侵攻と六星長の仕事
ミロンはその場に立ち止まり、絶望に押し潰されていた。
『創り者』は、第二ドームの存在を隠していた筈である。
では、今どうして敵はここにいるのか。
ミロンたちの所為である。
敵は逃げたのではなく、ミロンたちを尾行して来て、第二ドームの位置を割り出したのである。
そして、第二ドームは実際に襲われていた。
大量の残り者、『壊れ者』たち。
そして、それらを統括していると思われる意識のある『壊れ者』アルル・グラトー。
状況は絶望的としか言いようがなかった。
逃げ場はない。ここが逃げ場だったのだから。
残り者や一部の『壊れ者』は障害とはならない。何故ならば、このドーム内にいるのは、全員がプロのような者たちだ。
あらゆる場所で戦闘が行われている。
けれども、現在は『創り者』たちが不利であった。
何の準備もしていない。
中には武器を持たずに、素手で敵と相対している者もいる。
また、数も敵の方が圧倒的に多い。
「兄様。私たちはアルルを足止めするべきよ」
ネリーも責任を感じているのか、アルルとの戦闘を提案する。
「うん。それにぼくたちはあいつらと戦う係りだものね」
ミロンが魔道書を構え、アルルにキツイ視線を送る。だが、その視線は返されることはなかった。
「ーー私がいるのだが」
アルルの背後から、花火が出現したのだ。
アルルの首へと、サーベルが突き立てられた。
だが、しかし、アルルの能力によってその神速の一撃は勢いを失った。
「なるほど。勢いを奪う能力か。であれば……」
花火が一瞬で距離を置く。その顔には、余裕の笑みが貼り付けられていた。
ただ、冷たい瞳だけがアルルを貫く。
「生命の勢いを止めることも可能か? また、能力への魔力供給も止められると見るべきか」
ミロンは、すぐさま花火の思惑を理解した。おそらく、花火でも、アルルを倒すことはできないのだろう。
いや、方法はあるのかもしれないが、まだ思い付いていないのだ。
アルルの能力とは、そこまでに厄介なのだろう。故に、花火はアルルの能力への考察を口にする。
ミロンたちに教える為に。
「くくく。見た所、触れなければ意味がないようだが。私に触れることができるかな? だが、その前に」
花火が腕に紫電を纏う。それを強化することなく、花火は雷を放出した。
戦場が停止する。
花火の能力内の敵対する者全てが、電撃によって動きを停止させられたのである。
たった一つの行動で、戦況が逆転した。
「ここ第二ドームは最前線とされている。それが何故か、わかるか?」
「……」
問われたアルルは動かない。いや、動けない。花火の圧倒的プレッシャーに、アルルは気圧されているのだ。
「ここが最前線である理由」
それは、
「私がここにいるからだ」
各地で、動きの止まった敵にトドメが刺されていっている。
この世界において、死はありえない。故に、正確には四肢を切り落とし、敵を細かく刻み、身動きを取れないようにしているのだ。
勝てる、とミロンは思った。
だが、ネリーは首を左右に振り、ミロンの希望を否定する。
「このドームは放棄されるわ」
「どうしてさ? 花火さんがいれば、勝てるよ」
「場所が露呈した以上、もうここは拠点としての力はないわ」
殲滅したと同時に、ドームの壁が再び爆破されていた。と同時に、敵の大群が押し寄せてくる。
最早、それは波とでも形容するべきだろう。
「第一ドームも、ああやって占拠されたわ」
ゴクリ、とミロンは喉を鳴らした。
花火がいれば、それでも勝てる。だけれども、この攻撃は何時まで続くのだろうか。
永遠、なのだろうか。
ミロンは改めて理解する。自分たちが終わりのない戦に身を投じているということに、気が付いた。
「私たちはもう逃げるべきよ。敵の足止めは花火がやってくれているわ」
「花火さんを置いていくの?」
「ええ。六星長は逃げないわ。彼らの数ある仕事の一つよ」
ミロンは躊躇する。だが、ミロンがここにいて、何ができるというのだろうか。
ミロンが逃げるまで、花火は逃げられない。
精神論で言うと、ここに残りたい。けれども、それは逆に花火を追い詰めることとなる。
ミロンは一度目を固く閉じてから、改めて戦場を見渡した。
皆、逃げようとしている。
既に何名かの犠牲が出ているのだろう。
周囲は敵や味方の血で塗れている。偶々花火に近いミロンたちに、敵の手は迫っていないが、ここ以外は地獄なのだろう。
花火から離れて、第二ドームから脱出する。
そこまで生き残ることができるかもわからない。
それでも、ミロンは逃走を選び取った。それが花火の為である。
「わかった。逃げよう」
「ええ。ついてきて」
ミロンは魔道書を手に、ネリーの後を追う。置いていく花火のことは振り返らない。
ミロンは信じることにした。
花火は最強の『創り者』だ。
あんな奴らに負けるはずが無い、と。ミロンはそう信じることによって、無理矢理前を向いた。




