最後に、彼女は(☆)
今回、最後に挿絵があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
「別に、舐めてないよ」
ミロンはそうキッパリと告げる。しかし、ツェツィーリヤはミロンの考えに賛同してはくれない。
「ナルーは一度裏切った。俺たちを殺そうとまでした。それを仲間に加える? 馬鹿を言うんじゃねえ」
ツェツィーリヤの言うことは正論であった。
ナルーの能力は、実に厄介だ。仲間にしても、一度裏切った以上信頼することはできない。
いつ乗っ取られるかわからない。
いつ仲間が乗っ取られるかわからない。
ナルーを仲間に引き入れるということは、リスクを背負うのと同じなのだ。
「でも、今回が初めてだし……」
「だから改心したかもしれない、と? ミロン。ここは人の世界じゃねえぞ」
そう、ここは『創り者』の世界。
情状酌量というものは、人間の世界が勝手に生み出した法に過ぎない。
この世界に於いて、そのようなルールは存在しない。
裏切り者は死ぬ。
それこそがルール。
「だったら、エレノアは?」
かつてエレノアはミロンたちに牙を剥いた。あれは裏切りではなかったのだろうか。
「あの時、エレノアは確実に手を抜いていた。目的は迂遠な自殺だった。確かに、迷惑はかけられたがな」
つまり、エレノアには害意がなかったから仲間に戻した。ということだろうか。
その点、ナルーには害意しかなかった。
「ナルーを仲間にするのには、確かにリスクがあるかもしれない。でも、仲間にしたときのメリットはどうなのさ?」
ツェツィーリヤの言うことは正しい。
『創り者』の基本はリスクを軽減することなのだ。
一方で、ミロンの言も正しい。
リスクこそ大きいが、ナルーは仲間にさえしてしまえばかなり頼りになる。
例えば、アルルを思い出して欲しい。
触れたモノの勢いを全て止めてしまう能力。つまり、アルルには触れることができる。
ナルーがアルルと頭をぶつけ合い、能力を起動したとしよう。
後は、アルルの能力を切り、仲間にアルルの肉体を刻ませるだけで良い。
それだけでアルルに勝利できる。
相性というものがある。
ツェツィーリヤが祭子に対して有利なように、ナルーも誰かに対して有利なのだ。
ナルーを仲間にするということは、未知の敵に対抗する手段を一つ手に入れることと等しい。
それは遠い未来のリスクを軽減することにも繋がるのだ。
「わかったぜ。この場合、俺とお前は相容れねえ。俺には男友達がお前くらいしかいねえからよくわかんねえけどよ」
少なくとも、と言いながらツェツィーリヤは口から二丁のライフルを取り出した。
「俺が思うに、だぜ? 友達っていうのは、別に全ての意見が一致してなくても良いと思うんだ。で、相手が間違ってると思ったら、全力で止めてやる。こっちが間違っていたらそれを認める。どっちも合ってたら、互いに尊重し合う。それが、俺が考える男の友情だ」
「同意見だよ」
ミロンも無言で教鞭を構えた。
片方はナルーを壊す為。
片方はナルーを守る為。
彼らは友と刃を交える覚悟を決めた。
「行くぜ、ミロン!」
「来なよ、ツェツィーリヤ!」
ライフルの引き金が絞られる。それにより放たれた弾丸は一瞬でミロンの右腕を吹き飛ばした。
右腕ごと教鞭が吹き飛んだ。
「くっ!」
苦悶の表情を浮かべるミロンに対して、ツェツィーリヤは冷淡にもう片方のライフルを放った。
その弾丸は容赦なく、ミロンの眼球に突き立つ。
苦痛からだろうか。ミロンが絶叫を上げる。
そして、痛みに耐えかねて、左手の魔道書まで離してしまう。
ように見えただろう。
「行って。『操作』」
「お前は教鞭がねえと魔法が使えない筈。いや……」
ミロンは教鞭を手に持っていた。
左手にもう一つ、教鞭を隠していたのだ。魔道書のページに挟み込むようにして。
ミロンは痛みによって魔道書を取り零した訳ではなかった。
教鞭を振るいやすいように、地面に魔道書を捨てたに過ぎない。
ミロンの眼前には、彼の華奢な肉体を隠すように、巨大な岩が『喚起』されていた。
その岩の壁は、ツェツィーリヤの弾丸よりも早く打ち出される。
「やるな」
ツェツィーリヤのライフルといえど、ミロンの壁にとっては豆鉄砲も同じ。
幾ら撃とうとも、意味はない。
そして、この速度。
幾らツェツィーリヤと言えども、口からロケットランチャーを取り出して放つ暇などない。
ミロンの勝利は確定した。
「と思ったか?」
ミロンからでは見えないだろう。
しかし、一歩引いた位置にいたネリーたちには見えていた。
ツェツィーリヤがライフルを振り被る瞬間が。
ツェツィーリヤはライフルの銃身をバットのように扱った。『操作』を使用した銃身による殴打。
それはミロンの岩の壁を真正面から打ち砕いた。
破片がツェツィーリヤの頬を切り裂く。銃身が砕け散り、ツェツィーリヤの手元から消滅する。
だが、ここで本当に勝負は決まった。
ツェツィーリヤの手にはもう一丁、ライフルが残っている。それが素早くミロンへと向けられ、引き金に指がかけられた。
弾丸がミロンの左腕すらも吹き飛ばす。
雌雄は決した。
「すまねえ、ミロン。ナルーは壊す」
「さ……せない」
「ネリー、エレノア。ミロンを捕まえてやれ。これ以上やるなら、俺は容赦しねえ」
ツェツィーリヤの台詞に、ネリーが頷いた。そのまま『命ノ灯』が作動してミロンの肉体を絡め取る。
「ナルー。俺も、本当はお前と仲間になりたかったぜ。でもよ、俺は万が一にも、仲間を危険には晒せねえ」
「……私は」
「悪い。遺言は受け付けてねえ。お前の台詞を引き摺ることはできない」
『創り者』の心は弱いのだから。
彼女の台詞を耳にしたことにより、後々後悔することがあるかもしれない。
「……ごめん」
「こっちこそ、ごめんな」
ツェツィーリヤが口から大砲を取り出して、それをナルーへと打ち込んだ。
肉片が飛び散る。
ナルーの顔面はぐちゃぐちゃに潰れてしまった。僅かに残った肉片には、ナルーの面影があった。
鼻が吹き飛び、床に落ちている。
先程までは生きていたのに。
今はもう動かない。
粉々になった所為で、動けないのだ。まだ、死肉を与えれば再生できる。
しかし、そこに更に球が撃ち込まれていく。
やがて、肉片一つ残らない惨状が生まれた。
「おい、ミロン。大丈夫か?」
ナルーを始末した後、ツェツィーリヤは振り返りミロンの顔色を伺う。
ナルーを壊す為に、ミロンが壊れてしまっては元も子もないからだ。
ミロンは息を荒くしつつ、エレノアによって回復された右手で心臓がある場所を掴んでいた。
ミロンとて理解していた。
ナルーを助けるべきではない、と。
先程のミロンの考えは、優しさなどではない。少なくとも、ミロン自身はそう考えていた。
全員に対する優しさは、時としては誰よりも残酷なのだ。
ミロンがやったことは、ナルー一人を助ける為に、今までの仲間を危険に晒す行為だったのだ。
博愛は優しさではない。
ミロンが行ったのは、ただの優柔不断な決断であった。彼には、人を切り捨てることができない。
けれども、ミロンの考えは間違ってはいない
「ミロン。俺はお前のそういうところ、嫌いじゃないぜ。この世界で生き抜く為には、嫌でも冷徹にならなきゃいけない」
だが、しかし。
「ただ無意味に冷徹なままじゃ、生きてる意味がねえ。お前がいると、そう思わされるよ」
ミロンは思う。
もっと自分が強ければ、と。そうすれば、ナルーを完全に管理すると言えば納得して貰えたのかもしれない、と。
ツェツィーリヤにも勝てたかもしれない、と。
「あの、皆さん。そろそろ祭子さんを回復させても良いっすか?」
相変わらず、エレノアは切り替えが早かった。空気が読めていないとも言う。
が、それにミロンはある程度救われていた。
『捕食の業』によって祭子に首が生える。
彼女は地面にうつ伏せに倒れていた。
首がゆっくりと持ち上がる。
「起きたの?」
ネリーの問いに対して、祭子は瞳を涙で濡らして、そして口を大きく開けて……欠伸を返した。
「ふわぁ。……眠い」
そこにはダルそうな少女がいた。




