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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
弑虐の王はかく語りき
87/113

最後に、彼女は(☆)

今回、最後に挿絵があります。苦手な方はお気をつけ下さい。

「別に、舐めてないよ」


 ミロンはそうキッパリと告げる。しかし、ツェツィーリヤはミロンの考えに賛同してはくれない。


「ナルーは一度裏切った。俺たちを殺そうとまでした。それを仲間に加える? 馬鹿を言うんじゃねえ」


 ツェツィーリヤの言うことは正論であった。

 ナルーの能力は、実に厄介だ。仲間にしても、一度裏切った以上信頼することはできない。


 いつ乗っ取られるかわからない。

 いつ仲間が乗っ取られるかわからない。


 ナルーを仲間に引き入れるということは、リスクを背負うのと同じなのだ。


「でも、今回が初めてだし……」

「だから改心したかもしれない、と? ミロン。ここは人の世界じゃねえぞ」


 そう、ここは『創り者』の世界。

 情状酌量というものは、人間の世界が勝手に生み出した法に過ぎない。


 この世界に於いて、そのようなルールは存在しない。

 裏切り者は死ぬ。


 それこそがルール。


「だったら、エレノアは?」


 かつてエレノアはミロンたちに牙を剥いた。あれは裏切りではなかったのだろうか。


「あの時、エレノアは確実に手を抜いていた。目的は迂遠な自殺だった。確かに、迷惑はかけられたがな」


 つまり、エレノアには害意がなかったから仲間に戻した。ということだろうか。


 その点、ナルーには害意しかなかった。


「ナルーを仲間にするのには、確かにリスクがあるかもしれない。でも、仲間にしたときのメリットはどうなのさ?」


 ツェツィーリヤの言うことは正しい。

『創り者』の基本はリスクを軽減することなのだ。


 一方で、ミロンの言も正しい。

 リスクこそ大きいが、ナルーは仲間にさえしてしまえばかなり頼りになる。


 例えば、アルルを思い出して欲しい。

 触れたモノの勢いを全て止めてしまう能力。つまり、アルルには触れることができる。


 ナルーがアルルと頭をぶつけ合い、能力を起動したとしよう。

 後は、アルルの能力を切り、仲間にアルルの肉体を刻ませるだけで良い。


 それだけでアルルに勝利できる。


 相性というものがある。

 ツェツィーリヤが祭子に対して有利なように、ナルーも誰かに対して有利なのだ。


 ナルーを仲間にするということは、未知の敵に対抗する手段を一つ手に入れることと等しい。

 それは遠い未来のリスクを軽減することにも繋がるのだ。


「わかったぜ。この場合、俺とお前は相容れねえ。俺には男友達がお前くらいしかいねえからよくわかんねえけどよ」


 少なくとも、と言いながらツェツィーリヤは口から二丁のライフルを取り出した。


「俺が思うに、だぜ? 友達っていうのは、別に全ての意見が一致してなくても良いと思うんだ。で、相手が間違ってると思ったら、全力で止めてやる。こっちが間違っていたらそれを認める。どっちも合ってたら、互いに尊重し合う。それが、俺が考える男の友情だ」

「同意見だよ」


 ミロンも無言で教鞭を構えた。


 片方はナルーを壊す為。

 片方はナルーを守る為。


 彼らは友と刃を交える覚悟を決めた。


「行くぜ、ミロン!」

「来なよ、ツェツィーリヤ!」


 ライフルの引き金が絞られる。それにより放たれた弾丸は一瞬でミロンの右腕を吹き飛ばした。


 右腕ごと教鞭が吹き飛んだ。


「くっ!」


 苦悶の表情を浮かべるミロンに対して、ツェツィーリヤは冷淡にもう片方のライフルを放った。

 その弾丸は容赦なく、ミロンの眼球に突き立つ。


 苦痛からだろうか。ミロンが絶叫を上げる。

 そして、痛みに耐えかねて、左手の魔道書まで離してしまう。


 ように見えただろう。


「行って。『操作(スポールト・ザカース)』」

「お前は教鞭がねえと魔法が使えない筈。いや……」


 ミロンは教鞭を手に持っていた。

 左手にもう一つ、教鞭を隠していたのだ。魔道書のページに挟み込むようにして。

 ミロンは痛みによって魔道書を取り零した訳ではなかった。


 教鞭を振るいやすいように、地面に魔道書を捨てたに過ぎない。


 ミロンの眼前には、彼の華奢な肉体を隠すように、巨大な岩が『喚起(ヴィーゾフ・ザカース)』されていた。

 その岩の壁は、ツェツィーリヤの弾丸よりも早く打ち出される。


「やるな」


 ツェツィーリヤのライフルといえど、ミロンの壁にとっては豆鉄砲も同じ。

 幾ら撃とうとも、意味はない。

 そして、この速度。


 幾らツェツィーリヤと言えども、口からロケットランチャーを取り出して放つ暇などない。


 ミロンの勝利は確定した。


「と思ったか?」


 ミロンからでは見えないだろう。

 しかし、一歩引いた位置にいたネリーたちには見えていた。


 ツェツィーリヤがライフルを振り被る瞬間が。


 ツェツィーリヤはライフルの銃身をバットのように扱った。『操作(スポールト・ザカース)』を使用した銃身による殴打。

 それはミロンの岩の壁を真正面から打ち砕いた。


 破片がツェツィーリヤの頬を切り裂く。銃身が砕け散り、ツェツィーリヤの手元から消滅する。


 だが、ここで本当に勝負は決まった。

 ツェツィーリヤの手にはもう一丁、ライフルが残っている。それが素早くミロンへと向けられ、引き金に指がかけられた。


 弾丸がミロンの左腕すらも吹き飛ばす。


 雌雄は決した。


「すまねえ、ミロン。ナルーは壊す」

「さ……せない」

「ネリー、エレノア。ミロンを捕まえてやれ。これ以上やるなら、俺は容赦しねえ」


 ツェツィーリヤの台詞に、ネリーが頷いた。そのまま『命ノ灯(アラハ・ハール)』が作動してミロンの肉体を絡め取る。


「ナルー。俺も、本当はお前と仲間になりたかったぜ。でもよ、俺は万が一にも、仲間を危険には晒せねえ」

「……私は」

「悪い。遺言は受け付けてねえ。お前の台詞を引き摺ることはできない」


『創り者』の心は弱いのだから。

 彼女の台詞を耳にしたことにより、後々後悔することがあるかもしれない。


「……ごめん」

「こっちこそ、ごめんな」


 ツェツィーリヤが口から大砲を取り出して、それをナルーへと打ち込んだ。

 肉片が飛び散る。


 ナルーの顔面はぐちゃぐちゃに潰れてしまった。僅かに残った肉片には、ナルーの面影があった。

 鼻が吹き飛び、床に落ちている。


 先程までは生きていたのに。

 今はもう動かない。


 粉々になった所為で、動けないのだ。まだ、死肉を与えれば再生できる。

 しかし、そこに更に球が撃ち込まれていく。


 やがて、肉片一つ残らない惨状が生まれた。


「おい、ミロン。大丈夫か?」


 ナルーを始末した後、ツェツィーリヤは振り返りミロンの顔色を伺う。

 ナルーを壊す為に、ミロンが壊れてしまっては元も子もないからだ。


 ミロンは息を荒くしつつ、エレノアによって回復された右手で心臓がある場所を掴んでいた。


 ミロンとて理解していた。

 ナルーを助けるべきではない、と。


 先程のミロンの考えは、優しさなどではない。少なくとも、ミロン自身はそう考えていた。


 全員に対する優しさは、時としては誰よりも残酷なのだ。

 ミロンがやったことは、ナルー一人を助ける為に、今までの仲間を危険に晒す行為だったのだ。


 博愛は優しさではない。

 ミロンが行ったのは、ただの優柔不断な決断であった。彼には、人を切り捨てることができない。


 けれども、ミロンの考えは間違ってはいない


「ミロン。俺はお前のそういうところ、嫌いじゃないぜ。この世界で生き抜く為には、嫌でも冷徹にならなきゃいけない」


 だが、しかし。


「ただ無意味に冷徹なままじゃ、生きてる意味がねえ。お前がいると、そう思わされるよ」


 ミロンは思う。

 もっと自分が強ければ、と。そうすれば、ナルーを完全に管理すると言えば納得して貰えたのかもしれない、と。

 ツェツィーリヤにも勝てたかもしれない、と。


「あの、皆さん。そろそろ祭子さんを回復させても良いっすか?」


 相変わらず、エレノアは切り替えが早かった。空気が読めていないとも言う。


 が、それにミロンはある程度救われていた。


捕食の業(リリア・マーゲン)』によって祭子に首が生える。

 彼女は地面にうつ伏せに倒れていた。


 首がゆっくりと持ち上がる。


「起きたの?」


 ネリーの問いに対して、祭子は瞳を涙で濡らして、そして口を大きく開けて……欠伸を返した。


「ふわぁ。……眠い」


 そこにはダルそうな少女がいた。




挿絵(By みてみん)



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