表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
7/113

壊れ者

『壊れ者』と呼ばれたモノは、ミロンの目には化け物にしか見えなかった。


 その姿は正しく異形。


 ミロンの倍はあろうかという体躯。

 女性の姿をしたそれは服を纏っておらず、灰色の肌が全て晒されている。しかし、ミロンがそれに邪な感情を抱くことはなかった。


 腕が生えていたのだ。

 無数の、腕が、背中に。

 数百はありそうな程の腕が蠢いていた。

 その腕は重なり合い、癒着して、一枚の巨大な翼と化していた。腕の一本一本は、まるで骨や関節がないかのように、折り曲がっている。


 腕の翼で羽ばたいて、『壊れ者』は空を飛んでいた。


 また、その異形の造形で最も目がいく部分がある。腕の翼など、それに比べれば飾りに過ぎない。


「あれは……妊婦?」


 その『壊れ者』は妊婦のように、腹が不自然に出ているのであった。


「ワタシの赤ちゃん、はドコ?」


『壊れ者』は呻くような声音で絶叫する。


「どうやら妊婦の『壊れ者』のようね」


 ネリーはそれに怯えることなく、敵の観察を開始していた。


「妊婦、と呼びましょうか」

「名前を付けている場合? 逃げた方が良いんじゃない?」

「あれは地獄の果てまで付いてくるわ。ここが既に地獄みたいなものだけど」

「それには同意するよ」


 ミロンは手足の震えを抑え込みながら、必死に強がりを言う。しかし、それは妊婦の次の言葉によって崩壊する。


「いた! ワタシの、赤ちゃん!」


 妊婦はそう言って、ネリーに視線を向けている。勘違いしているのだ。


「抱き締めさせて!」


 不気味な声と同時に、妊婦が空を滑空する。その動きはあまりにも速く、そして鋭かった。


 ミロンはトラックを幻視する。

 トラックに轢かれそうな時、このような気分になるのだろう。


 衝撃の恐怖に怯えて、思わず目を閉じてしまう。

 けれども、いつまで待っても、衝撃はやってこなかった。代わりに、体が燃えるように熱くなる。


「あつ!」

「ごめんなさい、兄様」


 どうやらネリーの神々の死体(ホラーチャーム)に救われたらしい。優しく、ミロンは地面に置かれる。


「丁度良いわ」


 言うと、ネリーは髪の毛で大量の鞭を創造した。炎の鞭である。

 それを縦横無尽に繰り出して、その場から一歩も動かずに猛攻を開始する。


 妊婦はそれを素早く旋回することにより回避していく。


「どおおして。どおおして、ワタシと赤ちゃん。離す、のおお」


 妊婦は、自らの赤ん坊であると判断した筈のネリーへと憎悪の視線を送る。妊婦はネリーへと突撃する。


 妊婦の手には、もう一本の腕が握り締められていた。


 妊婦が、腕を棍棒のように振り被る。


「『壊れ者』は、私たち『創り者』のように心を持ちながらーー」

「返せええええ!」


 腕の棍棒がネリーの肉体を潰すべく、全力で叩きつけられる。妊婦は空中からの落下時に発生したエネルギーすらも利用していた。


 腕の棍棒での攻撃は筆舌に尽くしがたい程の破壊力を有している。


 だというのに、ネリーはそれを真っ向から受け止めた。髪の一部を盾状に展開し、腕の棍棒を真っ向から受け止める。


 ネリーの足が地面に埋まる。それ程の力を妊婦は有していた。


 ネリーは押されていた。


 ネリーは無表情を保ってはいるものの、額に大量の汗を浮かべている。

 力に負けて、大きく上半身を後ろへと逸らされている。


 だというのに、彼女はそれらを一切物ともせず、鍔迫り合いを続行する。


「ネリー!」

「無問題よ」


 ネリーの言葉通り、直後、妊婦と彼女の立場は逆転していた。


 人肉の焦げる嫌な臭いが、ミロンの鼻腔に侵入してくる。

 腕の棍棒が、ネリーの炎に敗北したのだ。


「話が中断されてしまったわね」


 妊婦が空に飛び去る。

 ネリーは髪を操り、自らの肉体を空へと置く。


 そして、激突が開始された。

 髪と腕の棍棒が真っ向から炸裂し合う。強烈な爆音をかき鳴らしながら、彼女たちは上空で激闘を繰り広げる。


 腕の翼が羽ばたく度、ネリーは髪を巧みに動かして追い縋る。


「『壊れ者』は私たちと同じく、心を持っていた」

「いた?」


 過去形に疑問系で返すと、ネリーはコクリと首肯を返してきた。


「『壊れ者』とは、心を壊した『創り者』のことよ」

「じゃあ、あれはぼくたちと同じなの?」

「違うわ。『創り者』は無数の人間から心や記憶を継ぎ接ぎして創られたのよ」

「それはつまり?」

「主人格の心が壊れれば、その他の記憶や心が押し寄せてくるの」


 それ故、精神を保てなくなる。精神崩壊を引き起こす。


「あれは正真正銘の化け物よ」

「赤ちゃん! 赤ちゃん、赤ちゃんは、ドコおおお」


 酷く錯乱した様子で、妊婦が腕の棍棒を両手に持つ。そして、それを振り回す。


 対抗するように、ネリーは髪の鞭の本数を十へと至らせた。

 幾ら妊婦が二刀になろうと、それを圧倒する程の手数を楽々と用意してしまう。


 両者同時に、高速の乱打を開始した。

 ネリーの第一の鞭が勢い良くしなる。妊婦はそれを高度を上げることにより回避する。


 直後、反撃の腕棍棒が振り下ろされる。

 ネリーの髪の鞭が数本束となり、その攻撃を防ぐ。


 攻撃を防ぎながらも、ネリーの攻撃は止まない。第五の鞭が妊婦へと向かう。


「離さないで! ずっと、一緒」

「喚くな」


 妊婦が腕棍棒で鞭を捌く。目の前に集中し過ぎていて、妊婦は気が付かない。

 頭上から第六の鞭が迫っていることに。


 鞭が妊婦の顔面を捉えた。


「吹き飛びなさい」


 妊婦の顔面が燃え、そしてひしゃげる。勢いに負けて、妊婦が隕石の如く、地面へと吹き飛ばされた。

 妊婦の肉体が地面に埋まる。


「終わりよ」


 ネリーが額の汗を拭った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ