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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
崩壊の序章
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休息と魔印師

 報告書を書き終え、ようやくミロンは恐怖から解放された。

 肉片が飛び散り、血飛沫が上がり続けた最近のことを改めて思い出させられる作業から解き放たれたのである。


 休め、とミロンは指示を受けていた。


『創り者』は強い。疲労や痛みなどに、かなりの耐性がある。けれども、それはあくまで耐性があるだけで、無効化できている訳ではない。


『創り者』とて、疲れれば倒れるし、痛めば苦しいのだ。


 ツェツィーリヤ曰く、きちんと休める『創り者』こそが一流なのだそうだ。


 しかし、ただ休むだけではいけない。

 ネリーやツェツィーリヤが消耗品の補給や戦闘時における反省をノートに纏めたりしている。


 アリアは普段通り、ミロンの後ろに付き従っている。しかし、アリアが何もしないのは、彼女がただ純粋な膂力のみで戦闘をしているからに過ぎない。


 アリアは戦闘の準備をそこまで必要としていないのである。


 無論、アリアとて道具があれば便利なのだが、彼女の並外れた力の前では、道具など全てシャープペンシルの芯程度の強度しかないも同然なのだ。


「そういえば、アリア。きみはメンテナンスとか大丈夫なの?」

「はい。自分のことよりも、御主人様の警護の方が大切かと」

「駄目だよ! ぼくはきみにも傷付いて欲しくないんだから」

「も、もも勿体なき御言葉! 自分程度に配慮してくださるなど、自分は最高に幸せな機人(オート)でございます!」


 高揚して、己を御しきれず、アリアがその場でぴょんぴょんと跳ね回る。

 そのような光景を見ていると、本当に機械かどうか疑いたくなる。


「承りました、自分だけの御主人様! 男女(ツェツィーリヤ様)にお願いして、メンテナンスを行って頂きます!」


 ゆっくりと丁寧に頭を下げると、アリアは弾丸のような速度で駆け出していった。

 ミロンは目を点にして、彼女の姿を目線で追う。


「す、凄いな」


操作(スポールト・ザカース)』を使用している時のミロンよりも、圧倒的に速い。人並み外れた膂力による踏み込みの違いだろうか。


 嫉妬よりも、羨望を覚える速さであった。


「おっと。そうだった」


 ミロンは休むことを第一として命じられている。だが、装備の補充はせねばならない。

 壊れたチョーカーの代わりも用意せねばならないし、失ったページも補充する必要がある。


 幸い、ミロンは今回の作戦に参加したことにより、ギルドからお金を得ている。

『創り者』の世界でのギルドとは、ただの職業斡旋場ではない。


 ギルドは銀行であり、政府であり、国なのである。お金を発行しているのもギルドだし、ドーム内のルールを決めるのもギルドなのだ。


『創り者』は強い。けれども、幾ら個が強かろうと意味がないのだ。

 できるだけ集まる為に、ギルドというものは存在する。


 ギルドからお金を貰えたということは、信頼を得たということと同義なのである。


 ミロンはこれ以上、戦いたくはない。単純に怖いからである。けれども、戦いたくないからといって、戦いが発生しないとは限らない。


 寧ろ、ミロンはこれからも失わない為に戦い続けねばならないのだ。


「それに」


 ミロンは報告書を書き終わってすぐのことを思い出した。


 ネリーが言った。


『兄様。お疲れ様。今回の任務は兄様がいなければ負けていたわ』


 そして、


『これからはパートナーとしてよろしくお願いするわ。今度の任務は二人で行きましょう』


 と、ネリーは恥ずかしそうに頬を染めて、ミロンに言ったのである。率直に言えば、可愛かったのだ。


「ツェツィーリヤは仲間とはいえ雇われ。ネリーにとっての初パートナーはぼくらしいからね」


 任務が幾ら恐ろしいとはいえ、あそこまで期待されていると、ミロンは自然と応えたくなってくる。

 できることなら戦わずに済ませたいが。


「じゃ、魔道書とアクセサリーを買おうかな。足りる、よね?」


 その時、不安げなミロンに答えるかのように、可愛らしい声が響いた。


「おにーさん。そこの眼鏡のおにーさん!」

「へっ? ぼく?」

「へっ? だって、可愛い!」


 ミロンの前に現れたのは、褐色の肌を持つ幼子であった。歳の程は十くらいだろうか。

 幼い、舌足らずな言葉が、ミロンの耳にふんわりと侵入してくる。


「あのですね、あのですね!? おにーさん。魔道具を探してるんですよね」

「あ、えっと、うん」

「ならならなら! 私っちから購入すると最善ですです!」


 テンション高いな、この子。という言葉を堪えて、ミロンは口元に笑みを浮かべる。


「魔道書を売ってるの?」

「こう見えて、私っちは魔印師なのだ!」

「魔印師?」

「そうそう。魔印師。アクセサリーなんかに魔印を刻むお仕事をしてるんだ」

「ほうほう。それは凄いね」

「魔印師ミャウ・マーガロイアといえば、第二ドームでも有名! 有名税で破産する勢い」


 興味が湧いてくる。

 ミャウの無邪気な様子には好感が持てるし、何よりもミロンは現在魔道具を欲している。有名人の刻んだ魔印ならば、戦力的にも安心できるだろう。


「うん。興味が湧いてきたよ! 商品を見せてくれる?」

「勿論、当然! さあ、見てみて」


 と、ミャウは背負った鞄を広げ、中から様々な商品を取り出していく。


 どれもこれもミロンにはよくわからないが、確かに魔印が刻まれていた。


 だが、その魔印たちはどれも微妙に歪んで見えた。


「さ、お買い得だよ!」

「ありがとう。じゃあねぇーー」

「待ちなさいな」


 ミャウとミロンが交渉を開始しようとしたところに、何処からともなく待ったがかかった。


 キョロキョロと周囲を見渡すミロン。けれども、声の主は何処にもいない。

 一方で、ミャウの方は誰が話しているのかわかっているのだろう。


 ウンザリとした顔になった。


「もう。邪魔しないでよね、おにい」

「おにい?」


 ミャウの視線を追う。

 そこにいたのは、漆黒を纏う、巨大なーー百足(むかで)であった。


「ひ、ひいぃぃ!」


 石像の家屋にとぐろを巻くようにして張り付いている百足が、朗らかな声音で言い放つ。


「詐欺には気を付けなよ?」

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