やっと、光が見えてくる
「あった」
資料を漁り続けていると、とうとう目的のモノを発見した。
失踪事件の書類である。
資料を軽く読み流す。
「失踪者が一ヶ月の間に六名、か。で、失踪者は全員見た目の若い女性」
その内容は、ミロンたちが貰った資料の内容と同様であった。わざわざ資料室に、偽の資料を置いているとは思えない。
故に、ミロンは失踪事件は実際に存在すると認識した。
その考えをすぐさま、外でメイドたちを足止めしているネリーへと伝えた。
彼女はわかったと言うと、そのまま資料室へと飛び込んできた。
「兄様、抱き着いてきて」
「うん」
ネリーの身体へと、ミロンはしがみつく。
ネリーの髪が蠢いて、資料室の壁を殴り付けた。炎は灯っていなかったが、それでも壁を破壊するのには十分であった。
そのまま、ネリーは外へと飛び出す。
「あれ? このまま祭子さんと戦うんじゃないの?」
「それも良かったかもしれないわ。でも、資料が本物だったから……」
ネリーの言いたいことが、ミロンにはよくわからない。基本的に、ネリーはコミュニケーション能力が低いのだ。
今までは、あくまで無知なミロンに物事を教えているだけであった。
しかし、最近ではミロンも『創り者』の世界がわかってきた。
そうなると、会話の内容は自然と日常的なものに変わってくるのだが、ネリーは日常会話が苦手であった。
「それに、目立ち過ぎなんじゃあ」
派手に壁を破砕したことにより、周囲の『創り者』や機人がネリーたちを発見してしまったようだ。
空の道を行くネリーたちは、第三ドームの住人に見上げられていた。
「いいの」
そこで、ミロンは目撃した。
かなり遠い場所ではあったが、建物の物陰からツェツィーリヤがこちらを見ていたのだ。
その隣には、エレノアといつの間にか合流したらしいアリアがいた。
「合図?」
「そのような感じよ」
敵に見つかるリスクよりも、仲間と合流できるメリットを取ったのだろう。
これでツェツィーリヤたちと合流できるようになる。
敵に捕まらなければ、だが。
「まずはアリアと合流。どうして私たちが狙われているのかを解明」
「うん。それから?」
「問題の解消」
仮に、祭子が個人的にミロンたちを狙っていて、今回の件を仕組んだのだとしたら、これは大変厄介である。
祭子と直接敵対しなければならないからだ。
祭子の能力は、花火と同等。
ネリーたちが束になっても敵わないと思われる。
それでも、先程までは戦うしかなかった。
「状況が変わったわ」
ネリー曰く、当初からネリーたちを策に嵌める予定であったのならば、資料すらも偽の物を用意しただろうとのこと。
だが、渡された資料は本物であった。
それはつまり、今回の策が突発的に発生したことを意味している。
「私たちの疑いが晴らせるかもしれないわ」
まずは失踪者を見つける。
その失踪者を味方に付け、そして第三ドームの誤解を解く。
誤解の内容次第では、これである程度解決できる。
流石の祭子といえど、ドーム全体を敵に回すことはしない筈だ。
第三ドームの『創り者』を味方に引き入れる必要がある。その為に、失踪事件を解決するのだ。
「でも、もし仮に、失踪者全員が粉々に壊されていたら?」
「その時は、全員で祭子を壊して、脱出するしかないわ」
ミロンたちへの誤解と失踪事件は別問題だということがわかった。
せめて、第三ドームにネリーたちには敵意がないということだけは示さねばならない。
幸いなことに、ネリーは敵地に侵入したというのに、敵を一人も完全に壊してはいない。それも手伝って、失踪者を見つければ、ある程度は誤解が解けやすくなると考えているのだ。
「見つけられるかな、失踪者」
「自信はないわ」
だが、やるしかない。
少なくとも、祭子と直接交戦するよりは、勝率が高いのだから。
「そういえば、ネリー。その手に持ってる紙は何?」
「依頼書」
おそらく、メイドと交戦している間に、こっそりと盗んだのだろう。
「これをベースに偽造すれば、依頼書が作れるわ」
「それをどうするの?」
「使う」
ネリーの回答に、ミロンは呆れてしまった。どう使うのかを訊いているのだが。
ネリーとて、冷静な状態ではないのかもしれないと、ミロンは判断した。
「私も、こういう戦いは初めてなの」
「まあ、経験していたら、それはそれでおかしいよね。うん、ネリー。頑張ろう」
ネリーの『命ノ灯』が建物を掴み、ネリーたちを投げるようにして飛ばす。
それを数十回も繰り返せば、次第にネリーたちを狙う敵の数は減った。
「ツェツィーリヤたちも見失ってない?」
ネリーがようやく着地した。
すると、建物の陰からツェツィーリヤたちが現れた。
「よく場所がわかったね、みんな」
「違うぜ、ミロン。ネリーの方がこっちに来たんだ」
なるほど、とミロンは納得した。
ネリーが派手に騒ぐことによって、ツェツィーリヤたちはネリーたちの居場所を掴んだ。
そして、その姿をネリーに見せることに成功した。後は、その場に留まるだけで、いつかネリーがやって来られる。
未だにわからないことだらけだが、徐々に光が見えてきた。
少なくとも、仲間が揃ったことは喜ばしかった。
心の底に安心感が湧いてきたことにより、ミロンはついつい涙ぐんでしまう。
「反撃に移りましょう」
ネリーの言葉に、その場の全員が頷いた。




