さあ、開戦だ
首のない失踪者。
見た目こそグロテスクではある。
可愛らしい服を着た、スタイルの良い女性たちが、地面に物のように転がっている。
首の断面が、嫌でも目に入ってくる。
真っ白な骨。
その周囲には赤黒い、血肉がヘドロのように、ドロドロと溜まっている。
しかし、幸か不幸か。ミロンはこの世界に馴染みつつあった。人体の断面など、この世界に来て何度も見せられてきた。
恐怖に顔を引き攣らせてはいるが、それ以上の反応はしない。
掠れかけの声で、ミロンは言う。
「取り敢えず、全員回復させちゃう?」
「いや、その必要はねえ」
ミロンの問いに対して、ツェツィーリヤが答えた。
彼は口から死肉を取り出しながら、ミロンに考えを述べていく。
「死肉にも限りがある。後、敵の能力は乗っ取りだ。乗り移れる対象を増やす意味なんてねえ」
ということで、ツェツィーリヤは一番近くにいた『創り者』へと死肉を投与した。頭部が存在しないので、食べさせることはできない。
代わりに、傷口へと死肉を押し当てる。
そうすると、死肉が消え去り、それを餌として頭部が生えた。
「ん? ここは……」
「ギルドの地下牢です」
一人の『創り者』が起き上がる。その少女は苦しそうに頭を抑えてはいるものの、体調には問題がなさそうであった。
「ナルーに乗っ取られていたんですよね?」
起きたばかりの『創り者』はよく状況を理解していないようだが、それを気にしている暇はない。ミロンは端的に尋ねた。
「ええ。ナルーが急に現れて、捕まってしまいました」
やはり、失踪事件の犯人はナルーで間違いないようだ。今回の怪事件を起こせるのは、ナルーの神々の死体くらいである。
となると、気になるのはナルーの行方である。
「ナルーの居場所を知ってる?」
「いえ。ここが何処かもよくわかってませんから」
どの道、ミロンたちにはもう道がない。
祭子を乗っ取ったナルーと戦う必要があった。
とはいえ、勝利する必要はない。
ナルーの能力には制限がある。
それは確定している。もしも制限がなければ、祭子を乗っ取った時点で、相手は迂遠な手を使う必要がなくなるからだ。
今回の勝利条件は単純。
ナルーの限界を超えさせることである。
「まずはナルーを見つけなくちゃだね。チーム分けは……」
と、ミロンが言おうとしたときであった。
一人のメイドが挙手したのである。
「どうしたの、アリア? 何時もなら、御主人様の御言葉に水を差すなどとんでもありません、とか言いそうだけど」
「あ、申し訳ありません!」
「いや、良いよ。ぼくはその方が気楽だからね」
主人が話している最中に、機人が前へ出てくるというのも珍しい。ミロンは彼女の意見を聞くことにした。
「先程、もう一人を起こしたのでこちらの数は六」
「そうだね」
「数は多い方が都合が良いでしょう。しかし、実力が劣る捕まっていた方には、できるだけ強い戦力をつけた方がよろしいかと」
確かに、彼女の言う通りであった。
「ネリー様など如何でしょうか」
「ネリーか。ネリーは強いし、良いかもしれないね」
ネリーと捕まっていた『創り者』がペアを組むことになった。
それから、ペアは簡単に決まっていった。
ツェツィーリヤとエレノア。
そして、
「私と御主人様ですね」
「うん。よろしく、アリア」
チームは決まった。
だが、すぐには別行動に移らない。
別れて捜索する前に、もう一度ナルーとの戦闘に於ける注意事項を話し合う必要があった。
「祭子さんの能力は防御に特化してるんだよね? だとすれば、向こうはどうやって攻撃してくるのかな?」
「兄様。それは言えないわ」
「どうして?」
「この会話が聞かれている可能性もあるもの。敵が祭子の能力を完全に把握するのは危険よ」
ネリーの言い方では、祭子の能力が攻撃に使えるのかどうかわからない。
だが、攻撃に使えるのならば、とうの昔に攻撃されているだろう。
ミロンは『高嶺の荊』に攻撃能力はないと判断することにした。
「とすると、敵の攻撃方法だね」
そちらには心当たりがあった。
乗っ取られた『創り者』は皆、頭を失って動けなくなっていた。
ナルーは対象の頭を消失させ、そこに自分の頭部を寄生させていると見られる。頭は乗っ取った対象のモノに変えられるのかもしれない。
そして、乗っ取りを解除した後には、頭部を失った胴が残るという訳である。
身体の大半を失っても『創り者』は動けるが、やはり頭というのは大切なのだろうか。
それとも、それこそがナルーの能力なのか。
「乗っ取られたら負ける」
ナルーにとっての乗っ取りとは、攻撃手段ともなり得るのだ。
頭部同士を合わせる。
簡単なように見えて、中々に難しい条件だ。だが、不意を突かれれば、壊滅もあり得る条件であった。
「絶対に、隙は見せないこと。また、今回に限ってはペア以外を信じないこと」
いつの間にか、仲間がナルーに入れ替わっている可能性がある。
「いいや、ちげえな。ペアも信用するな」
「ええ! あたし、そんなに信用ないんすか? ……やっぱり、あたしなんてミジンコなんすね。あぁ、もうミロンさん、一緒に死に……死ねなかった」
エレノアはいつも通り、面倒くさかった。
「違うんだって。そうじゃなくてよ。ナルーの乗っ取りの条件は、おそらく満たされるときは一瞬だ。つまり、一瞬でも目を離せば、その時点でペアが乗っ取られている可用性もある」
可能性として、十分にあり得た。
ナルーの能力が何らかの制限がある以上、祭子を温存する可能性もある。
物陰や資料が保管されている棚などから、ナルーの本体が奇襲してして、直接乗っ取りに来る可能性も考慮せねばならない。
「だから、今回に限っては、ミロン以外はペアを信用するな」
そうだ。
機人は乗っ取られない。
あくまでナルーの能力は『肉体を乗っ取る』力だ。機人の肉体は、肉ではなく機会である。
乗っ取れる可能性はかなり低い。
そもそも、機人を乗っ取ることができるならば、外出の際には風呂敷に包まれることはないだろう。
「今回の勝利条件は、ナルーの能力限界を引き出すこと。それか、祭子を温存して隠れているナルーの頭部を発見、破壊することだ」
ツェツィーリヤが提示した勝利条件に、全員が頷く。
「行こう、アリア。ぼくたちはギルドの二階が担当だよ」
ナルー討伐戦が開始された。




