敵と未知
「で、現れた敵って何?」
ネリーは冷たい声音で、花火に問う。彼女はミロンの腕を抱くようにして、彼を花火から守っている。
「意識のある『壊れ者』だが?」
「意識のある? それはおかしいわ。意識がないから、『壊れ者』なのに」
「それが覆されたから、私は危機意識を持ったのだがね」
花火は七三の髪を分けつつ、説明を開始する。彼はミロンから奪った教鞭で虚空を打つ。
「通常『壊れ者』は、我々とは違う世界を見ている」
ミロンが思い出すのは、妊婦と腹ペコであった。彼らが見ていた世界は、確かに少し変だった。
妊婦はお腹の子の存在を忘れ、周囲の人間を自分の子だと勘違いしていた。
普通ならば、あり得ない。
腹ペコは見るもの全てを少量だと思っていた。それもまた普通ではあり得ない。
彼らの見ている世界は、間違っているのだ。もしかすると間違っているのはこちらではないかと錯覚させられるくらい、彼らとミロンたちとでは見ている世界が違う。
「そのような中で、意識のある『壊れ者』が存在することが判明した」
「おかしくないですか? 意識があるのに、壊れてるだなんて」
「ああ、おかしい。目的は不明。ただ『創り者』を狙っているということだけだ」
花火の言いたいことは、中々要領を得ない。それはおそらく、はぐらかしているのではなく、花火自身にもよく現状が把握できていないからであろう。
花火は敵の力がわかっていない。
目的も、不明である。
それ故に、恐ろしいのだ。対策組織を作ろうとしてしまうほどに。
「意識を持って襲ってくる『壊れ者』の恐ろしさは身を持って知らねばならないだろう。私が口で言っても、わからないだろうからな」
こくり、とミロンは頷きを返した。
「ただし、意識のある『壊れ者』に出会ったら、逃げたまえ。現状の貴君たちでは相手にならない」
「ああん? 確かに俺たちはあんたより弱えけどよ、こっちにはネリーがいんだぞ?」
そこらの『創り者』や『壊れ者』に引けは取らねえ、とツェツィーリヤが叫ぶ。
それに対して、花火は静かに首を左右に振った。
「く、くく。ツェツィーリヤ・ヘラキャット。貴君、私が警戒している敵を、侮っているのか? 中々にお笑いだ」
「っち」
ツェツィーリヤが口を噤む。彼も、わかっていて反抗している節がある。
それはおそらく、ミロンを巻き込まない為である。ミロンはまだ弱い。弱いというよりも、経験が足りていない。
そのような彼を積極的に戦場に連れて行きたくはないのだろう。
「ふん、まあ、加入するかどうかは後にまた聴こう。意識のある『壊れ者』の力を知った後からでも良い」
くくく、と笑いながら花火がミロンたちに背を向けた。ミロンの魔道具や教鞭などは雑に地面に捨てられてしまう。
「後日、ギルドに来たまえ。私が直々に依頼をくれてやろう。六星長である私が受付員とは……面白いな」
そのまま、花火は行ってしまった。
「相変わらず、こっちには何にも理解させねえ奴だぜ」
ツェツィーリヤは唾棄するように言い捨てた。
「ですが、意識のある『壊れ者』には注意をした方がよろしいかと」
アリアの言う通りであった。敵は少なくとも、花火が警戒する程の脅威なのだから。
ミロンは未知の相手に、一人慄いていた。わからない、ということはやはり恐ろしい。
「じゃあ、邪魔が入ったが、そろそろ打ち上げでもするか。ネリー奪還作戦成功とミロンとアリアの仲間入りを祝してよ!」
暗い雰囲気を壊そうと、ツェツィーリヤが明るい声を出した。
けれども、ネリーとアリアの反応は芳しくない。
ネリーは未知の敵について考えていて、アリアは二度も花火にあしらわれたことを気にしている。
空気が重い。
ミロンはどうにしようと、会話の糸口を探す。そして、ふとツェツィーリヤの足が目に入ってきた。
「ねえ、ツェツィーリヤ」
「ん? 何だ?」
「ツェツィーリヤはどうしてミニスカート履いてるの?」
思い切って、問うてみる。
女性に見られるのが嫌な筈のツェツィーリヤが、何故スカートを履いているのか。
怒られるのを覚悟で、敢えて今尋ねる。
「ああ、これか? これはな、機動力を確保する為だ。動きやすいぞ」
「意外とちゃんとした理由だった!?」
「師匠が教えてくれたんだ、スカートを履け、と」
確かに、スカートならば、多少動きやすいだろう。
では、どうして上も女性物なのだろうか。フリルなども沢山ある服は、ツェツィーリヤの趣味ではないと思われるが。
「じゃあ、上は? どうして女物なの?」
「そりゃあ、お前。下スカートで、上男物だと、コーデが微妙になんだろうがよ」
「思ったりよりもどうでも良い理由だ!?」
いや、コーデは大切だが、戦闘中に意識する物ではないだろう。
「は? どうでも良くねーよ。変な服着て戦うとか、テンション下がるだろうが!」
発想が乙女であった。
暫く、ツェツィーリヤとの騒がしい会話を続けていたが、終ぞネリーたちの表情が和らぐことはなかった。




