勝手と独占欲
ツェツィーリヤ家の門には、一人の少女が待ち構えていた。
長い、白髪を持った少女である。
彼女は無表情で、けれどもそこに失意の雰囲気を纏っていた。腕を組み、まるで門番のように仁王立ちしていた。
ネリー・ナイトラウが、待ち構えていた。
ネリーの様子は、見るものが見れば一目でわかる。明らかに、怒っていた。
だが、鈍感なミロンはそれに気が付かない。
新たなバインダーや腕輪を見せることばかり考えて、ネリーの異変に気が付いていなかった。
「ねえ、ネリー。ぼく今日ーー」
「知っているわ」
「え?」
「貴方が私に内緒でマーガロイアたちと任務を受けたことは知っているの」
冷たいネリーの声音によって、ミロンは初めてネリーの表情の変化に気が付いていた。元よりも、表情にはそこまで変化はない。
だが、何処か冷たい。
凍えそうな程の雰囲気であった。
ネリーの瞳に映るのは、失意と失望。
「もしかして、ネリー。怒ってたり、する?」
「ええ。私は今怒っているの」
「どうして?」
「貴方は私にとっては初めてのパートナーだったのよ」
ネリーは言う。
エレノアの任務は仕方がなかった。けれども、ミロンとの初任務は楽しみにしていたのだ、と。
それをミロンは他の人物と任務へ行ってしまった。
楽しみにしていた予定を壊されてしまったのだ。また、ミロンはまだまだ素人である。それが実質の教育係であるネリーになんの相談もせずに任務を受けたことが堪らなく寂しかった、のだと。
これは言いがかりに近しい。
勝手に期待して、勝手に失望しただけだと断じられるだろう。
しかし、ミロンは同時に理解した。
報告書を書き終えて別れるとき、ネリーが執拗に言い含めてきていたではないか。
それはパートナーとしての初任務を楽しみにしていた、という言葉と同義であったのだ。
「……残念だわ」
「ごめんね、ネリー。確かに、ぼくが悪かったよ。無神経だった」
「……ふん」
ネリーそっぽを向いてしまう。ミロンの謝罪も意に介さない。
そのような冷たいネリーの対応に、ミロンもムッとした。普段よりも僅かに荒々しい調子で、ネリーへと苦言を呈する。
「こっちだって、ちゃんと言われないとわからないよ! それに、ぼくだって自分から望んで任務に行った訳じゃないよ。マーガロイア兄妹に無理矢理連れて行かれたのにさ」
ミロンは自分から死地へ向かうほど勇猛ではなかった。そもそも、彼が魔道具を求めたのも、主に身を守る為である。
マーガロイア兄妹に無理に連れて行かれなければ、ネリーの小さな願いは叶ったのである。
「……ふん、どうかしらね」
「何さ?」
「ミャウ・マーガロイアは可愛いと聞いているわ」
「違うよ! ぼくはロリコンじゃないよ!」
「……ミロリコン」
「何さ、その造語!?」
それは真実であった。ミロンは決してロリコンではない。ミロリコンではないのだ。
未だにネリーは機嫌を治さない。
『創り者』のメンタルは一般的に弱い。何故ならば、大体の『創り者』はいきなり未知の場所に連れられてきて、未知の異形と戦う羽目になる。
その上、多くの場合、自分が誰かも曖昧である。
複数の死体を掻き集め、内包される精神にも複数の心が混ざっている。
事故が曖昧な中、強靭なメンタルを持てる者は少ない。
『創り者』は一体見たら三体いると思え。
何故ならば、彼らは集まらなければ、その脆弱な心を保てないからだ。
メンタルの弱い『創り者』たちは、だからこのような些細なことで喧嘩をする。
自己が曖昧だからこそ、他者に依存する。他者を独占したがる。
これは『創り者』の生態とも言えた。
「もう結構よ。私は私で動くわ」
それだけ言うと、ネリーは踵を返して行ってしまった。
後に残されたミロンは、只管頭を混乱させるのであった。
「あんなことでそこまで怒らなくていいのにさ」
初任務をネリーは楽しみにしていた。それはわかった。だが、そこまで目くじらを立てるようなことでもないと思った。
ミロンは女心というものがわかっていないのだ。それは罪ではない。
しかし、罰は存在した。
ネリーと喧嘩してしまうという、些細な罰が与えられた。




