補充と帰宅
ミロンは戦っていた。
魔道書から魔法を引き出し、それを前方へと我武者羅に放ち続ける。爆音と破砕音が執拗なまでに奏でられる。
魔力には限りがある。本来ならば連発は悪手なのだが、今回ばかりは勝手が違う。
「待て待て待てー!」
「やはり、楽しいね」
現在、ミロンたちは追撃戦へと移行していた。逃げる残り者を背後から一方的に攻撃しているのである。
逃げる残り者を一体でも多く倒す為、ミロンたちは全力を出していた。
「ようし、最後の一体!」
ミャウの安全靴が残り者の顔面を踏みつける。その数秒後、残り者の顔面が炎上した。
もがく残り者へと、トドメのクーマの足が突き立った。
「はあああぁぁ」
ミロンは安堵により、盛大な溜息を吐いた。その様子を見て、ミャウとクーマが笑う。
「ダメだよ、ミロンくん。戦闘後すぐに気を抜いちゃあ。残り者は動くことが少しでもできれば襲いかかってくる」
「だよだよー。油断した瞬間、返り討ちに合う『創り者』は多いよ」
ギクリ、とミロンは表情を強張らせた。たしかに、あり得そうなことであった。ミロンは肝に銘じておくことにした。
「じゃあ、報告に帰ろうか」
ミロンが報告書を書くことはしない。今回の任務はあくまでマーガロイア兄妹が主体だったからだ。
魔法使いとサポーター。
一般的には神々の死体持ちの補助として見られる役職だが、彼らは決して弱くはない。
寧ろ、強い。
「で、で、で? おにーさん。私っちから魔道書買うつもりになった?」
「ああ、そういうお話だったね。うん、良いよ。買う」
「ほえー」
ミャウはその瞳キラキラと輝かせた。褐色の肌とよく似合う。
ミロンは暫くその美しさに見惚れていたが、クーマの咳払いで正気に戻る。相手は幼女である。
「よく買う気になったね。おにーさん、もしかしてチョロい?」
「買わないぞ」
「ああーん! もう意地悪ー」
ミャウはミロンに飛びついてくると、彼の胸に頬擦りを始めた。女性に免疫のないミロンは、幾ら相手が幼女とはいえ、頬を赤くする。
「ミロンくん。ロリコンは……解体だよ」
クーマの脅しは本気である。
シスコンであった。
「ち、ちち違いますよ! ぼくはただ純粋にミャウの魔印を評価したんです! よくわからないけど、凄かった」
ミロンは紅光を放ちつつある左目を抑えつつ、そう言った。どうしてか、目が疼く。
まるで、こちらに何かを告げてきているかのようであった。残り者がいる訳ではないというのは、何となく感覚で理解できる。
「と、ぼくの目が言ってる」
「ミロンくん。きみ、ロリコンな上に頭みでおかしいのかい?」
クーマは言葉とは裏腹に、本気で心配してくれているようであった。
嬉しくない。
「まあまあまあ、理由は何でもよいよ。私っちの魔印を買ってくれたら、もうそれで」
「うん。じゃあ、魔道書とチョーカーみたいなのくれる?」
「魔道書はページだけ補充する?」
「そんなことできるの?」
ミロンの問いに、ミャウがクーマの足からバインダーを取り出した。
「これを使えば良いよ。便利だよ。ページの補充も簡単だし」
「なるほど。ミャウは頭良いね」
ミロンはデザインの良いバインダーを探す。正直、ミロンは今の如何にも魔道書ですよ、という魔道書のデザインが気に入っていた。
使っていて、実に悪くない気分がする。
しかし、機能性で言うと、明らかにバインダーの方が良さそうであった。ページ毎に購入できれば、使用魔法も選べるし、何よりもお財布にも優しい。
もうツェツィーリヤが泣くこともなくなる、ことはないにしろ少なるだろう。
「これかな」
できるだけ今の魔道書に近しい、古い印象を与えてくるバインダーを選んだ。
バインダーと本ではまったく異なるが、一番気に入ったのがこれだ。
「うんうん。良い趣味してるよ、おにーさん」
後は、『操作』用のアクセサリーだけである。
いや、無論失った分のページも購入せねばならないのだが。先に買うべきはアクセサリーである。
そこまで悩むこともなく、ミロンは無難なデザインのチョーカーと腕輪を購入した。
(無難しか選ばないからダサいって、よくアリスに言われたっけ)
過去を振り返り、ミロンは僅かに表情を濁らせた。首を左右に振り、努めて忘れようとする。
ミロンはページの補充を軽くしてから、マーガロイア兄妹と別れた。
現在の拠点はツェツィーリヤ家。
ミロンは帰路に着いた。




