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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
崩壊の序章
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能力と使い方

 ミロン・アケディがいた。

 彼は恐怖に顔を引き攣らせながらも、意思の宿った瞳で敵を見据えている。


 紅の瞳は、炎の残り者を捉えていた。


「ネリー。ぼくには注意しておいて、きみは一人で行く訳?」

「どうして、兄様がここに?」

「受付員さんから呼び出されたのさ。ネリーが一人で任務に行ったから、助けに行けって」


 なるほど、とネリーは理解する。あの受付員は最初からネリーを一人で任務へ行かせるつもりはなかったのだ。


「く、来るな!」


 言い放ちながら、ミロンは魔道書から魔法を繰り出す。それによって、炎の残り者を牽制しているのだ。

 戦い方としては、まだ拙い。けれども、確実に効果は表れていた。


 水球が炎の残り者に直撃する。水は即座に蒸発し、水蒸気を巻き起こす。


 ネリーは一度ミロンへの不満を捨て去り、生き残ることを優先した。

 ミロンの方へと歩き、彼に近寄る。


「その、助けに来てくれて……ありがとう」

「うん。ぼくも助けて貰ったからね」

「兄様、でもあれはどうしようもないわ」


 ネリーが指すのは、あの炎の残り者であった。残り者は多様な生態系を持つ。独自の能力を持つ個体も少なくない。

 その能力は神々の死体(ホラーチャーム)には及ばないものの、強力である。いや、本来ならばネリーの敵ではない。


 しかし、相性があまりにも悪かった。


 残り者。

 肉体と精神、記憶を掻き集められた存在を『創り者』とするのならば、残り者はその余り物で構成された異形である。

 細々としたパーツを使われ過ぎて、個としての自我を持たない。


 予め決められた動きのみを繰り返す傀儡である。


 一体何の残りなのかは不明だが、目の前の敵は炎で肉体が形成されていた。


「あれは私では壊せないわ」


 撤退という選択肢もある。相性が悪い相手に対する一番の作戦は、逃走であるからだ。

 リスクを背負う必要性はない。


 相手はあくまで残り者。雑魚なのだ。

 相性の問題で、ネリーでは手も足も出ないだけだ。


「いや、撤退はしないよ」

「え?」

「一応、ここにはツェツィーリヤに連れて来て貰ってるんだ。で、今はアリアとツェツィーリヤ、ぼくの三人で手分けしてきみを探していたところ」


 今逃げれば、もしかすると他の二人と炎の残り者が接敵する可能性が出てくるのだ。


「二人も相性悪そうだからね」


 肉弾戦に特化したアリアと重火器を操るツェツィーリヤ。どちらも、相性がよくない。


 であれば、二人揃っているミロンたちが相手をするべきだ。まだ可能性は高いのだから。


「そのようね。『命ノ灯(アラハ・ハール)』ッ!」


 ネリーの髪が紅蓮に染まり上がり、炎の鞭溶と化す。炎を纏ったネリーの髪々は、人体の急所を的確に打ち据えていく。

 だが、炎の肉体にそれは通用しない。


 牽制にもなりはしない。


 ミロンの放つ水球も無意味である。炎が水を容易く蒸発させてしまうのだ。


 魔法は自然現象を喚起する力である。魔印を刻むことによって、その魔印が刻まれた対象の可能性を奪って行使される超常の力。

 だが、それには当然限界がある。


 無差別に能力を行使できる訳ではない。刻まれた魔印の種類によって、扱える魔法は変わってくるのだ。


 今のミロンの手持ちには、目の前の残り者に対する攻撃方法が存在しない。

 いや、一つだけある。


 石弾である。

 石の弾は蒸発することなく、炎の残り者を貫く。それでも、ダメージが与えられているようには見えないが。


 いや、とミロンが首を左右に振った。


「火を消せれば良いのか」

「ぐぐぐぐぐぐぐ」


 炎の残り者が牽制の嵐を抜けて、ミロンへと襲い掛かる。ネリーが前に出て、その拳を髪で防ぐ。


 ネリーの攻撃が通じないように、敵の攻撃もネリーには通じないのだ。

 ただ本能のままに、炎の残り者が拳を放つ。


 ネリーは冷静に、その一打一打を髪で払っていく。だが、いなし切れていないのか、徐々に後ろに下がってきた。


 押されているというのに、ネリーには安心感があった。どうにかなる、という希望があった。


 ただ後ろにミロンがいるというだけで、希望が持てた。諦めずに済む。


「こ、の!」


 無意味とは知りつつも、ネリーは髪による攻撃を開始する。敵の攻撃を防御しつつ、攻撃の手を生むのだ。

 その難しさは言うまでもない。


 繊細な能力コントロールが必要になる。髪の一本一本までに気を遣わねば、攻撃を防ぐこともできなくなるだろう。


 しかし、攻めた。


 ミロンが解決策を生み出すまでの時間を稼ぐのだ。


「いくよ、ネリー!」


 ミロンの解決策は早かった。

 魔法で巨大な石柱を生み出すと、『操作(スポールト・ザカース)』で飛び退いた。


「兄様! 私の髪で掴めば、石柱もただじゃあ済まないわ」


 ネリーの火力は、残り者の比ではない。

 例え燃えにくい、燃えないものであろうとも、容赦なく溶かし尽くすだろう。


 だが、


「きみは何度もその髪でぼくを助けてくれたじゃないか!」


 はっとした。

 ネリーの髪はその火力を抑えることができたのだ。何度も、ミロンを助ける為に、ネリーは火力を落として彼の身を髪で包んだ。


 火力を落とすことは、難しい。

 ネリーは戦闘中、敢えて火力を落とすことはしなかった。意味がないし、寧ろ悪手であると思っていたのだ。


 火力はあればある程良い。

 そう思っていた。


 だが、使い方はそれだけではなかったのだ。


 ネリーの髪から炎が消え去る。

 火の粉を上げない、ただの赤髪が生まれる。その髪は小さな家屋程の大きさの石柱を軽々と持ち上げた。


 ミロンの『操作(スポールト・ザカース)』も中々の運動エネルギーを誇るが、それはネリーと比べなければという条件がある。


 攻撃に特化した神、アラハ。

 その力は例え炎を纏わずとも、一級品である。


「ぐ」


 炎の残り者は、頭上を覆い隠す程の大きさの石柱を見上げていた。


「終わりよ」


 振り下ろす。

 石柱による鉄槌が、炎の残り者を踏み潰した。炎の残り者ごと地面に巨大な穴が生じる。

 石柱の隙間から僅かに炎が吹き出るが、それだけであった。それまでであった。


 炎の残り者は肉体の大半を無理矢理に鎮火されてしまった。

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