表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
弑虐の王はかく語りき
95/113

所詮、彼は裏側だ

 夢の世界で意識を奪われるという稀有な体験をしたミロンだが、彼は現在起床していた。


 夢の中で意識を失うと、目が醒めるようだ。


 しかし、ミロンの精神は未だに回復しない。


 それもその筈である。

 痛みを感じ易い状態のミロンが、眼球に指を入れられた。その上、脳味噌まで弄られたのだ。


 その痛みと不快感は、経験したことがない程の精神的苦痛をミロンに与えた。


 ミロンの手足は、まだ痛みを思い出して痙攣を繰り返す。目の焦点も合わずに、ミロンには世界が震えているように見えた。


「兄様、起きたの?」


 今にも『壊れ』てしまいそうなミロンの頭上から、甘く優しい声が降り注いだ。

 それはネリーの声である。


「……凄い汗ね」


 言われて、ミロンは気が付いた。異常な程の汗が流れていた。

 ベッドのシーツが一部変色している。汗により濡れて、色が変わっているのだろう。


「嫌な夢を見たの? もう大丈夫よ。兄様は起きているわ」


 ネリーは愛おしげな手付きで、左手でミロンの胸を摩り、右手でミロンの頭を撫でていた。


「あ」


 ミロンの瞼の奥で、赤い炎が灯った、ような気がした。ミロンはその炎に手を伸ばし、そして、やっとという感覚でそれを手にした。


 炎は手に掴むと消えてしまったが、その代わりにミロンの意識がようやく安定を迎えた。


 その時、ミロンはまた膝枕をされているということに気がついた。


「ネ、ネリー! どうしたの? 何、この状況」

「兄様が寝ていたから」

「や、やめてよ! 恥ずかしいって!」


 慌てて身体を起こそうとしたミロン。

 しかし、身体を起こそうとした勢いで、そのまま頭の近くに存在したネリーの胸へと顔を突っ込んでしまった。


 柔らかい、ふんわりとした、ふかふかの感触に顔が襲われる。ミロンの眼鏡が弾かれて、ベッドの上に落下する。


「ごめん!」


 起きるのを諦め、ミロンは転がって膝枕から脱出した。

 転がっていた眼鏡を拾い、装着する。


 ネリーの顔を伺うと、彼女は顔を真っ赤に染めて、視線を泳がせていた。


 怒っているようではない、とミロンは安堵した。


「そういえば、ネリー。修行は?」

「今やっているわ」


 ネリーがドアの方へと視線を向ける。

 そこには、ネリーの髪がゲーム機に噛り付いている光景が見えた。炎の灯っていない髪が、ゲーム機のボタンを恐る恐るという感じで押し込んでいる。


「何をやってるの?」

「ゲームよ」


 端的な返答であったが、それが全てであった。ネリーのいう通り、彼女はゲームをしているだけであった。


 本当にそのようなことで強くなれるのか、とミロンは疑問に思うが、口には出さない。


「エレノアもやっているの?」

「ええ」

「で、ツェツィーリヤは?」

「彼は今、道具を揃えているわ」


 なるほど。

 ツェツィーリヤはサポーターがメインである。道具の数こそが、彼の力となるのだろう。


「アリアは?」

「彼女は武器を作っているわ。祭子のゲームを人質にして、武器を作って貰ったそうよ。今は、何処かの機人(オート)に使い方を教わっているのでしょう」


 みな、確実に強くなろうとしている。

 ゲームはよくわからないが、それでも強くきっと強くなっている。


 ミロンだけが停滞する訳にはいかない。


「ありがとう、ネリー。きみのお陰で、ぼくは諦めれなくなった」

「それは良かったわ。で、兄様は何をやっているの?」

「ぼくは寝る!」

「頑張るんじゃなかったの? 兄様、祭子は寝ているから強い訳じゃないのよ?」

「とにかく、おやすみ!」


 ミロンは枕を抱き締め、そのまま瞳を閉じる。ネリーの視線を感じて中々寝付けなかったが、暫くすると夢の中へと落ちた。


「ズルい!」


 もう一人のミロンの第一声は、そのような言葉であった。


「ミロンくんだけズルいやい! 僕だって、ネリーちゃんに膝枕されて、うっかりおっぱい揉みしだきたかった!」

「うわぁ」

「ドン引くなよ! きみの行動だぞ」


 ミロンの白い視線を受けて、もう一人のミロンが怯んだ。初めて、ミロンは一矢報いた形となる。


「……あは。さて。嫉妬の思いも込めて、今度は飛び切りの意地悪をするよ?」


 ミロンは改めて、床を転がっているハルバードを手にした。


「あれ? 重い!」


 さっきは軽々と扱えていた筈のハルバードが、今はとても重く感じられた。


「ミロンくん。きみは力を無意識のうちにセーブしているんだ。その無意識を意識的に解除できなきゃ、きみにはその武器は扱えないぜ」


 槍を手に向かってくるもう一人のミロンに対して、ミロンはハルバードを薙ぎ払う動作を繰り出した。

 幾ら非力とはいえ、武器を振ることくらいはできる。


「遅い」


 もう一人のミロンが、ミロンの背後に回り込む。あまりにも早い動作で、ミロンは目で追うのがやっとであった。

 だが、問題はない。


 冷静に、ミロンは石突きを背後へと放った。


 石突きとは、言うなれば穂先の反対側。つまりは、刃のない方の、柄側の先端部分である。


「悪くない動きだね、あは」


 ミロンの放った石突きは、掴まれていた。引き抜こうにも、地力が違い過ぎる。諦めて、ミロンはハルバードを手放した。


 そして、距離を取る。


「中々良い動きをするようになったね。『操作(スポールト・ザカース)』があれば、今のは当てられたかも」

「よく言うよ。手加減してる癖に」

「当然」


 ミロンともう一人のミロンは膠着状態に陥った。いや、正確には待たれているのだ。

 ミロンが新たな武器を手に取るまで。


 その暇を埋めるように、もう一人のミロンが口を開く。


「この世には、何事も表があれば裏がある。何かを得る為には、何かを捨てなくちゃならない」

「……」

「僕は裏の存在さ。捨てられた側さ。それは何故だか、わかるかい?」


 ミロンは答えない。

 代わりに、もう一人のミロンが答える。


「それは、僕が弱かったからさ」


 あまりにも強大な存在は、自嘲するように、自身を弱いと定義した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ