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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
崩壊の序章
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報告と花火

 任務終了に伴い、ミロンたちはギルド本部へとやってきていた。報告を欠かす訳にはいかない。


 今回の任務は二つ。

 残り者の掃討とネリー・ナイトラウの救出である。


 ミロンは戦慄していた。

 ギルド受付員に、である。彼は敢えてネリーを一人で行かせ、その上でミロンたちを招集、ネリーの行動パターンを推測して、大体の位置を推理して見せたのである。


 ミロンたちが間に合ったのは偶然ではない。全て、受付員に仕組まれていたのだ。


 ギルドの受付員には長い経験があるという。

 ミロンは故に、経験という名の武器の強力さを思い知る。

 また、己の経験のなさを理解して、恐怖を覚える。


(経験がこんなに少ないのに、ぼくは大丈夫なのかな……)


 不安さを隠しつつ、ミロンは書類を片付けようとする。


 しかし、邪魔が入った。


「御主人様。御主人様のお手を煩わせるまでもございません。自分が片付けます」


 そう言うと、アリアはペンを握り潰した。インクがボタボタと流れ、あっという間に書類は片付けられた。ゴミとして。


「あ、ははは。アリア、下がっていて」

「も、申し訳ございません! 私が愚かなばかりに!」

「愚かっていうか……馬鹿力だよね」


 後半の言葉は、聴かれないようの小さく呟いた。

 けれども、メイドは主人の言葉を聞き逃さない。


「ああ、何ということでございましょうか」

「ご、ごめん。聞こえちゃった?」

「はい! しかと、御主人様からのお褒めの言葉頂きましたぁ!」


(まさかのウルトラポジティブさん!?)


 アリアは感情を抑え切ることができず、何度もその場で跳ねていた。その度に、床が壊れていく。

 ついでに、受付員の表情も壊れていく。


「力が少し強くて良かったのでございます!」


 アリアは精神的にも物理的にも舞い上がっていた。ミロンたちは彼女に触れないことにした。


「じゃ、じゃあ、ぼくは報告書書くね」

「兄様」

 

 改めて報告書に向き合おうとしたところ、ネリーが待ったをかけてきた。

 アリアの件もある。


 ミロンは恐る恐る尋ねた。


「何さ?」

「兄様の手を汚すまでもないわ。私がやる」

「さっきと同じ展開!?」


 ネリーはそう言うと、ミロンの右腕を抱いた。


「やるなぁ、御両人」


 ツェツィーリヤの揶揄いすらも、ミロンの耳には入らない。

 ネリーはミロンの腕を抱くと、ミロンの右手に自身の手を重ね、文字を書き始める。


(どうしてぼくの手を使って書くのさ!)


 嬉しい筈なのだが、あまりにも理解できない行動によって、ミロンは涙目になる。

 この世界の住人は、全員いまいち理解できないミロンであった。


「ツェツィーリヤ! 助けてよ!」

「つかよ、ミロンは良いなあ。モテて。俺なんて、顔は良いけど、その……女としてだしよ」


 ツェツィーリヤがギルド受付の真ん前で三角座り(体育座り)をしていた。


「女に告白したら『ごめん、あたしより可愛い子とはちょっと付き合えない』ってよ! それに、男は群がってくるしよ! 好きな女に、好きな男を取ったなって言われる俺の気持ちをーー」


 ツェツィーリヤまでもが壊れてしまった。

 ミロンは思い知る。『創り者』のメンタルは総じて弱い、と。


 ミロンは諦めて、ネリーに全てを委ねる。時折当たる胸にドギマギしながらも、無事に報告書は提出できた。


 だが、問題が一つ。

 ネリーが離れない。無表情ながら満足気にミロンの腕に抱き付いている。


『創り者』は総じてメンタルが弱く、また独占欲も強い。と、ネリーは言っていた。

 その通りであった。


「ネリー、もう離しても良いんじゃないかな?」

「兄様、温かい。はぁ」


 うっとりと、ネリーはミロンの肩に頭を擦り付ける。


 困惑するミロンを助けてくれる者はいない。

 アリアは跳ね回り、ツェツィーリヤは絶望し、ネリーは離れない。


 受付員はアリアを止めようと四苦八苦している。ただ報告書を書いているだけで、どうしてこうなるのだろうか。


 平凡なミロンにとっては理解しがたい。

 目を白黒させていると、突然轟音が鳴り響いた。


 音の方を見やると、そこには床に肩まで埋め込まれたアリアの姿があった。


「どうしたの、アリア!?」


 驚くミロンの耳元で、喘ぐようなネリーの返事が返ってきた。


六星長(ろくせいちょう)ね」

「六星長?」


 アリアの隣には、一人の男が立っていた。

 その男は高身長である。百八十はありそうな身長は、細身な肉体のお陰で圧迫感を感じさせない。


 スーツを軽く着こなして、磨き抜かれた革靴がキラリと光る。

 七三分けの黒髪は、まるで一流ビジネスマンのようであった。


 ただ、


「何て冷たい目なんだ」


 異様に冷たい目をしていた。


「六星長の霧島きりしま花火はなびだが。何だ、この騒ぎは?」

「えっと。ぼくもよくわかっていなくて」


 ミロンが答えると、霧島花火は凍えるような瞳でミロンを見据えた。

 あまりものプレッシャーに、ミロンは胃に痛みを覚える。戦闘になるのかと、魔道書に手をかける。


「なるほど。状況はわかったが……」


 花火はポケットに手を入れると、一歩だけ足を動かした。

 直後、花火はミロンの背後に立っていた。


 花火はミロンの首元にナイフを当てて、静かな殺気を放ってくる。死を覚悟させられた。


「命は諦めて貰うぞ」

「ひ、ひぃぃぃいい!」


 絶叫するミロン。

 だが、


「く、くくく。何て面白いんだ、この眼鏡。ひ、ひぃぃぃいい、だと。それに、ああ、何て面白いんだ、私」


 まさかの言葉が紡がれていた。


「『創り者』に対して、命を諦めろとは。何というユーモア。ふ、流石は第二ドーム最強の私だが。笑いと実力、どちらも最高峰とは、私は凄いな」


 驚き、ミロンは振り向く。そこにいたのは、相変わらず冷たい目をした花火であった。

 けれども、彼は冷たい目とは対照的に、本当に楽しそうであった。


「く、くく。第二ドーム最強。やはり、私は面白いだけでなく、謙遜までできるのか。『創り者』最強である私が、敢えて第二ドーム最強と。面白い、面白いのだが、私!」


 ミロンは目の前に現れた人物の捉えどころのなさに気圧されていた。

 冷たい人間に見えるが、お調子者なのだろうか。『創り者』は見た目で判断してはいけない、というが。


「兄様。落ち着いて。この人は六星長の霧島花火。最強の『創り者』であり、そして……」


 花火が手にしたナイフを思いっきり薙いだ。それによって、ミロンの首はあっさりと切断されてしまう。


「ちょっとしたサイコパスよ」


 花火が一人、笑い転げていた。

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