真価と説教
ミロン・アケディは平凡な少年である。しかし、彼は一種の戦闘の才能というものを持っていた。
彼は臆病である。怖がりだ。つまり、怖いもの知りであるということだ。
怖いものがわかる。それは戦闘において大切な要素である。何をされれば危険なのか、本能的に理解する力に秀でているということなのだから。
そして、ミロンは共感する力にも優れている。相手の境遇を思い、彼は涙を流せるのだ。
これらの才能を合わせることにより、ミロンはほぼ無意識的に敵が最も恐れる行動を起こすことができるのだ。
敵の弱点を突く能力。ミロンはそれに優れていた。
それ故に、ミロンはネリーという炎の残り者と相性の悪い手駒で勝利を得られたのだ。
「ねえ、ネリー」
ネリーがミロンの能力について思考していると、ミロンが声を掛けてきた。彼は珍しく、怒っているようであった。
「ぼくはね、心配したよ!」
腰に手を当てながら、ミロンが説教を始めた。ネリーは言われるがまま、俯いて彼の話を耳にする。
「怒ってたんだろうけど軽率だよ。ぼくを置いていくのはともかくとして、どうして他の人を連れて行かないのさ」
それからも、ミロンはガミガミと説教を続ける。大きな眼鏡の位置をしきりに直しながら、ネリーに対して言葉を放ち続ける。
その声音は怒気を孕みながらも優しく、とてもあっさりとネリーの脳に響いた。
ネリーは反省する。
ミロンをこんなにも心配させてしまっていたのかと、後悔した。
どうしてだろうか。
ミロンの怒り方に、何処か安心感を覚えるのは。
どうしてだろうか。
何処か懐かしさを感じるのは。
ネリーの心の中で花火が打ち上がったかのような衝撃が走る。
怒られているというのに、ネリーは何故だか顔の綻びを抑えられなくなっていった。
「ちょっと、ネリー? どうして笑ってるの? ぼくはね、今お説教を……」
「ありがとう」
堪え切れなくなり、ネリーは思わずミロンに抱き付いていた。
ミロンの目が点となり、眼鏡がズレる。
ミロンは口をあわあわと震わせて、
「な、何を!?」
「抱き付いているの」
「それは、わかるけど。どうしてなのさ!」
「私もわからない。……ただ嬉しかったから」
そう言って、ネリーは抱き締める力を更に強くした。
ミロン・アケディは困惑していた。ネリーの態度がおかしいのだ。
抱き着かれて、顔を赤くしながら、ミロンは意識を真っ白にする。女性慣れしていないミロンにとっては、この状態はどうすれば良いのかわからない。
痛みに僅かな耐性のある筈の肉体がミシミシを音を立てて締め上げられていた。最早痛いとすら言えるレベルで抱き締められてなお、ミロンは身動き一つ取ることができずにいた。
そのような状態で二分ほど経過した頃だろうか。
アリアとツェツィーリヤがやってきた。戦闘音で位置を突き止めたのであろう。
「おい、泥棒猫。助けられた立場でありながら、どうして御褒美を頂いてやがるのでございますか?」
冷たい声音で、アリアがネリーに注意する。それでも、ネリーは動かない。
焦れたアリアは無理矢理に、力尽くでミロンからネリーを引き剥がそうとする。
アリアの力は尋常ではない。
掴んだネリーの方が抉れて、消失する。痛みもあるだろうに、ネリーは「痛い」と呟くと、更にミロンの肉体を強く抱いた。
「性別迷子! 引き剥がしてくださいませ!」
「別に良いんじゃねえか? そんなにキレなくてもよ。ネリーはもう馬鹿なことをしねえだうろうからな」
「甘いのでございます。馬鹿な女は一度許すと付け上がるのでございますよ!」
アリアが苛立ちで足を震わせる。その度に、地面が壊れていく。
派手な音が響く。このままでは、残り者が集まって来てしまうだろう。
ミロンはそのリスクを読み取り、ようやく正気に戻ると、必死にネリーを引き剥がした。
「もう、ネリー! ちゃんと反省しなよ」
ミロンに突き飛ばされたことによって、ネリーは地面に尻餅をつく。彼女は涼しい顔を浮かべているが、涙目になっていた。




