けど、それは似合わない
ミロンの眼球に、真白な指が突き立てられる。その指は全てを貫き、脳にまで達した。
脳味噌が直接弄られる。
それはまるでハンバーグをこねているような手付きであった。瞳の中から滝のような血液が溢れ出す。
その場で一度、ミロンが倒れた。
だが、もう一人のミロンは微笑みを浮かべながら、ミロンの髪を掴む。そして、無理矢理に叩き起こした。
「弱いね、ミロンくん」
「あ……あ。ああ」
ミロンの手足は壊れたように、異様な痙攣を繰り返している。
「きみ、よく瞳が痛むよね? 僕の『弑虐ノ法』には、そのような力はないんだ。察知系の力はない」
では、どうしてミロンの瞳は、敵が現れる度に痛んだのだろうか。
その答えを、もう一人のミロンは歌うように語る。
「きみが弱いからだよ」
もう一人のミロンは、ミロンと鼻がくっつく距離で言葉を続ける。ニヤニヤとした、いやらしい口元であった。
「僕の能力は、視界内の全てが対象になるんだ。そして、範囲内に敵が入ろうとすると、それだけで瞳が反応する」
例え、敵が地下にいようとも、能力の範囲にさえ入れば、瞳が反応する。その対象を瞳に捉えることによって、『弑虐ノ法』は発動する。
「きみは能力の負荷に耐えられないんだ。いやぁ、気付かなかったね。『弑虐ノ法』で探知ができるなんて。僕にとっては、その負荷はないようなものだから」
言葉が終わるのと同時に、ミロンはその場に捨てられる。ミロンは本能で、近くにあった武器を手にした。
「おやおや! それはハルバード!」
ミロンが引き抜いたのは、ハルバードであった。
ハルバードとは、ポールウェポンの一種である。
槍に斧のような刃を付け、その反対側に突起まで付けた武器だ。
槍のように突くこともできるし、斧のように刃で切り裂くこともできる。突起の部分で相手を殴打することもでき、その突起は相手を引っ掛けて転倒させるフックともなる。
柄の部分を上手く扱えば、棒術の道具としても扱えるだろう。
しかし、これだけの機能を一つの武器に集めただけあって、かなり重い。
多彩な機能は、かなりの修練を必要とする。
一朝一夕で身に付けられる武器ではないのだ。
故に、もう一人のミロンは鼻で笑う。
「戦う気、あるの?」
もう一人のミロンは呆れつつも、追撃を開始した。一息でミロンへと迫る。
鋭い手刀が放たれた。
と、同時に、もう一人のミロンの手が吹き飛ばされていた。
「……あっは」
ミロンの行ったことは、あまりにも単純であった。力尽くで、ハルバードを振るっただけである。
反撃を予期していなかったもう一人のミロンは、あっさりと手首を寸断されたのだ。
ミロンの瞳は、虚ろであった。
まるで壊れたかのような、病的な瞳である。
「ふむ。精神的に追い詰められて、力を制御できていないようだね。やはり、きみの神々の死体は凶悪だ」
薄ら笑いを浮かべつつも、もう一人のミロンが武器を引き抜いた。抜いたのは、刃が潰れた長剣であった。
「遊戯を……いや、ゲームをしよう。僕は僕だから、遊戯という言葉はあまり使いたくないのさ。……あは」
先に動いたのは、ミロンであった。彼は獣のような咆哮を唇から絶え間なく放ちながら、ハルバードを振り被る。
対するもう一人のミロンは、ゆったりと剣を構える。
武器と武器が勢い良く激突する。
そこから鍔迫り合いに派生する、ともう一人のミロンは考えていた。だが、そうはならなかった。
ミロンはハルバードを器用に動かし、突起の部分を剣に引っ掛けた。そのまま、一気に弾き飛ばす。
剣が、宙を舞った。
「壊れつつも、ある程度の理性も残っているのか」
もう一人のミロンは困ったように、自身の頭をか 掻いた。
「手加減の匙加減、難しいね」
もう一人のミロンはできる限り手加減をしていた。理由は簡単、武器の適正を確かめる修行だから武器を扱わせないとならないからだ。
もう一人のミロンが本気を出せば、ミロンは何もできないだろう。それでは意味がない。
もう一人のミロンは、別にミロンを苛めることが目的ではない。約三分の一くらいは苛めることが目的ではあるが、残りの三分の二は本気で修行をつけている。
拷問のような仕打ちをしたのも、ミロンの神々の死体の力を引き出す為である。
事実、現在のミロンはハルバードを軽々と振り乱し、もう一人のミロンを追い詰めている。
「ああああ!」
刃の部分を使用した、全力の薙ぎ払い。
もう一人のミロンは身を屈めて、それを回避する。しかし、ミロンは止まらない。
勢いを殺すことなく、その場で回転した。遠心力の乗った一撃が、再びもう一人のミロンを襲う。
「速い」
慌てるようにして、もう一人のミロンはその場から飛び退いた。
ミロンのハルバードは虚空を切り裂く。
「……」
ミロンはそのままハルバードを頭上で回転させる。器用に何度も持ち替えて、頭上でハルバードを躍らせた。
加速度的に、ミロンのハルバードには重みが増していく。
もう一人のミロンは、下手に近付くことができなくなった。
しかし、
「まだ甘いね」
もう一人のミロンは、床から生えていた一本の短剣……スティレットを抜くと、それを投擲した。
手先が消えたのかと錯覚させる程の高速の投擲は、一瞬のうちにスティレットをミロンの手首へと命中させていた。
「遠距離からの攻撃も想定しないと。待ちの一手は、僕の前では愚策だよ」
ミロンがハルバードを落としてしまう。
「意外に適性があったね、ハルバード。でも、やっぱりナヨナヨ系に大きい武器は似合わないや」
ミロンは十分にハルバードを使いこなしていた。だが、もう一人のミロンは、ミロンに最も適性のある武器ではないと結論をくだした。
「もっと、きみは凄い筈だよ。良い武器にさえ巡り会えたのなら、僕に本気を出させるかもね」
実力差があり過ぎた。
ミロンはそこで気力が尽きて、意識を完全に奪われた。




