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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
弑虐の王はかく語りき
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その名は、恩寵の一撃

 スティレット。

 それは刺突武器である。


 ただ対象を貫き通す為の武器である。このタイプの武器は『創り者』とは相性が良くない。


 何故ならば、『創り者』や『壊れ者』は四肢を捥がれても動けるのだから。

 身体に穴が開こうと、戦闘不能には陥らない。


「あは」


 ミロンの放ったスティレットによる刺突は、見事にもう一人のミロンを貫いていた。

 敵が人間ならば、既に絶命させていたことだろう。


 しかし、相手は『創り者』である。いや、自称『紛い者』であった。


「きみとの相性は良さそうだけれども、武器としては……」


 それはミロンも理解していた。

 即座に引き抜き、更に高速の突きを放つ。


 もう一人のミロンはすぐに対応し、スティレットの刃を手刀によって弾く。

 その攻防は徐々に速度を上げていく。


「は、速い!」


 ミロンの刺突があまりにも速かった。巧みに手の動きと手首の動きを連動させ、時には敢えてタイミングを外し、多彩な突きが放たれる。


 もう一人のミロンは、蛇に絡みつかれたかのような感覚を覚える。

 対応しきれず、微かに皮膚を薄く裂かれる。


 血が舞った。


 それはミロンのものであった。

 追い詰められていたもう一人のミロンが、本気を出してきたのである。


 剣によって逆袈裟に切り払われたミロンだったが、彼は一歩も引かなかった。


 前に踏み込み、スティレットを放つ。

 それが剣によって受け止められると、そこから更に踏み込んだ。


 鍔迫り合いを避け、常に距離を置いて、剣を放つ。金属の音が無数に奏でられる。


 ミロンともう一人のミロンは絶えず位置を交換し、半ば駆け抜けるかのように剣を交えていた。


「良いね。良いよ、ミロンくん! きみに合う武器は、それだ。でもね。あは、その攻撃力のなさをどうするんだい?」


 ミロンは無言で新たな武器を手にした。

 それは捨てたハルバードであった。


 ハルバードによる強引な薙ぎ払いを行う。スティレットによる攻撃を想定していたもう一人のミロンは、ハルバードを真っ向から受けてしまう。

 想定外の威力に押し込められた隙に、ミロンがスティレットを突き立ててくる。


 その一撃は、又もやもう一人のミロンの体内を穿った。


「だからさ。スティレットじゃあ、僕は……」


 呆れたように、もう一人のミロンは言葉を続けようとした。

 が、それはできなかった。


 もう一人のミロンは、完全に絶句していたのだ。


「これが最初の一歩さ」


 ミロンの瞳が紅く、煌めいていた。その紅は、紅というのには、あまりにも濁っていた。

 まるで鮮血のような赤であった。


 ドロドロの鮮血色は、それでも爛々と輝いており、思わず目を奪われる。


 その独特の色は、もう一人のミロンの専売特許『弑虐ノ法』が発動していることを示していた。


「『恩寵の一撃(グナーデ・シュラーク)』!」


 ミロンの慟哭にも似た叫びが木霊する。

 もう一人のミロンは苦笑いを浮かべた。何と、皮肉な技名だろうか、と。


 スティレットが体内に侵入し、そしてもう一人のミロンの中に溢れる魔力にすら触れてきた。

『弑虐ノ法』が発動し、もう一人のミロンの体内の魔力が掻き混ぜられる。


 この応用は、もう一人のミロンがアルルにトドメを刺した方法であった。


 魔力が暴れ始める。その勢いは加速度的に増していき、やがてもう一人のミロンの皮膚を食い破る。

 もう一人のミロンの肉体が、爆散した。


「ぼくにはまだ他者を守れるような強さは手に入らないのかもしれない。力尽くで言うことを聞かせることがやっとなのかもしれない。でも、ぼくは」


 諦めないよ。


 ミロンの言葉を耳にして、もう一人のミロンが大きく笑った。普段の失笑ではなく、全力での笑いだ。


「それにしても、良いね。あの技に、あんな名を付けるなんて」


 ミロンの宣言をまったく意に介さず、もう一人のミロンは嘲笑う。


「何、『恩寵の一撃(グナーデ・シュラーク)』ってさ。『弑虐ノ法』の応用技なのにさ」


 恩寵と弑虐。

 意味的には、真逆と言っても良いだろう。


 弑虐とは、主君を殺すこと。

 恩寵とは、主君の恵みである。または、慈しみ。


「……パッと頭に浮かんだんだよ!」


 恥ずかしそうに、ミロンは言う。


「あは。で、これがきみの優しさなのかい?」


 もう一人のミロンは、まったく痛みを感じなかったのだ。

恩寵の一撃(グナーデ・シュラーク)』は見た目こそ派手で残酷ではあるが、その実、痛みはなかった。


 体内の魔力をかなり奪われ、その上に肉体まで破裂させられる。

 食らえば、敵はまず戦闘不能にできるだろう。


「僕ならさっきの一撃で殺せていたけどね」


 ミロンはまだ『弑虐ノ法』の制御が甘い。いや、わざと手加減したのだろう。


 もう一人のミロンが同じことをすれば、壮絶な痛みと死を与えるだろう。もちろん、死とは比喩である。


「ぼくが望むのは、人を守れる強さだよ。これは最初の一歩に過ぎないんだ」

「……まあ? 結局、『壊れ者』は壊すしかないんだけどね。救う方法なんて、ないのさ」


 ミロンもそれはわかっている。

『壊れ者』は救えない、と。


 けれども、救いたいのだ。どうやって救うのかは、わからない。それでも、ミロンは誰も不幸にしたくはない。


 できることならば、全員と笑い合いたいのだ。


 だから諦めない。

 方法を探し続ける。


「方法が判明するまで、その『恩寵の一撃(グナーデ・シュラーク)』で敵を壊し続けるんだ」


 クーマは昔言っていた。

『壊れ者』になったときは、動けなくして貰うことが一番の救いであると。

 まだ、ミロンはそれ以上の結論に至れない。


「慈悲の一撃を与え続ける訳だ?」

「ぼくにはまだ何もできない。でも、それしかないのなら、ぼくはそうする。いつか、答えを見つけるまで」

「あは。そういうのを口だけって言うんだよ?」


 ミロンは返事をしない。

 口だけで反論したって、口だけには変わりがないのだから。


 ミロンの瞳を見て、もう一人のミロンは失笑を零す。


「じゃあ、好きにおし」

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