打ち上げとチーム分け
「お疲れ様だったな!」
ツェツィーリヤがハイテンションで杯を掲げた。中に入っているのは、お茶である。
『創り者』社会において、アルコールの入手というのは中々の難題なのである。また、ツェツィーリヤはアルコールがそもそも飲めなかった。
「そうね」
合図を合わせることなく、ネリーがミロンの杯へと杯を合わせる。
ツェツィーリヤはその場で硬直していた。
ミロンは苦笑いを浮かべて、ツェツィーリヤと杯をぶつけた。
「うん、お疲れ様」
「ちげえだろうが! 普通、こういう場は『お疲れ様!』って全員で言って、全員でさ!?」
ツェツィーリヤが喚くが、ミロン以外の全員は気にも留めない。
エレノアは場のノリがわからず、一人で既にお茶を飲み干していた。
ネリーは何度もミロンとだけ控え目な乾杯を行い、アリアは怪力故に参加することもできない。
寧ろ、この場で浮いているのはツェツィーリヤの方であった。
「打ち上げって言っても、そこまでのことはできないし、まあ良いんじゃないかな?」
「違うんだよ、ミロン。こういうのはやったという事実が大切だろ? これじゃあ、やってねえじゃんかよ!」
この世界には家畜は存在しない。
豚や牛は、いないのだ。いるとしても、見た目がそっくりな残り者である。食べられなくもないが、無理して食べる必要もない。
『創り者』に食事は不要なのだ。
それでも、お茶などはある程度出回っている。娯楽としての要素が強いが。
木造の建物があることからわかるように、この世界にも植物は存在している。ただ元の世界のように、沢山あるわけでもない。
また、生え方も不自然だという。
植物型の残り者も存在することから、採取も中々に困難を極めている。
つまり、打ち上げと言っても、あるのはお茶くらいなのである。
アリアが必死に再現したお茶菓子なども、少しだけ残っているが。これもまた希少な物である。
アリアは怪力故に上手くできないが、家事の知識については相当の物を持っていた。
「ちっ。こんなことならもっと奮発するんだったぜ。あと、ネリー! 良い加減、乾杯を止めろ。ミロンの器を壊す気か!」
「嫌よ」
ツェツィーリヤの苦労人気質は覆らないようである。
けれども、みんななんやかんやで楽しんでいるようであった。
ネリーは乾杯を満喫し、アリアもミロンの背後に控えられて実に御満悦そうである。
一番楽しんでいるのはエレノアであった。
彼女は顔を赤く染め、そして頭をフラフラと不規則に揺らしている。
明らかに、酔っていた。
お茶で、である。
場酔いなんていうものではなかった。本当に楽しそうに酔っていた。
怪訝に思っていると、ネリーが解説してくれる。
「『創り者』には娯楽が少ないわ。だから、お茶でも、飲まない者は一切飲まないの」
そのような彼らが急にそういうことをすると、耐性がなさ過ぎてあのような風になる。ということらしい。
『創り者』の生態は謎が多いが、これはかなり上位に入る奇妙であった。
「あは。あはっあは! 飲んでますかぁ? ミーローンーさぁん!?」
と、エレノアは近くに置いてあった整備途中の小型大砲に絡んでいた。
「えっ。ぼくって、大砲と間違えられるの?」
そうして、夜は更けていく。
やがて夜は明け、朝が訪れる。眠りに就いたままのエレノアを叩き起こし、ミロンたちはギルドへと向かうことにした。
理由は多々ある。
花火に呼び出されているのもあるし、エレノアの問題もある。
基本、『創り者』は三人一組。
しかし、仲間を二人も失ったエレノアは一人であった。ギルドへ行き、新たなチームを組む必要が出てくるのだ。
ミロンの読みでは、マーガロイア兄妹のチームに配属される筈である。
あのチームの実力は高いが、神々の死体持ちがいない。そこにエレノアは丁度良いのだ。
「俺の装備の問題もあるしな」
というのはツェツィーリヤ。彼の戦闘方法は端的に言って……金がかかる。
短いスパンで任務をこなさない限り、彼はどんどん追い詰められていく。彼はだからこそ、雇われという立場に甘んじている。
特定のチームに入らず、雇って貰って給料を得る。それによって、任務達成報酬と雇われ代を得ているのだ。
そうしなければ、彼は戦っていけない。
だからこそ、金次第ではツェツィーリヤは別チームと組むだろう。
勿論、余程のことがなければ、ツェツィーリヤはミロンたちを優先してくれるだろう。
ツェツィーリヤは一目で自分を男性だと見抜いたネリーのことを気に入っているし、ミロンのことも数少ない同性の友人ということで気にかけている。
「なるべく戦闘が少ねえ任務を受けたいもんだぜ。これじゃあ、任務の度に赤字……家も修理しなきゃだしよ」
不憫であった。
さて、そうやって歩いているうちに、彼らはギルドへと到着した。
相変わらずの荘厳な雰囲気を纏う施設に足を踏み入れると、そこでは花火が両腕を広げて待っていた。
「よく来たな。エレノア・グラムハイドもいるのか。丁度良い」
「何が丁度良いんですか?」
「チーム分けを発表する。エレノア・グラムハイドとアリアは私とチームを組め。ミロン・アケディとネリー・ナイトラウはもう一組のチームと合同でことに当たって貰う」
と、花火は勝手にチームを決めてしまった。それに誰かが異議を唱えるよりも早く、ツェツィーリヤが叫ぶ。
「俺は!?」
「あ」
「あ? あって何だよ!」
「……ツェツィーリヤ・ヘラキャットは適当な相手を見つけて組みたまえ。以上」
どうやらツェツィーリヤは忘れられていたようである。不憫だ。
というよりも、どうしてツェツィーリヤが忘れられていたのだろうか。
忘れられるような『創り者』とは思えないが。ともかく、チーム分けが決定された。




