最強と試練
首を切り落とされたミロンは、崩れ落ちる自身の肉体を見つめて、唖然としていた。
切断された部分の痛みを感じる間も無く、気が付けば地面に頭が転がっていたのである。
落ちたミロンの頭をネリーが優しく拾い、携帯食料を無理矢理に食べさせた。
「な、何で急に」
「兄様。霧島花火には話が通じないわ。気を付けて」
「言うの遅いよ!」
首元を抑えながら、ミロンが吠える。彼の視線は花火へと向いていた。
花火はニヤニヤ、と口元のみが緩んでいる。冷たい目は相変わらずである。
「貴君が報告に上がっていたミロン・アケディだろう? 新人だが、中々に優秀と聞いているのだが。しかし、見当外れだったな」
「な、何が?」
「貴君は何もわかっていない。戦闘とは、つまり未知の探求に他ならない。それなのに、貴君は私に気圧されるばかりで、一切の思考を行っていなかったが。貴君の眼鏡は飾りかね?」
ミロンとしては、戦闘はまだ始まっていなかった。準備はしていたが。
「霧島花火」
と、言われるままのミロンを見兼ねて、ネリーが声を上げた。
「私の兄様を舐めないで」
「いや、そう言われると舐めたくなる」
言うと、花火はまた足を一歩動かした。それだけで、彼はミロンの前に現れると、そのままミロンの唇に自身の唇を重ね合わせた。
「ん!?」
慌てて、ミロンは飛び退いた。
遅かったのだが。
「く、くくく。何て凄いんだ、私! 物理的に舐めるとは。絶好調だな、私よ」
何を考えているのか、まったくわからない。
ミロンは怖がりながら、自分の唇を抑える。最悪である。
同性に唇を奪われた。
「壊すわ」
ネリーが無表情で『命ノ灯』を発動させた。紅蓮の髪が、ギルド内で容赦なく振るわれる。
それに対して、花火の行動は単純だった。
指を鳴らした。
同時に、ギルド内にいた人物全員が意識が奪われた。
「おはよう。ミロン・アケディ」
声を掛けられ、ミロンはようやく意識を取り戻した。服が所々焦げ付いて、身体中に火傷痕が残っている。
あの一瞬で、ミロンは何をされたのかすらもわからなかった。
目にも止まらない何が動いて、そして意識を奪われたのである。身体が上手く動かない。
痺れのようなものが残っている。
「私はとあることを危惧しているのだが、その危惧を解消する為には戦力が必要だ。故に、貴君を試させて貰う」
「試す?」
「そうだ。挨拶時にも試したが、このままではいけない」
花火は一切をミロンに語らず、ただ歩く。ミロンを肩に担いで、である。
「着いた」
と、花火は肩に担いだミロンを地面に投げ捨てる。ゴロゴロと、ミロンは地面を転がされた。
存外、花火は力が強い。
ミロンは思い出す。アリアが床に埋められていたことを思い出す。
こと力に於いてはアリアの方が遥かに強い。だが、アリアを一瞬で制圧しただけあり、やはり全てに於いて圧倒的である。
自称『創り者』最強の男。
「試練を与えよう」
「急ですね」
「生きるとはそういうことだ」
くくく、とまた花火が笑い出す。顔を手の平で覆い、高笑いをする。その姿はどう見ても悪者であった。
「死体で創られた我々が生きる、とは! どれだけ面白ければ気が済むんだ、私!」
「花火さんの考え方がまったく理解できないんですけれど」
「構わない。さて、では始めようか。試練を」
花火がナイフを構える。それに応じて、ミロンは魔道書を取り出そうとして、それがないことに気がつく。
「あれれ?」
「ふ、貴君が探しているのは、これか?」
「あ! それぼくの魔道書!」
「今から戦うというのに、敵に武器を渡しておく馬鹿が何処にいる」
(それじゃあ、ぼく戦えないよ!? 今から何を試すのさ!)
首のチョーカーまでも外されている。狂っているように見えて、花火の行動は徹底されていた。
花火は見せつけるように、ナイフを振るっている。高速の斬撃は残像を生み、ミロンを威圧する。
「レッスンワン。笑え」
花火が一歩を踏み込むと、ミロンの背後に出現した。
(また!?)
まったく見えなかった。ミロンは慌てて逃げようとするが、遅かった。肩にナイフが掠る。
それだけだったのに、ミロンの腕が切り離される。鋭い痛みがミロンの脳を刺激した。その場に蹲ってしまうミロンの腹を、花火は軽く蹴りつける。
「笑え」
軽く蹴られた。
だというのに、ミロンの肉体は数十メートルを飛んでいた。『操作』も使われていないのに、だ。
「笑え」
花火は冷たい瞳で、ミロンを見下す。地面を転がるミロンは、痛みで顔を歪めている。
「苦しみというのは、思考能力を奪う。故に、笑え。苦しい時こそ、笑い飛ばせ。戦闘の基本だが?」
「で、でも」
腕を切り飛ばされた痛み。腹を蹴られた痛み。無抵抗で地面を転がされる屈辱。
笑う余裕など、有りはしない。
「……レッスンツー。考えろ」
そう言うと、花火はナイフを地面に捨てた。
「私は特異体質だ。神々の死体を二つ保有している」
「な! そんなのズルい」
「戦闘において、そのような言葉は無意味だ。ミロン・アケディ。私の能力を見破ってみろ」
それこそが、と花火は続ける。冷たい瞳は、何かを言いたげである。
「貴君に課す試練だ」




