到着、人形園
翌日、ミロンの武器を取りに行ってすぐ、彼らはトラックに乗り込んだ。
ミロンはトラックの荷台にて、ドナドナの気分を味わっている。
余程、ノーネームと鉢合わせるのが怖かったのだろうか。ノーネームを知る者たちは、喜び勇んで特殊調査依頼を受けた。
逃げるような気持ちで、今はトラックに乗っている。
「ねぇ、ノーネームさんって、そんなに怖いの?」
「ああ。あいつは頭がおかしい。花火が最強、祭子が最硬だとしたら、あいつは最速だ」
「花火さんより速いの?」
ツェツィーリヤは静かに頷いた。
花火は一歩を十歩に変えるという、最早瞬間移動じみた移動法を取る。それを超える速さというのは、もう何かよくわからない次元である。
「それにあいつは戦闘好きだ。目を付けられると、容赦無く叩きのめされるぞ」
会いたくないなぁ、とミロンは心底そう思った。
ネリーとエレノアが同時に溜息を吐いた。おそらく、ノーネームに出会い、戦闘を挑まれたのだろう。
哀れなことである。
暗い雰囲気を払拭する為に、ミロンは隣に座るアリアへと目を向けた。
彼女は巨大な武器を手にしていた。
ミロンとて男の子である。
武器には人並みの憧れがあった。
「アリア、その武器は何?」
異様な見た目の武器である。
それは槍のような見た目をしていた。しかし、ただの槍ではない。
アリアが丁度収まりそうな棺、その下部分に長大な柄を無理矢理つけている。
「この武器の名前は『主人に捧げる我が墓票』でございます」
「へぇ。独特なセンスだね」
「寝過ぎ女に名付けて頂きました」
武器の名前であるグレイブは、もしかするとダブルミーニングなのかもしれない。お墓という意味とグレイブという種類の槍。
その二つを意味している可能性がある。
その巨大な棺は、見方によっては槍としてのグレイブに見えなくもない。
アリアが柄を無事に握られていることから、武器全体に『高嶺の荊』が貼られていることがわかる。
というよりも、纏わせることができるのかと、ミロンは驚いた。
正確には纏わせている訳ではない。
だが、結果的にミロンにはそう見えていた。
「でさ、どんな武器なの?」
「はい。ただただ重いだけでございます」
アリアらしかった。
けれども、武器を持ったことにより、アリアは強くなったのだろう。
リーチも伸びた上に、重量級の武器だ。破壊力も増したに違いない。
欠点があるとすれば、メイド服に致命的に似合わないことであろうか。言えば、アリアのメイドとして誇りを傷付け、更には勢い余って武器を捨ててしまうかもしれないので、ミロンは何も言わない。
「というか」
ミロンは『主人に捧げる我が墓票』を見やる。
「それの所為じゃない?」
さっきからトラックの進みが妙に遅い。というよりも、今にも壊れそうであった。
おそらく、アリアの武器が重過ぎるのだ。
アリアが重いとまで言うのだから、相当な重量なのだろう。
ツェツィーリヤもそれに気が付いたようで、怒声を上げた。
「寄越せ! 戦闘時には返してやるから!」
「これは御主人様に捧げた力ですのでそれはできません」
「ミロン!」
何故か、ミロンまでが怒鳴られる。
「トラック壊す気か!」
「アリア、ツェツィーリヤに渡して上げて」
かしこまりました、とアリアがツェツィーリヤに向けて武器を差し出す。ツェツィーリヤがそれを収納すると、ようやくトラックが順調に進み始めた。
「そういえば、ミロンさんもおにゅーの武器っすね」
「そうなんだよ」
ミロンの武器はハルバードとスティレットであった。
ミロンの武器には、両方とも青い金属が使われている。強度はあるのだが、不思議と軽い金属である。
ハルバードの方には、柄の部分にバインダーがはめ込まれている。ミロンが魔法使いであるという点を考慮した工夫であろう。
柄の部分や刃の一部には、美しい宝石が嵌められている。その宝石には、魔印が刻まれていた。
『操作』用のものと『喚起』用のものである。
使われた金属のお陰だろうか。見た目程の重さはない。多少の扱い辛さはあるものの、完成度の高い武器である。
一方で、スティレットの方はシンプルであった。ハルバードとは異なり、軽さと鋭さのみを追求されているようだ。
はめ込まれた宝石も『操作』用の一つだけである。
ただ鋭い機能美が、そのスティレットには宿っていた。
「兄様がハルバードというのは意外ね」
「結構良い感じに使えるんだよ?」
「兄様が大きな武器を持つとかなりのギャップがあってかわいい」
「不本意な評価だ」
そうやって雑談をしている内に、目的地へと到着した。
そこは果樹園であった。
溢れんばかりの緑が生い茂り、爽やかな空気が優しくそよぐ。その空気に乗って、柔な甘い果実の香りもやってくる。
無数の大樹が乱立していた。その枝の梢に可愛らしい人形がなっている。
どの人形も、ファンシーな帽子を頭に乗せている。
「着いたようね、人形園に」
見渡す限り、木と人形で満たされた光景が、そこにはあった。




