夢と敵襲
「粛々と、任務をこなしていこうか、ミロンくん」
「だね、クーマ」
ミロンとクーマは、共に決意を込めた瞳で己の意見を確認し合う。
そのような彼らを、ネリーとミャウは呆れたような目で見ていた。
「うわうわ。男ってキモい。引く引く、ドン引きだよー」
「ミャウ。……兄様はキモくない」
「はあ!? おにいも別にキモくないし。ちょっとグログロだけど……」
女子たちが謎の言い争いを開始している中、ミロンは今回の任務内容について想いを馳せる。
食料調達、という任務である。
『創り者』に、食事は不要である。では、何故食料を調達する必要があるのかと問われれば、回復に使えるからと答える以外にないだろう。
ミロンたちが回収するのは、残り者の死体である。
『創り者』は死体を喰らえば回復できる。
ミロンは未だに慣れないが、慣れた者も多い。死肉は必須アイテムとも言えた。
リリア系がいれば別だが。
さて、今回の目的は、死肉の回収である。サポーターであるクーマがそれを持つのだが、それ故に今回のクーマは現在の荷物が少ない。
普段よりも、僅かに弱いのだ。
ミャウは、戦闘方法上、クーマのアイテムを多用する。今回の任務では、マーガロイア兄妹は十全の力を発揮できない。
だが、戦闘能力だけで見れば、普段よりも余力がある。ネリーがいるからだ。
今回の任務は、余裕のある任務であった。
「ミロンくん。きみはもう俺の友達だ」
「どうしたの、クーマ。急に」
「ふと、話したくなった。良いかい?」
「勿論」
「俺は何度も壊れそうになったことがある」
クーマは軽い口調で、実に重いことを告げてきた。クーマの表情は、ミロンの位置からでは伺えない。
「この見た目だ。最初は、自分で自分が気持ち悪くて仕方がなかった。今だってそうさ」
百足の肉体は、確かにかなり気持ち悪い。それでも、ミロンは彼を気持ち悪いとは思わなかった。
それは、クーマが良い人間だからだ。
「初見で、俺は壊れそうになった。だが、ミャウがね、言ってくれたんだ。『何何、それそれ。おにい、強そう!』ってね」
だから、クーマは壊れずに済んだのだ。
「俺の夢は、ミャウを守れる、立派な兄になることなんだ」
「立派な夢だね」
「だろう。ミャウは俺の心を守ってくれた。なら、今度は俺の番だ」
クーマは硬い決意を持っているようであった。
「でも、もしかすると、俺だけでは守れなくなるかもしれない。だから、ミロンくん。お願いだ」
「良いよ。ぼくも、クーマの夢を手伝うよ」
ミロンは優しく、ゆったりと笑う。それにつられて、クーマも笑い声を上げた。
すると、ミャウもやってきた。
「話は聴いたよたよ! 良い夢だね、おにいといにーさん! しかししかししかーし、私っちにも夢があるのだ」
「何?」
「第二ドームを守ること。第二ドームはね、良い所なんだよ! 私っちとおにいが路頭に迷ってるとき、このドームだけは私っちたちを迎え入れてくれた」
「第二ドームだけ?」
「おにいの見た目がどう見ても残り者だからね。その当時は私っちもボロボロだったし」
残り者と間違われて、終わられたこともあるという。
会話が普通に通じる時点で、残り者の可能性は薄くなるというが、それでも、確かにミロンも初見ではクーマは残り者にしか見えなかった。
「花火さんは優しい人だよ。だから、私っちはこのドームを、花火さんを守りたい」
「なるほどね。じゃあ、ミャウとクーマがいる限り、第二ドームは安泰だね」
ミャウが第二ドームを守り、クーマがミャウを守る。
そうすれば、第二ドームは安泰である。
「そうそう! だから私っちは、魔印を売るんだ。みんなを守る為に」
そういう考えがあったからこそ、ミャウは魔道具を売っていたのか。と、ミロンは感激した。
確かに、自分一人の力だけではドームは守れないかもしれない。だったら、みんなが身を守れる道具を作れば良い。
ミャウの考えは実に合理的であった。
「だからね、おにーさん。買って?」
と、指輪が差し出される。ミロンは涙目で、それを手に取ろうとして、それをネリーによって止められた。
「どうしたのさ、ネリー」
「兄様……今はそれどころじゃないわ」
「え? どういうこと?」
「目は疼かないの?」
言われて、ミロンは自身の左目に手を当ててみる。痛みはない。普段通り、じんわりとした痛みは継続しているが。
「見られている気がするわ」
「うん、私っちも気付いた」
「そのようだね」
ミロン以外の全員が何かに気が付いたようだ。だが、ミロンは、ミロンの瞳は反応しない。
普段ならば、小さなことで痛む筈の瞳が反応しない。まるで、見るなとでも言うように。
ミロンは嫌な予感がした。
「全員、気が付かないフリをして、ここは逃げよう。嫌な予感がする」
ミロンの提案に全員が頷きを返すよりも早く、それは現れた。
地面から、腕が生えてきた。
その腕は、ゆっくりと地面に手をつくと、そのまま力を込める。徐々に地面から頭が現れる。
緑色の髪が目に入る。
黄緑に発光した瞳が、ミロンたちを捉える。
やがて、それは全身を地面から抜き出した。
「あーあーあー。うん。耳に土が詰まったな」
緊張感に欠ける声。
この声の主は、トントントンっと耳の中の土を叩き出すが、暫くして面倒になったのか、耳を自分で引き千切った。
「見たか。俺の名前はアルル・ベアトー。ただの『壊れ者』だ。よろしく」
『壊れ者』、アルルは朗らかに挨拶を送ってきた。




