結局、彼女は奉仕したい
アリアは憤慨していた。
ツェツィーリヤが『失踪者捜索』の任務を正式に受けた。理由はわかる。
第三ドームの存亡を賭けているとも言って良いこの任務をクリアすれば、必ず六星長が出てくる。
そもそも六星長との面会が断られること自体おかしいのだが、文句を言っても仕方がない。
「任務を受けるのは構わないのでございますが」
アリアは一人であった。
行方不明者は全員が『創り者』であった。
それはつまり、犯人のターゲットは『創り者』であるということを示す。
敵の誘拐手段が不明な以上、『創り者』を単独で動かすのは危険性が高い。
だが、捜査の手はなるべく分散させた方が効率が良い。
結果、アリアは一人であった。
「あのスカート男。自分と御主人様をいつも引き裂きやがりますね」
アリアの役目は、行方不明者の所有している機人への聞き込み捜査であった。
仮に、主人に嘘を吐けと言われている場合、機人の意見は参考にならない。
つまり、もしも失踪者が自主的に失踪していた場合、聞き込みはまったくの意味を成さない。
機人であるアリアには、それは十分理解できていた。
「ここでございますか」
第一の失踪者である『創り者』ナルー・ベアルカの自宅である。
第三ドームでは、基本的に全員が機人を持っている。故に、この家にもいるのだろう。
聞き込みを開始する為に、アリアはインターホンを押す。
だが、アリアの怪力によってインターホンは軽々と破砕されてしまった。
「おや」
魔科学によって生み出されたインターホンであったが、アリアの怪力には敵わなかった。粉々に壊れてしまう。
「仕方がありませんね」
アリアは口を大きく開くと、そのまま全力で声を押し出した。
「もーしーもーしー!」
声は一つの弾丸となり、ナルー・ベアルカの自宅を叩いた。暫く繰り返していると、家の中からメイド服の機人が現れた。
「何用でございましょうか」
「任務でございます。迷子の失踪の件について、お伺いしたく存じ上げますのでございます」
「失礼。貴女様は壊れているのではないでしょうか。メンテナンスへ行くことをお勧め致します」
ぺこり、とナルーのメイドは御辞儀をした。
すかさず、アリアも御辞儀を返した。アリアは悟る。
(このメイドッ! 自分よりも上手でございます)
アリアはメイドバトルの敗北を理解した。だが、諦める訳にはいかない。
自分こそはミロン・アケディの至高のメイド。
敗北とは、それ即ちミロンの顔に泥を塗ることとなる。
アリアはメイドとしての全力を出すことを決意して、顔に作り物の笑顔を浮かべた。
顔を上げ、言葉を紡ごうとしたところで、
「ナルー様の行方を捜していらっしゃるのですね。お客様をお外で出迎えることは、ベアルカ家の本意ではございません」
どうぞ、お入りください、とナルーのメイドは告げてきた。
先制攻撃を受けた気のしたアリアであったが、勿論そのような事実はない。
大人しく従い、アリアはナルーのメイドの後についていく。
そして、ナルーの自宅に入り、直後に拳を構えた。
「これはどういうことでございますか?」
「おもてなし、でございます」
そこに待ち構えていたのは、無数のメイドと執事であった。彼らはそれぞれ手に得物を持ち、アリアへと切っ先を向けていた。
「意味がわかりませんね。自分を襲っても、得はございませんよ?」
「……」
「なるほど。貴女の御主人様が仰ったのでございますね。つまり、自主的に消息を絶った、と」
「壊しなさい」
一斉に、機人が飛びかかってきた。しかし、アリアは動じない。
アリアとしては不服なことではあるのだが、彼女は家事よりも荒事に向いていた。
冷静に、アリアは近くの壁に指を突き立てた。そして、無理矢理に壁を剥がす。
そのまま、剥がした壁を乱暴に振り回した。
それだけで、まるでハエ叩きの如く、無数の機人たちが叩きのめされた。
「化け物が……」
「口調が乱れていらっしゃいますよ」
踏み込み、アリアはメイドとの距離を詰める。
一方で、メイドはサーベルによる高速の突きを放ってくる。
実に、見事な突きであった。
敵の踏み込みに合わせた、完璧な突き。回避などは不可能であり、獲物は自らサーベルに突き刺さりに来る。
そういう軌道。
だが、アリアには関係なかった。
自身の踏み込みを止める為、足の力を強めた。それだけで、アリアの足が床に突き刺さり、彼女の歩を止める。
「申し訳ございません、御主人様」
メイドの諦めに満ちた声が、アリアの耳に響いた。
アリアは思う。
本当に御主人様が大切ならば、最後まで諦めるな、と。
アリアは愚かなメイドの腹へと、渾身の一撃を加えた。鋼の肉体も、アリアにとっては薄い紙のようなものである。
貫いたメイドを腕を振り捨て、アリアは周囲を見渡した。数人のメイドたちは逃げ去ってしまった。
「目的がわかりませんね。得られた情報は、自ら消息を絶ったということだけ。もっと御主人様のお役に立ちたいのですが……」
アリア以外誰もいない家の中、彼女は悲しげに俯くのであった。




