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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
弑虐の王はかく語りき
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そして、何もわからなくなった

「何ていうこと」


 時は夜。

 ミロンたちを狙う『創り者』や機人オートの喧騒のみが、闇を支配していた。



 そんな中、ネリーが僅かに嬉しそうに目元を震わせている。彼女は表情を作るのが苦手なのだ。


 感極まった様子のネリーとは裏腹に、ミロンの顔色は優れなかった。それもその筈であろう。


 何故ならば、彼は今、


「足元がスースーするんだけど……」


 スカートを履いていた。


「似合うわ、兄様」

「嬉しくないやい!」


 今のミロンは普段とは一線を画す姿となっていた。

 頭には、白の長髪。

 眼鏡は外し、服装は完全に女性のものである。


「見事な変装よ」


 ギルドに忍び込む為に、ミロンたちは変装を余儀なくされた。


 ネリーの髪は伸縮自在である。その髪を利用して、即席のカツラを作り出したのである。神々の死体(ホラーチャーム)により、厳重に創り上げられたカツラは、最早職人芸としか言えない。


「幾ら、いくらでも伸びるからって、女の子が髪を粗末にするのはどうかと思うよ。それに、普段は不器用なのに、どうしてこんなことばっかり」

「髪の動かし方は熟知しているもの」


 ミロンはツェツィーリヤ程ではないものの、十分整った顔立ちをしていることから女装がよく似合った。


 ミロンと同じくらいの背丈の女性の『創り者』から奪った服も、よくマッチしている。


「じゃあ、行こうか」


 諦めの混じった弱々しい声音で、ミロンが道を先導する。


 ギルドへはあっさりと到着した。

 変装の甲斐があったのだ。


 ミロンたちはまだこのドームに来たばかりである。顔を知られていないので、より変装が効果的であった。


 もちろん、リスクもある。


 見慣れない顔がドームを堂々と歩いているのも、それはそれで怪しいのだ。


 ドームは広い。だが、同時に、人が住むには少々狭いとも言える。


 バレてしまうのも、時間の問題だ。


 それ故に、ネリーは力を使用して、全力で人目の少ない場所を疾走した。

 人に見られる危険性のある場所だけ、変装で乗り切ったのだ。


機人オートの目は、『創り者』程誤魔化せない……ぜ」


 ネリーは男装をしていた。

 胸はナイフで切り落とし、髪も容赦なく切ってしまった。服はミロンのものを着ている。少々、小さいようだ。

 顔にはナイフで傷を深く刻んでいる。


 そこまで大きな変化はないものの、ミロンたちの特徴しか把握していない者たちにとっては、十分な程の変装であった。


「ていうか、ネリー。よかったの?」

「治るもの」


 確かに、そうである。

 死肉でも良いし、エレノアに治療して貰っても良い。変装の為に胸を切り落とすとまで思わなかったミロンは、驚愕で目を剥いたものである。


 ギルド内を我が物顏で闊歩する。

 正々堂々と、道を行く。


 ギルド内では、慌ただしく、メイド服や執事服が歩き回っている。擦れ違う度に、肝が冷える。


 ミロンたちの目的は自分たちが狙われている理由を探ること。

 そして、失踪事件についてである。


 そもそも、本当に失踪事件が起きているのかも怪しい。理由は不明だが、ミロンたちを追い込む為の嘘かもしれないのだ。


「見つけたわ」


 そこにあったのは、資料室であった。

 そこには、事件についての資料が残されている。


 ミロンたちがギルドに狙われている理由はわからないが、せめて失踪事件の有無だけでもわかるのとわからないのとでは大きな違いがある。


「お待ち下さいませ」


 資料室の前には、メイドがいた。

 資料室は無断で使用できないのだ。


「許可書をお持ちでしょうか」

「いいえ」


 直後、『命ノ灯(アラハ・ハール)』がメイドの腹部を貫いていた。そのまま、メイドの肉体が炎の熱によって、ドロドロに溶かされていく。


「核は残して上げるわ」


 ネリーの凶行を目撃したことにより、ギルド内のメイドたちが一斉に集まり始める。


「ネリー!? 強引過ぎない!?」

「こうするんじゃないの?」

「どんな勘違いなのさ!」

「いいえ。私が正しいわ」


 そう言いながら、ネリーは無数に襲いかかる機人オートをあしらい続ける。

 髪が鞭として一体のメイドを掴み取り、その調子で他のメイドへとぶつけていた。


機人オートは主人の言うことしか聴かないの。とにかく、資料室で資料を探って」


 ネリーが足止めをしている間に、失踪者の資料を調べねばならない。

 ミロンたちも一応資料を渡されているが、これが本物である保障などない。


 祭子がやってくることも想定できる。

 ミロンはがむしゃらとも言える速度で、資料を漁りだす。


 失踪があったくらいの日付の棚を乱雑に確認していく。申し訳ない気持ちもあるようだが、構わず、違う資料は床に捨てた。


 今は一分一秒を争うのだ。


 資料に素早く目を通しつつも、ミロンはネリーの言葉の意味を探る。


 機人オートは主人の言うことしか聴かない。それはつまり、彼らの主人がミロンたちと敵対しているということである。


 では、メイドたちの主人とは誰だろうか。


 霧島祭子ではないだろうか。


 今回の件は、祭子自身が仕組んだとでも言うのだろうか。ミロンたちを追い詰める為の策略なのだろうか。


 現在、資料を捜索しているのは、敵である祭子の目的を少しでも判明させる為。


 経験の浅いミロンはでは、ネリーの考えは理解できない。いや、おそらく、ネリーとてこのような異様な事態を経験するのは初めてなのだろう。


 敵の思惑がまったくわからないという現状に、ミロンは身体の芯を擽られたような、嫌な感覚を覚えた。

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