それから、任務を受けさせられる
門番の連絡により、祭子の『高嶺の荊』の一部が解除された。
ミロンたちは第三ドーム内に滞在することを許可されたのだ。
第三ドーム内には、メイド服と執事服が溢れていた。そして、それと同時に作業着姿の者も存在している。
技術職の『創り者』であろう。
「ここは機人生産工場だからな」
「機人って、生産できるの? ぼく、この世界の魔法ってそんなに凄くないと思うんだけど」
「まあな。魔法は正直、そこまで万能じゃねぇ。凄いのは魔法じゃなくて、魔力の方だ」
『創り者』の肉体は、死体を掻き集めて創られていると言われている。
死体と心を繋げて、生み出された一体の偽物。それがミロンたちの正体である。
では、それを繋ぐ為に何が使われているのか。
ずばり、魔力である。
「残り者には、この魔力供給が足りてねえ。奴らは自力で魔力を製造できねえんだとよ」
魔力は電池のようなモノだという。
電池が切れれば、動けなくなる。
残り者はそれを恐れ、『創り者』を食すことによって無理矢理魔力を回復しようとするらしい。
また、『創り者』が残り者を食べることによって回復できるのは、魔力が急激に回復するからだという。
「つまり、魔力を生成、循環させる術があれば、この世界では動く者が創れる」
「それが例え機械でも?」
「ああ、そうだ。その代わり、あくまで動くのは身体だけだ。記憶や感情は、集める術がない」
それができれば、それこそ神の領域である。
だが、とミロンはアリアを見る。
「何でございましょうか?」
「アリアって、普通に感情ある気がするけど」
「自分にあるのは、御主人様への溢れんばかりの奉仕欲のみでございます!」
ふんす、とアリアが鼻息を荒くする。その様子は完全に感情に溢れている。
これでは話が違う。
「おそらく、創造主にそう設定されたんだろ」
ツェツィーリヤが言い終えるのと、第三ドームのギルドが見えたのは同時であった。
まずはここで報告をせねばならない。
ツェツィーリヤたちは臆することなく、ギルドに入っていく。ミロンは戸惑いながらも、その後へと続く。
「わぁ」
ギルド内でも、無数のメイド服と執事服が働いていた。書類を手にしている者、受付員として『創り者』の受け答えをしている者。
仕事は様々なようである。
「機人って、こんなにいるんだね」
「御主人様。お気を付け下さいませ」
「どうしたの?」
「自分の考察によりますと、おそらく他の木偶どもも、御主人様を御主人様にしようと狙っております。自分から離れないでくださいませ」
そう言い、アリアはミロンの一歩後ろへピタリとくっつく。
すれ違う機人に威嚇をし始める。
「何やってんだよ、お前ら」
「威嚇でございます」
アリアは真っ当なことを言ったかのように、自然体である。ミロンは苦笑を浮かべた。
少し歩いたところで、ミロンたちは受付に到着した。第二ドームよりも、受付の数がかなり多い。
その受付ではメイド服や執事服の人物が受付員を担当している。人件費が浮くのだろうか。
空いている受付に行き、報告を開始する。
「第二ドーム所属のツェツィーリヤ・ヘラキャットだ。証明書もある」
「はい。こちら第三ドーム第四受付です」
「ややこしいな……報告したいことがある。できれば、六星長を出して欲しい」
「それはできません」
「だよな。まずはあんたに報告する。その後に、もし必要だと思うなら呼んでくれれば良いぜ」
「それはできません」
はあ? と、ツェツィーリヤは驚愕に顔を強張らせた。そのような表情も、かなり可愛らしい。
「……ツェツィーリヤ」
ネリーが静かに、ツェツィーリヤの名を呼ぶ。
「貴方は霧島祭子に会ったことがないの?」
「ねぇな」
「そう。彼女は特別なのよ」
特別、という言葉は少しおかしいように思えた。何故ならば、六星長はみな特別なのが当然なのだから。
全員が花火と同じレベルに凄まじいのだ。
勿論、最強の『創り者』こそは霧島花火であるが。それでも、少なくとも祭子は花火と引き分けるレベルの『創り者』だ。
特別であることは自然だろうと思える。
けれども、ネリーは首を横に振った。
「能力が特別ではないの。たしかに、能力も特別だわ。でも、それ以上に彼女は性格が……」
ネリーは言い辛そうに、言葉を濁らせる。言えないならば、言う必要はないとミロンはフォローする。
「ったく。なら仕方ねえか。報告はするけどよ」
ツェツィーリヤが呆れを交えつつ、受付員の機人に説明を始めた。
それが終わったのは、数分後である。
受付員は頭を下げると、お疲れ様でしたと挨拶をする。実に機械的な対応であった。
「六星長とも会えねえようだし、さっさと行くか。今夜の宿を探さねえといけねえ」
「お待ちください、ツェツィーリヤ様」
宿を探しに行こうとした一行を受付員が制止した。
受付員は、一枚の紙を手にしながら、口を開く。
「本来ならば、現在は外部の『創り者』は進入不可の筈です」
「ああ、それならミロンさんがこのドームの異変に気付いたからっすよ」
「でしょうね。ということで、第三ドームギルドは正式に貴方方に依頼します」
受付員の持っている紙には、こう書かれていた。
『失踪者捜索』
「この件では、何方が犯人かわかっておりません。つまり、このドーム内の『創り者』全員が怪しい」
「全員!」
「ですが、外部からいらっしゃった貴方方は違います。犯人捜索の任務を受けて頂きます」
「犯人がいるの?」
「おそらく。このドームから出る為には、祭子様の許可が必要なのですが、その許可を出した覚えのない者ばかりが失踪しています」
ドーム内にいるのに、見つからない。
ドームはそこまで広くはない。見つからない筈がないのだ。
犯人がいて、何処かに隠していると考えるのが普通だろう。
「メリットがねえな」
脅すように言うのは、ツェツィーリヤであった。ツェツィーリヤとしては脅したつもりなのだろうが、彼の可憐さがそれを邪魔する。
「……任務達成の暁には、祭子様から直々に報酬が出るかと」
「ちっ。受けるしかねえか」
ツェツィーリヤの宣言により、『創り者』捜索の依頼を受けることが確定した。




