回復の手
「さて、問題はどうやってここから脱出するかね」
ネリーが何事もなかったかのように続けた。
エレノアの心の救出には成功したが、ギルドの依頼は彼女の肉体を無事ギルドに届けることであった。
その為には、まずこの廃工場から脱出せねばならない。
「壁を破壊致しましょうか、御主人様」
アリアは拳を構えつつ、そうミロンに尋ねる。悪くはない手である。一度外に出てしまえば、後はトラックで撒けるだろう。
「うん、そうしようか」
ミロンはそう判断した。その判断を伝える為、室外で戦闘を続けているツェツィーリヤに声をかけた。
「わかった。ここは退くか。だが、こんだけの残り者を残しておくのも、なぁ!」
大砲を口から抜き取り、それで残り者の群れを薙ぎ払う。一瞬、残り者が姿を消すが、すぐさま他の残り者が大挙した。
「ああ。あのベルトコンベアを調べる任務を依頼するんだったね」
あのベルトコンベアがどのような目的で動かされていたのか。それを調べる為に、ツェツィーリヤは後日ギルドに依頼すると言っていた。
これだけの残り者を残していけば、後続の負担は計り知れない。
「この任務を受けてんのは、俺ら含めて三チームだ。後続に任せても良いが」
言いながらも、ツェツィーリヤは銃声を響かせ続けている。
残り者と戦う方法として、銃弾はそこまで有効ではない。確かに、敵を傷つけることはできる。だが、残り者は肉体が動ければ、動き続けられるのだ。
銃弾を打ち込んだところで、後方へと吹き飛ぶくらいであった。
「これを排除すれば良いんすか?」
ここは逃げようか、と決まりかけていた中、言葉を発したのはエレノアであった。
彼女は両腕に白い光を灯すと、能力を発揮した。
「『捕食の業』捕食形態」
白い光がゆらゆらと四方に霧散する。大量の残り者たちへその光が降り注いで行く。
すると、みるみる残り者たちの動きが悪くなった。
その代わりに、エレノアの顔色がどんどんと良くなっていく。これはどういう絡繰であろうか。
「な、何をしてるの?」
「あたしの『捕食の業』は、生命力を操る能力っす。ゼロにはできないんすけどね。こうやって」
残り者から無数の光が溢れ、それがエレノアの元に収束していく。
「あたしは生命力を相手から奪えるんす」
動きが悪くなった残り者など、恐れるに足りない。ツェツィーリヤの弾丸が残り者たちを貫いていく。
死にはしない。
だが、残り者たちはもう動く力も残っていないようだ。
「ずるいな」
「ずるくない神々の死体なんてないんすよ」
そう言いつつも、エレノアは残り者たちから大量の生命力を吸収し続ける。こと命がある敵に対して、エレノアは一方的な捕食者となれた。
これこそが、エヴァチームが大量の残り者退治と『壊れ者』退治を同時に行えると判断される要因となった能力。
弱った残り者に、ネリーとツェツィーリヤ、アリアがトドメを刺していく。
一瞬にして、大量の肉片が出来上がっていく。
ここまでの力があってなお、エヴァのチームは二名を失うこととなった。
エレノアとて、集めた生命力を回復力に変換できなければ、肉体を失っていたかもしれない。
……そのようなことがあり得るのだろうか。
エレノアの能力を鑑みる限り、今回の任務はそこまで難しいものではないはずである。だというのに、結果は惨敗。
ミロンは何か作為的なものを感じずにはいられなかった。
誰かが、何かを仕組んだ。
そうとしか思えなかった。でなければ、このようなチートとしか呼べない能力を持ってして敗北はあり得ない。
釈然としないまま、ミロンは掃討戦に加わろうとする。とはいえ、彼は両腕を失っている。
魔法の発動に教鞭を必要とするミロンは、魔法を使うこともできない。回復には人肉が必要だが、食べたくない。
渋るミロンの様子に気がつき、エレノアが寄ってきた。彼女は発光する掌で、ミロンの肩に触れた。
思い出すのは、右腕をあっさりと切断されたときのことである。エレノアの斬れ味は本物だ。
怖がるミロンを励ますように、エレノアが微笑を浮かべる。
「生命回帰」
言葉と共に、変化は訪れた。ミロンの腕が生えてきたのである。
うわっ、とミロンは仰天してその場で尻餅をついた。
「あたしの能力は、回復にも使えるんすよ」
「万能だね」
「ま、仲間は守れなかったんすけどね……」
エレノアは絶望に満ちた顔になり、その場で膝をついた。
能力的には頼りになるが、どうやらエレノアは結構面倒臭い人のようであった。
「どうせ、あたしなんて……ミロンさん。もうこの際、一緒に死にませんか? あ、死ねないすよね……」
「げ、元気出して! ね、腕まで治して貰ったし、ぼくにはきみが必要だよ!」
もう人肉を食べなくても良くなるかもしれないと思うと、自然と心が弾んだ。
「そ、そうすか! ありがとうございます、ミロンさん!」
顔を赤らめて、エレノアが言う。
ミロンはエレノアを口説きつつあることに、まだ気が付いていない。
掃討戦にミロンが加わったことにより、更に殲滅力が増加した。それから数十分の戦闘で、敵軍は壊滅に陥った。




