謝罪と悪夢
満身創痍の肉体で、ミロンたちは第二ドームへと到着した。
身体にこそ怪我はないが、精神的な疲労はかなりのものである。けれども、帰って眠る訳にはいかない。
報告は今すぐにするべきである。
ミロンたちはギルドへと入る。
身体の大きい、というよりも長いクーマは外で待機である。ちなみに、彼は、未だに一部の『創り者』に気持ち悪がられているので、かなり遠くで隠れている。
ギルドに入ると、花火が待っていた。
ギルド受付員が座るべき場所に、随分と凛々しく座っている。
まるで背骨に芯が入っているのかと錯覚する程、姿勢が良かった。
「遅かったな。くく、くくく! 早速、意識のある『壊れ者』に襲われたのかとヒヤヒヤしたぞ」
花火は冷たい瞳を細めて、口元だけをニヤニヤと歪ませた。左手で顔面を覆い隠すと、その隙間からこっそりとミロンたちを窺う。
「で、どうして遅れたんだ?」
「意識のある『壊れ者』に遭遇しました」
「は? ……くく、随分とつまらないジョークだな。私と同じくらいつまらない」
花火は、己のジョークの微妙さに自覚があったようだ。
ミロンはツッコミたい気持ちを抑えて、花火に報告する。
「本当です」
「……なるほど。なるほど、なるほど。そうか」
花火はゆったりと椅子から立ち上がった。
俯き、暗い表情でミロンたちに近寄ってくる。ミロンは怒られるのかと思ってしまった。
花火の纏う空気には、明らかに怒気が混じっていた。
目の前に、花火が立ち塞がる。
ミロンは思わず、目を閉じてしまった。けれども、何も起こらない。
ビリビリは来ない。
目を開いてみると、そこには花火の頭頂部があった。
「すまなかった。私の采配ミスだ。貴君たちには、いずれ敵と相対して貰うつもりではあった」
だが、それは今ではなかった。
と、花火は言う。
「私がいない状態で、よく肉体を無事に持ち帰った。……ありがとうございます」
花火は謝罪していた。
格下の『創り者』であるミロンたちに、花火は頭まで下げていた。その事実に、ミロンたちは目を剥いた。
「あ、頭を上げてください、花火さん!」
ミロンが慌てて、花火に頼み込む。
それに頷き、花火は頭を上げた。そして、彼は顔に薄い笑みを貼り付けた。
自身の教え、笑うことを常に実践しているのだ。
「で? 答えを聞こうか。対策チームに、加入してくれるのか?」
ミロンたちは悩む。
けれども、あの脅威を放置することはできる筈もない。
そして、敵の数を減らさないということは、増えていくということを意味する。
今回、ミロンは敵の一人に完敗した。
もし、次また敵が現れたら。
もし、次は敵が複数いたら。
思うと、ぞっとする。
「敵は……花火さんのことを知っていました」
「くくく。当然のことだが? 私は最強の『創り者』なのだから」
つまり、敵はこちらのことを探っているということである。
敵は既に、対策を施してきているのだ。
こちらが無策でいる訳にはいかない。
「ぼくは、参加します」
「兄様?」
「ぼくは弱い。弱いし、弱虫だ。でも、このままだと、弱さを理由に、もっと酷い目にあう」
仲間を失ってしまう。
早く、早く、強くならなければならない。
「だから、ぼくは少しでも勝率の上がる方に行く」
「素晴らしい答えだ。心というものは、実に弱い。その弱さを自覚し、そして使いこなせ。それが、人間、いや『創り者』の強さだ。だが、『壊れ者』にその強さはない」
必ず勝つ、と花火は言葉を締めた。
続いて、ネリーが溜息を吐きながら、挙手した。
「兄様が行くなら、ついていくしかないわ」
呆れ口調でネリーも賛同してくれる。
花火を尊敬しているらしいミャウも、組織の加入することになった。ミャウも誘われていたようだ。
「私っちが入るなら、おにいも入ると思うよ」
「そうだろうね」
現在の意識のある『壊れ者』対策チームのメンバーは、霧島花火、ミロン・アケディ、ネリー・ナイトラウ、ミャウ・マーガロイア、クーマ・マーガロイアの五名だけだという。
けれども、これからも確実に増やしていく計画らしい。
「さて、私の情報が流れていたという話だが。まあ、それは良い。私は有名だからな。だが、任務先で敵に遭遇するというのは、都合が良すぎる」
花火は考察を欠かさない。
何か違和感があれば、常にそこに思考を割く。それが最強を支える理由の一つなのだろう。
「情報が漏れている?」
ネリーが呟いた。
けれども、花火は首を横に振る。
「その可能性は少ない。何故ならばーー」
と、花火が根拠を説明しようとした瞬間であった。彼の口を遮るように、一つの巨大な爆裂音が響いたのである。
「何事だ!?」
第二ドームでは、あのような爆発音が鳴るようなことはあり得ない。
敵がいないのだから。
一部、花火のような例外が存在するが。
「私は先に向こうへ行く。各自、準備を怠るな。……く、くくく。拙いかもしれないのだが」
花火が能力をフル使用して、高速で駆け抜けていく。
ミロンたちは呆然としていたが、直後に弾かれたように走り出す。
悲鳴が聞こえたのだ。
複数の。
「どういうこと? どうして、このドームで悲鳴が」
「おそらく、敵が侵入して来たのよ」
新たな爆発音。
建物の一つが炎に包まれ、静かに倒壊していく。火の手は無数に上がっていき、第二ドームはまるで地獄のような有様と化す。
爆発音と悲鳴が協奏する。
視界の先に、化け物が見える。
そこにいたのは、百鬼夜行。無数の残り者の大群であった。
「どうして。どうしてここに、お前がいるんだ」
ミロンの声は震えていた。
絶望とそして、恐怖によって。
大量の残り者の先頭を歩いていたのは、アルルであった。




