かくして、彼らは第三ドームに辿り着く
「ここは……何処?」
ミロン・アケディは瞳をゆっくりと開いた。光が薄っすらと、ミロンの瞳を焦がす。
「おい、ミロン。寝とけよ」
目覚めたミロンへと、心配気な声を掛けたのは、ツェツィーリヤ・ヘラキャットであった。彼は、相変わらず可愛らしい声で、ミロンを心配する。
「申し訳ございません、我が御主人様。自分が御世話をしたかったのでございますが」
と、アリアが至極残念そうに呟いた。
彼女は尋常ではない怪力故、ミロンの介抱をしたくともできなかったのだろう。
「ここは何処?」
「トラックの中よ」
ミロンの問いに答えたのは、ネリー・ナイトラウ。彼女は淡々とした口調である。
しかし、その声音とは正反対に、ネリーの手は愛おし気にミロンの髪を撫でていた。
「ん!?」
慌てて、ミロンは起き上がる。
顔を真っ赤にして、何をされていたのかを悟る。
膝枕である。
ネリーに膝枕をされていたのである。その上、頭を撫でられていた。
羞恥心やら何やらがごちゃ混ぜになり、ミロンは頭から蒸気を放つ勢いであった。
「ネリーさん。ネリーさん! あたしもミロンさんに触りたいっす」
「駄目よ」
何故だか、頭上からエレノアの声が聞こえた。見上げても、そこには誰もいない。
「あれ? 幻聴?」
「いるっすよ! 今、トラックの屋根にいるっす!」
「どうして!?」
「警戒の為っすよ」
警戒、と言われて、ミロンはようやくことの顛末を思い出した。とはいえ、アルルとの戦いの半分以上の記憶はないが。
アルルにやられて、それから何か声が聞こえたような気がした。ミロンの認識はその程度であった。
「戦いはどうなったの?」
「アルルは兄様? が仕留めたわ。証拠に、心臓もある」
「それは見なくてもいいや」
けれども、ミロンが仕留めたとはどういうことなのだろうか。彼は負けた記憶しか持っていない。
ただ、あの声の主に全てを委ねたのだろうことはぼんやりと理解できた。
ミロンは知っている。
あの声の主は恐ろしく強いのだと。
「花火さんやクーマ、ミャウは?」
「マーガロイア兄妹は知らない。けど、霧島花火なら……」
と、ネリーは指で後方を指し示す。もしや、トラックの荷台に乗っているのだろうか、と期待して見るがそこには誰もいない。
「もっと後ろでございます、御主人様」
アリアに言われて、ミロンは更に後方へと視線を動かす。そこにあったのは、ボロボロの第二ドームであった。
そして、そのドームでは、未だ紫電が暴れている。
「あれから一日経過したというのに、まだ戦っているようね」
やはり、花火は規格外であった。
助けに行きたい。だが、それは無謀であるし、何よりも愚策であった。
無意味に仲間を危険に晒し、場合によっては花火の足を引っ張る原因になるかもしれない。
「クーマたちは?」
「わかんねえ。ただよ。あいつらは強え。きっと……」
ツェツィーリヤは沈んだ声音で答える。
第二ドーム内の『創り者』たちは、かなりの数が脱出に失敗したという。
第二ドームの出口は大きく分けて三つ。その三つ全てに、強力な『壊れ者』が配備されていたらしい。
ツェツィーリヤは望遠鏡を使用して、二箇所を確認したようだ。逃走はほぼ諦めかけたが、ミロンたちがアルルという門番を突破したことにより、そちらから逃げた『創り者』は脱出できたという。
正確には、敵が花火を優先したあまり、三箇所を空にして、その一つを埋める為だけにアルルが派遣されていたのだが、ツェツィーリヤはそのことを知らない。
敵にとっての脅威は、花火一人だけだったのだ。
「丁度良い。今から各ドームの特性について話すぜ」
「特性?」
ツェツィーリヤの話に、ミロンは首を傾けながらも、耳を傾けた。
「第二ドームは最前線、でありつつも新人の教育を行う場所だ。仕事は第一ドームへの侵攻」
一度は奪われた第一ドーム奪還こそが、第二ドームの仕事であったようだ。それは果たされなかったが。
「第三ドームは技術の国だ。機人の製造を担当している。後、道具類だな」
それからも、ツェツィーリヤの説明は続いた。とはいえ、大雑把な説明ではあった。
判明したことは、各ドーム毎に仕事が違う、ということだろうか。どのドームを失っても、これからの『創り者』は大きく戦力を削られることになる。
第二ドームを失った痛手は、そうそうに癒せないだろう。
「これから行く第三ドームは、『創り者』が保有している全ドーム内で、唯一敵に場所が見つかっている場所だ」
「え? それ、大丈夫なの?」
「ああ。第三ドームを守護する六星長霧島祭子がいるからな」
霧島祭子。
苗字で理解できる。その女性は花火の妹である。
花火はかつて言っていた。
花火の試練をクリアした者はいない、と。だが、唯一、妹とだけは引き分けた、と。
つまり、霧島祭子は花火と拮抗する実力の持ち主なのだ。
「さあ、もうすぐ着くぞ。魔科学のドーム、第三ドームだ」




