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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
弑虐の王はかく語りき
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故に、第三ドームには入れない

 第三ドームは聳え立っていた。その巨大な姿を一切隠すことなく、堂々とその場所に君臨している。


 工場群のように、ミロンには見えた。


 淀んだ煙を無数の煙突が燻らせている。

 空は濁り、空気は汚れ、ベルトコンベアや機械の駆動音で満ちている。


「都会だぁ」


 ミロンは感激して、目を輝かせる。それと同時に、咳込んだ。


「御主人様。お控え下さいませ。ああ、御主人様の愛らしい肺に汚れた空気が!」


 アリアが心配気にミロンに近寄るが、彼女は怪力故ミロンに触れられない。


「肺を褒められたのは初めてだよ」


 ミロンは反応に困りつつも、笑顔を浮かべた。そう、笑う。


 現状には不安しかない。

 花火やマーガロイア兄妹、他の『創り者』たちのこと。全てが心配だが、気にしていては前へ進めないのだ。


 今は虚勢で良い。笑う。


「おーい! 第二ドーム所属、ツェツィーリヤ・ヘラキャット。並びにネリー・ナイトラウだ!」


「あ、後、エレノア・グラムハイドもいるっすよー」


 神々の死体(ホラーチャーム)持ちは貴重な戦力であり、そこまで数も多くない。

 名前を言えば、通じることが多いのだそうだ。


 門を開けて貰う為に、ツェツィーリヤたちは叫んでいた。


 暫く喚き続けていると、門番らしき人物が現れた。けれども、その人物の瞳にやる気は感じられない。


 唯一、場所が露呈しているドームであるというのに、守護者である門番にやる気が感じられないのは大問題のように見える。


 だが、それは違う。


 このドームには、門番は本来不要なのだ。


「待ってくれ。お前たちはどこのドームの人間だ? 通行届けは? ないなら帰れ。祭子様まで伝令に行くのは面倒だ」


「聴いてくれ。第二ドームが侵略された!」


「知ってる。さっきも、同じようなのが来た」


 門番は意外なことに、動じた様子がない。平然と、事実を受け止めていた。

 そのことに、ツェツィーリヤは憤慨した。


「ああん!? 仲間がやられたっていうのに、てめえは随分と冷徹な奴だなあ?」


「関係ない。ここは第三ドームだ」


 あまりにも、冷たい言葉であった。

 ミャウが第二ドームを特別視していたのも、こういうことが原因なのかもしれない。


 けれども、あまりにも妙ではないか、とミロンは頭を悩ませる。


 そもそも『創り者』が群れているのは、個人ではいつか肉体を失ってしまうからだ。

 強力な仲間を『創り者』は、常に求めている。


 アリアを勧誘した時も、そういう理由の元、言葉を掛けた。


 第三ドームにとっても、『創り者』の損失、ひいては神々の死体(ホラーチャーム)持ちを手放すことは痛手の筈である。


 もちろん、今が平時であれば、断られる理由もあるかもしれない。

 人がいっぱいであるとか、通行届けがないだとか。断られることもあるだろう。


 しかし、今は違う。


 襲撃されたのに、通行届けを持っている筈がない。襲撃された場合のマニュアルがある以上、この辺りも対処されていて然るべきだ。


 また、ミロンたちは居場所を失っている。

 そのストレスは想像以上だ。


『創り者』には『壊れ』てしまう可能性がある。今、ミロンたちを放り出したら、外で『壊れ』る可能性が高い。


 それは強力な敵を生み出すことに他ならない。


 人がどれ程多くても、少なくとも数日は滞在させるのが当然だろう。


 以上のことから、第三ドームはミロンたちを迎え入れない理由がない。


 だが、現実では受け入れを拒否されている。それは何故だろうか。


「もしかして」


 と、ミロンは呟く。


「中で何か問題があるの? で、きみたちはそれを隠蔽しようとしている」


「……察しが良いな」


 門番は諦めたように、頭を掻き、申し訳なさそうに表情を歪めた。

 門番は片手で何らかの機械を操り始める。


「ここ第三ドームでは、現在『創り者』の失踪事件が多発している。で、祭子様はこれをドーム内で解決することにしたらしい」


 門番の説明が始まった。

 要約すると、ドーム内での行方不明が発生。原因が不明であり、他のドームの『創り者』を巻き込む可能性がある。


 故に、外部の『創り者』を拒絶しているらしいのだ。


「この話をお前たちに広められたら困る。入れ」


 外部に情報が漏れれば、外部からの干渉を受ける。それは被害者を無意味に増やす行為だとして、祭子が止めたというのだ。


「でも、どうしてドーム内で行方不明に?」


「任務に行ったんじゃないんすか?」


 ミロンの疑問に答えたのはエレノアだが、その返答は的外れであった。


ゴーグル女(エレノア様)、任務に行っただけならば、問題視される筈がございません。御主人様の御考えに及ばないのは当然と言えど、思考能力がないのならば口を閉じていた方が賢明かと」


「アリア、言い過ぎだよ」


「申し訳ございません。御主人様の美声に水を差されたので、つい」


 アリアは実に綺麗な御辞儀を返してくる。

 いつもよりも辛辣なのは、ミロンの看病ができなかったことにより不貞腐れているのだろう。


 この場の全員がそれを察していたので、それを咎めることはしない。


 ただ生暖かい視線をアリアへと向けるのみであった。


「……何でございますか、その生暖かい目は。御主人様以外の視線に不快を感じるのでございますよ」


「まあまあ、良いじゃねえか!」


 ツェツィーリヤが笑いを堪えながら、アリアへ言う。アリアは頬を膨らませて、頭を左右に振った。


「さて、モブ(門番様)から許可もでましたし、第三ドームへ入りましょう。どうぞ、御主人様」


 と、アリアが御辞儀をして、手の平で道を指し示す。ミロンはそれに従って歩いた。


 だが、そこにツェツィーリヤの制止の声が掛けられた。


「待て! そこにはーー」


 だが、遅かった。

 歩き出したミロンは、突然動きを停止させると、鼻を押さえてその場にしゃがみ込んでしまった。


「ど、どうしたのでございますか、御主人様!?」


「第三ドームは場所が露呈しているのにせめられていないわ。それはここが霧島祭子に守られているからよ」


 第三ドーム。

 魔科学のドーム。

 そして、第三ドームが有する六星長こそ、最硬の『創り者』霧島祭子。


「霧島祭子の能力は『高嶺の荊(ガルム・アルム)』というの。その力は、絶対に壊せない透明の壁を創る能力」


 祭子の力だというのに、どうしてだかネリーが胸を張ってドヤ顔を晒していた。


 ミロンは鼻血を垂れ流しながら、そのようなネリーを見つめるのであった。

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