まだ、彼らは弱過ぎる
「申し訳ございません。祭子様はお休みのようですので、また後日いらっしゃってください」
執事型の機人は、そう告げると祭子をお姫様抱っこで持ち上げた。
執事は優し気な手付きで、祭子のリボンをサッと解いてしまう。祭子のポニーテールが崩れ、長い髪が揺れた。
「待て! 今、俺たちはギルドに指名手配されてる。失踪者も見つけたし、誤解を解いてくれ」
ミロンたちが第三ドームに害をなしに来た存在だという誤解を解いて貰わねば、下手に外を出歩くこともできないだろう。
執事は畏まりました、と返事をする。
「しかし、現在は祭子様の『高嶺の荊』がギルド周囲に張り巡らされておりますので、それも明日に。今夜はギルド内でお泊まりください」
本来ならば、今すぐにでも誤解は解いて欲しい。だが、祭子のことがまったくわからない。
変に機嫌を損ねれば、第二ドーム奪還に力を貸してくれないかもしれない。兄である花火がいるというのに、寝てしまうのだから。
下手に刺激はできないだろう。
ということで、ミロンたちは今日話すことを諦めた。
しかし、一方でそれは幸いなことでもあった。ミロンたちには疲労が残っていた。
精神的な疲労である。
それを癒す為に、休むことは中々の上策である。
「でも、あれから何日経ったんだろう」
第二ドーム脱出から、既に数日の時が経過していた。ミロンには第二ドームがどうなっているのか、想像もつかない。
もしかすると、第一ドームのようになっているのかもしれない。
「それに花火さんたちは……」
「ミロン。あんまり考えるな」
ツェツィーリヤが冷たい声を作り、ミロンへと浴びせてくる。それは冷静さを取り戻させる為の行為であろう。
「うん」
その日はできるだけ何も考えずに、大人しく休むことにした。
さて、翌朝。
ミロンたちは早速祭子の元へと向かった。
このままでは、ナルーによって外に追い出されたアリアとも合流できないからだ。
ネリーは慣れた様子で、祭子の部屋へと向う。
「そういえば、ネリー」
ただ歩いているというのも暇なもので、ミロンたちはついつい口を開く。
「ネリーは色んなドームの人たちを知ってるね。しかも、祭子さんって偉いんでしょう? よく知り合えたね」
「ええ。私は六星長候補だから」
何気なく、ネリーは答えた。
だが、その場にいた全員が足を止めた。
「マジっすか」
「いや、ネリーは強えけどよ。でも、六星長は盛り過ぎだろ……同じアラハ系で、もっとヤバい爺さんがいるしよ」
「花火さんクラスだよ?」
ネリー以外の全員が、ネリーを疑ってかかる。彼女は時折、分かりづらいギャグを放つが、これもその一環なのだろうか。
「候補よ。潜在能力でいえば、花火クラスだそうよ」
現在の実力ではなく、将来的な実力を加味して、六星長候補に選ばれたのだろうか。
それならば、納得がいく。
六星長になるかもしれない人材が、他のドームのことに対して無知ではやっていけない。
全員が納得して、再び歩き始める。
ネリーが花火クラスの潜在能力を持っている、というのは怪しい話だが、本当にそうだとしたら頼もしい。
「着いたわ」
ようやく、祭子の部屋に着いたようである。ネリーがノックしたが、それでも返事はやってこない。
祭子が返事をしてくれるとも思っていなかったようで、ネリーは勝手にドアを開いた。
そこにいたのは、仕事をしている機人たちであった。
ネリーは無言でドアを閉じて、ミロンたちから目を逸らす。目が泳いでいた。
「どうしたの?」
「……間違えたわ」
無言でネリーが隣の部屋をノックした。すると、昨日の執事型機人の返事が聞こえてきた。
ドアが開かれる。
「お待ちしておりました」
その部屋は祭子のものだったのだろう。第三ドームでは、様々な機械類が製造されている。
その中にはゲームも存在する。
祭子の部屋はゲームで溢れていた。
そのようなゲームの山の中で、祭子はベッドに寝そべりゲームをしていた。服は一切纏っていない。
「ん? ……やっぱり、服を着ようかな」
祭子がどんよりとした声音で呟く。それに答えて、執事の機人が寝そべる祭子に着物を着せていく。
そして、垂れていた髪をリボンで結び、ポニーテールを作った。
その間、祭子はずっとゲームをしていた。
彼女の瞳は雄弁に物語っている。自分で服も着れないし、髪を結べないのだ、と。
ミロンはその光景を見ることはできていない。ネリーに目を手で押さえられていたのだ。
祭子の準備が終わったようで、ようやく話し合いが開始される。
「で、祭子。昨日の続き……」
「ミロンくんはゲームとかやる?」
ネリーの言葉を完全に無視して、祭子はミロンに話しかけた。ネリーが寂しそうに肩を落とす。
「ま、まあ。嗜む程度には」
「ふーん。じゃあ、こうしよう。ボクの今やっているゲームのレベル上げを代わりにやって」
「お待ちください、祭子様! それは執事である私にお任せください!」
執事の機人が叫ぶが、祭子は口パクで駄目と告げた。祭子はふて腐れたように枕に顔を埋めた。
そして、ボソリとぼやく。
「ボクはデータ消されたの、忘れない」
「申し訳ありません!」
執事が謝罪するが、許す気はないようだ。祭子はふんっとそっぽを向きながら、ミロンに問う。
ミロンもそのくらいならば構わないだろうと、首を縦に振った。
「兄様……」
ネリーが哀れなものを見るような目で、ミロンを見てきた。
ツェツィーリヤが説明する。
「この女。どうせ、第二ドームの奪還も、ギルドの解放も、全部六星長はどちみちやらねえとならねえんだよ。交換条件を出さなくてもな」
つまり、本来は謝礼なしの案件に対して、謝礼を発生させたのである。
抜け目のないことである。
「ふふふ。頑張って喋った甲斐があったよ」
そう言うと、祭子は目を閉じて口パクで会話を開始し始める。
「失踪者の発見、並びにギルドの奪還の功績を称えて、ネリーチームには褒美を取らせる、と祭子様は仰っています」
「……あたしはネリーチームじゃないんすけど」
「ただし、ネリーチームには第二ドーム奪還作戦の協力を要請する、と祭子様は仰っています」
「無視っすか」
祭子の台詞|(機人が言ったのだが)を耳にして、ミロンは僅かにやる気を出す。
「でもまあ……」
祭子が自身の口で言葉を発した。
寝返りを打ちながら、ゲーム機をミロンへと投げる。
「正直、現在のネリーチームは弱過ぎるか」
と、祭子はそう判断するのだった。




