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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
弑虐の王はかく語りき
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だが、力は扱い切れない

 気持ち悪い、とナルーは連呼した。

 その罵倒の声は、全て自分自身に向いているようだ。ナルーは自分が気持ち悪くて仕方がないのだ。


「どうして? どうして私はこんなにも気持ち悪い。頭だけの身体。歯と舌を使って動くから、顔も歯もボロボロ。死肉を喰わないと、私は人と顔も合わせられない!」


 ナルーはどちらかというと、異形型の『創り者』だ。最初から頭部しかないので、死肉を喰らおうと身体は現れない。

 彼女は自分自身の肉体がコンプレックスなのだ。


「私だって、可愛い服が着たかった。私だって、お洒落な靴を履きたかった。……せめて、自分で歩きたかった!」

「それがきみの動機なんだね」


 普通、人型の『創り者』がお洒落をする場合は、可愛い服を買うだろう。可憐なアクセサリーを身に纏うだろう。

 靴を買うだろう。鞄を買うのかもしれない。


 だが、ナルーはどれも持てない。いや、持つ意味がない。

 服を買おうと着れない。アクセサリーや帽子を買っても、顔だけで動く以上、邪魔になるだけだろう。

 靴も当然、履けないのだ。


「きみは嫉妬した。と、同時に憧れた」

「欲しい。欲しいの! 美しい身体が、可愛い顔が。傷一つない顔が。足が。手が。指が胴が胸がお尻が首が肩が!」


 ナルーは慟哭するように、自白していく。自身の気持ちを乱雑に羅列していく。


「ねえ、ネリー。頂戴? 貴女のその素敵な身体を私に頂戴? 貴女だけ、ズルい」

「嫌よ」


 ナルーに取って、美しい女性を乗っ取るということは、ファッションなのだ。

 着替える代わりに、乗っ取るのだ。


 多くの『創り者』が服を着る。

 一方で、ナルーは人の身体を着るのだ。


 それが彼女がお洒落をする唯一の方法なのだから。


「なら、奪うまで。欲しがっても、誰も与えてくれない。だったら、奪う!」


 そう叫び、ナルーはアリアと同種の機人オートの装甲を力尽くで剥がそうとする。


「全員! 待つ必要はねぇ! 仕掛けるぞ」


 ツェツィーリヤの号令を受けて、全員が攻撃を開始した。

 ツェツィーリヤが散弾銃を放つ。


 無数の小さな弾丸が、面的にばら撒かれる。しかし、その弾丸は全て弾かれ、地面を転がった。


「やはり、展開されてたか。『高嶺の荊(ガルム・アルム)』」


 正面に作られた壁に、穴はないようだ。それはツェツィーリヤの散弾銃が証明してくれた。


 故に、ミロンたちはすかさずに、ナルーの側面へと駆け抜けた。


 ツェツィーリヤが正面に位置取り、多種多様な重火器で牽制を行う。


 右側にエレノア、左側にミロンとネリーが配置される。

 そして、同時に攻撃が放たれた。


 エレノアの光の輪が光速で射出され、ミロンの炎の魔法が豪快に渦を巻く。

 ネリーの髪が直接的に、ナルーを狙う。


「鬱陶しい!」


 だが、攻撃の全てが壁によって弾かれる。


 そして、とうとうアリアと同種の機人(オート)の装甲が剥がされた。

 中から現れたのは、着物を纏った少女であった。


 何処か陰鬱な顔色。

 対照的に鮮やかな、紫の頭髪。その頭髪は頂上が大きなリボンで結ばれており、ポニーテールのようにされていた。


 前髪が均等に切り揃えられていて、横髪はふんわりと輪郭を隠している。


「これが霧島祭子!」


 現れた少女の肉体は、祭子のものであった。


「早く、その身体を寄越しなさい!」


 ナルーがネリーを目掛けて走り出す。だが、自らが作成した壁にぶち当たり、その場に転倒した。


「祭子の能力は強力だけれど、使用にはかなりの頭脳が必要なのよ」


 自分ですら見えない壁を作り出す。

 つまりは見えないものの位置を完全に把握しておかねばならないのだ。


「邪魔!」


 ナルーが壁を解除して、ネリーへと迫る。そこに、ミロンは石の弾を打ち込んだ。

高嶺の荊(ガルム・アルム)』が間に合ったようで、攻撃は受け止められた。


「ここからなら、どうかしら?」


 ネリーが『命ノ灯(アラハ・ハール)』を起動させる。その髪は様々な方向から透明の壁を打ち据えていく。

 だが、それは錯乱の為の攻撃である。


 本命は――下。


 ネリーの髪が、ナルーの足元の床から突き出る。それは見事、祭子の肉体を突き抜けた。そして、一瞬で燃やしてしまう。


 触れれば終わり。

 ネリーの能力とは、そういうタイプのものなのだ。だが、祭子の肉体は消えていなかった。


 ネリーが手加減したのである。

 今はナルー討伐戦。祭子の肉体を壊す訳にはいかないからだ。


「何、この能力は? 六星長の能力なのに!」


 ナルーが喚く。

 それに構わず、全員が距離を取りながら、攻撃を続ける。


「行ってくださいっす! 『捕食の業(リリア・マーゲン)』!」


 白い光が大量に舞う。その光の粒子一つ一つが、圧倒的な斬れ味を保有している。

 その光がゆっくりと室内を包み込む。


 光が届いていない場所に、壁が設置してある。透明の壁も、周囲に色を付けてしまえば見ることができる。


 透明の壁には、僅かに隙間が存在していた。設置の仕方が甘いのだ。


 祭子の肉体は、光の粒子により微かに切り裂かれていく。


 そこでエレノアが能力を解除した。消費が激しかったのだろう。


 だが、それで十分だった。

 ネリーの髪が、壁の隙間から祭子の身体へと襲いかかる。


「ちっ!」


 ナルーは間一髪のところで、それを壁によって防いだ。


 だが、彼女の顔には露骨なまでに焦りが見えていた。


 ここで、ミロンが挑発を行った。


「どうしたのさ、ナルー。こっちは一度も、攻撃を食らってないけど? きみの方は、能力を扱い切れていないみたいだね」

「こんな……筈ない。これは六星長の能力。無敵の能力。何で? 私が使ってるから? 嫌。いや、嫌嫌嫌」

「結局、借り物の力は扱い切れないんだよ」



 ミロンは自分自身を思い起こす。

 ミロンの中にいるもう一人。


 ミロンの左目は、その人物からの借り物でしかない。扱いきれるものではない。


「止めて! もう来ないで! 私から何も、奪わないで」

「こいつ!」


 ナルーは頭を抱えて、その場にて蹲った。

 周囲に無数の透明の壁を生み出して、である。


 下手に動くだけで、壁に顔面をぶつけることになる。非常に厄介だ。

 だが、それ以上に厄介なのは、敵が勝負を諦めたことだ。


 『高嶺の荊(ガルム・アルム)』による籠城が始まったのだ。

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