表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
崩壊の序章
70/113

弑虐と懇願

 あは、とミロンらしき者は無邪気に嘲笑った。


 その形相に、アルルは怯えを見せた。

 逃げ出そうにも、アルルの足はびくりともしない。恐怖故に動かない訳ではない。


 アルルには、ミロンらしき者の能力が朧げに見え始めているようだ。


 震える唇で、アルルは呟いた。


「……魔力を操る、能力」


「違うよ」


 ミロンらしき者は、とうとうアルルの眼前にまで迫っていた。

 彼はアルルの頬に触れる。


 好機と見て、アルルは能力を使用しようとした様子であった。だが、ミロンらしき者が倒れることはない。


「きみを見て、ふと思い出したんだけど、この肉体のファーストキスは霧島くんだったんだよね……」


 至極残念そうな顔をミロンらしき者は作った。それから、まあいいかと笑い飛ばす。


「けど、もうそのようなことがないように」


 ミロンらしき者は、アルルの唇に指を付けた。


「これは取っておこう」


 力尽くで、ミロンらしき者がアルルの唇を引き千切った。歯茎が露出し、歯が血液に染まっていく。


「後、きみの口癖? 語頭に『見た』とか『聴いた』とか。そういうの付けるの。僕ね、そういう安易な個性付け、嫌いなんだ」


 と、ミロンらしき者はアルルの眼球に教鞭を突き立てた。

 アルルの絶叫が、崩壊しかけの第二ドームに木霊した。それを意に介さず、残った目に指を入れる。


「どうせ、誰も気付いてないよ? きみの口癖。あは。まあ、でも、努力は認める」


 次は耳を引き千切る。

 アルルの能力は、一切機能しない。


「きみが余りにも憐れだから、教えて上げるよ。名は『弑虐ノ法(・・・・・)』で能力は……能力を使わせる能力さ」


 答えを耳にして、アルルは様々な答えに辿り着いたのだろう。

 ミロンらしき者の能力の凶悪さに思い至り、その表情を青く染めた。


 ミロンらしき者が行ったことは単純明快である。


 魔法という敵の能力に干渉し、外れるように放った。


 足が地面を蹴る勢いを止め、動きを止めた。


 そして、攻撃が普通に命中したのは、


「一時的に、俺の息の根を止めていた……」


「正解。死んだら、能力も何もないものね」


 ミロンらしき者が行った瞬間移動じみた移動方法も、アルルの意識を奪い、ゆっくりと歩いて背後へ回ったに過ぎない。


 もっとも、今のミロンの身体能力ならば、そのようなことをせずとも似たようなことが可能ではあるのだが。


「僕は敵が強ければ強い程強くなる」


 アルルにとって、あは、という笑み声は、まるで地獄から滲み出る鬼の呻き声である。

 表情を引き攣らせ、夢中で魔法を放つ。


 その全てが、ミロンらしき者を恐れるかのように避けていく。『操作(スポールト・ザカース)』を勝手に使われているのだ。


「魔力。後どれくらい残ってるのかな?」


「来るなああああああ!」


 威勢の良い台詞とは反対に、アルルの魔法は全てが後方へと撒き散らされていた。

 どころか、ミロンらしき者は無理矢理『喚起(ヴィーゾフ・ザカース)』まで行使させた。


 無数の小石や水、炎が放たれていく。


「やめろ。やめてくれ」


「見て見て。ほら……墓穴だよ?」


 ミロンらしき者が、アルルの魔力を使用して生み出したのは、巨大な墓であった。

 悪趣味なオブジェクトが完成したことにより、ミロンらしき者はころころと笑う。


「まだ魔力が切れないんだね。先に魔道具が全部壊れちゃうなんて」


「頼む。許してくれ。俺はお前を救おうと。いや、違うか。貴方とは敵対しているのか。わかった。俺は貴方側に付く! どうだ? 俺は強い。見てくれ」


 唇を失った虚空が、パクパクと命乞いをする。実に惨めな光景ではあるが、アルルは必死であった。


「ちなみに、きみの息の根を止める能力。燃費悪いね? 後、何回使えるかな?」


「情報も渡す。戦力にもなる!」


「後。三回ってところだね? ほら、さーん」


「謝る! ネリー・ナイトラウの肉体を弄んだことも。他のことも! それに、俺はまだ手を出しちゃいない。ちょっと服を剥いただけで」


「にーい」


「助けてくれ! 俺は救いたかっただけだろうが!?」


「だね」


 そこで、ミロンらしき者は止まった。

 それから優し気な眼差しを浮かべる。


「きみは役に立ちそうだ」


「そうだ。俺は情報もあるし、強い。だから、貴方の選択は正しい」


 ミロンらしき者が、アルルの前に立つ。そして、手を伸ばした。

 アルルもそれに倣って、手を伸ばす。


 だが、


「でも、要らないや」


 ミロンらしき者の腕が、アルルの胸に突き立った。そして、それと同時に残り僅かなアルルの魔力を体内で掻き混ぜる。


 人体をミキサーにかければ、こうなるのだろうか。

 アルルの胸の肉が刹那でミンチになり、周囲にビチビチと肉片を散らす。

 内臓や骨、筋肉、脂肪が混ざり、汚い物質が撒き散らされる。


 紅い赤い。

 肉片が生まれた。


「うん。じゃあ」


 と、ミロンらしき者はアルルから興味を失ったのか、背を向けた。

 そして、何が起きているのか全く理解できずに、口を開けているネリーの元に近寄った。


「王子様の到着だよ」


 そう言うと、何の遠慮もなく、ネリーを抱き締めた。


「やめて。貴方は兄様じゃないわ」


「ん? どうしてさ。僕はミロン・アケディだよ」


「違うわ。貴方は私の知っている兄様じゃないもの」


「ふーん。なるほどね。流石は主人公。ヒロインを堕とすのは得意なのかな」


「何を言っているの?」


「別に良いじゃない。僕がミロンくんじゃなくてもさ。僕の方が強いし、頼り甲斐があるよ?」


「私は……兄様が好きなの」


 ミロンらしき者が表情を引き攣らせた。抱き締めたネリーが言った台詞が効いた訳ではない。


 ミロンらしき者の首筋に、雫が落ちたのである。冷たい、けれども生暖かい、液体。


 それは涙であった。


「兄様を何処へやったの?」


「ネリーちゃん。泣いているのかい?」


「兄様を返して」


「そうか。そういうことか。ミロンくんとの契約は、ネリーちゃんを助けること。泣かしてしまったら、助けたことにはならない、か」


 ミロンらしき者は、自虐色に顔を染めた。それから、今までの態度が嘘のように、本当に優しく、ネリーの髪を撫でた。


「狙ってやった訳じゃないだろう。まったく、ミロンくんの変な所で優しい性格が幸いした形か。良いよ」


 ミロンらしき者の髪が金に染まっていく。一部は白く色が抜けていく。


「今回はきみの勝ちだ、ミロンくん。ああ、後、ネリーちゃん。アルルくんの心臓だけを後で抜き取っておくんだよ」


 そう言い残すと、ミロンらしき者はカクン、とその場に落ちた。

 ミロンの顔面が容赦なく地面にぶつかり、そのまま彼は意識を失った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ