルは言うことがちげーな」
「図星突かれて悔しかったんだな」
◆
「女子に学校でアイタイ」
「家で我慢しろよ、寮の学園よりマシだろ」
「せやかてヴェイム」
「?」
ホウキで連れ立って飛行していると、何も使わず空中を飛行する少女がいた。
背中に翼がある、あれは天使というものなんだろうか?
「なんだよ何もない空を見て」
「いま天使がいた」
「怖いこと言うな」
「なんだよ神の存在証明だろ」
「そっちか……天使いたとか、頭が変になったのかと」
「神の存在など、今はもはや過去。かつて存在したことは認めよう。
しかし、現状は不在であることは明白なのだった」
いきなり声が聞こえてきて、振り向くと細身の青年が縦でホウキに寝そべっていた。
男は本を顔にかぶせて、視界を閉ざしながらキープしているので、相当な使い手であろう。
その近くには、あっけにとられて口を開ける少女がいた。
「かわいい」
「話かけたらだめだろ」
神の存在を否定する発言を、だれが飛行するともわからぬ往来で平気で口にするのは彼らが違法組織のメンバーである証拠だ。
「行くぞ」
「ああ」
「おもしろいね」
「?」