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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
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未知の力

「ぐ、あああああ!」


 左腕に噛み付かれてしまった。腹ペコの巨体は食いつくだけに留まらず、そのまま突進を敢行してきている。


 ミロンの靴が床を滑る。


 歯を食いしばり、痛みに耐える。

 左腕からは絶えず血液が流れ落ちる。それに構うこともなく、ミロンは必死に歯を食いしばる。

 歯が砕ける。


「ぐうあ」


 勢いを一切止めること叶わず、ミロンの肉体はどんどん後方へと押しやられる。


 やがて、壁にぶつかった。


 背中に走る強い衝撃に、意識が混沌とする。肺から空気が全て押し出された。それだけには、留まらない。


 壁に亀裂が走る。

『創り者』の頑丈な肉体が、壁の強度を凌駕していたのだ。


 壁が砕け散り、なおミロンの身体が背後へと押しやられていく。


「み、ミロン!?」


 残り者を足止めしていたツェツィーリヤが、驚愕に目を剥いていた。

 彼は咄嗟に室内を確認し、状況を理解する。


 ミロンがネリーを庇ったのだと、そう判断した。


「やるじゃねえか」


 ツェツィーリヤが拳銃を抜き取り、容赦なく発砲を重ねる。小さな弾丸が腹ペコの背を強襲し、無数の穴を生む。


「い、いだい」


 腹ペコが怯む。


 その隙に、ミロンは腕を解放させようともがく。しかし、その抵抗は無意味であった。


 直後、ミロンは左腕とお別れすることとなった。肉が、骨が、すり潰される感触がミロンの脳を襲った。


「ーー!」


 声にならない悲鳴をミロンが上げる。ツェツィーリヤが慌てて援護に入ろうとするが、大量の残り者に阻まれて動けない。


 腹ペコの大口が、ミロンを食べる為に開かれる。ミロンに、それをかわす術はない。


 瞳を閉じて、肉体を失う恐怖から目を背けようとした。だが、その必要はなかった。


 腹ペコの背後からアリアが怒涛の勢いで駆け抜けてきて、腹ペコの頭部を粉砕したのである。

 脳髄がゼリーのように弾け飛んだ。


「あ、ありがとう。た、助かったよ」

「自分の至らなさの所為で……」


 言いながらも、アリアは鋭い拳を腹ペコの腹部に叩き込んでいた。臓物が撒き散る。

 それだけで、腹ペコは動けなくなった。


「アリア! ネリーは!?」


 安心する暇はない。

 アリアがここにいるということは、ネリーは現在頭部だけの状態でエレノアの前にいるということになる。


 さっと、ミロンの顔が青褪めた。


 アリアの行動目的は、只管ミロンである。だから、彼女を責めることはできない。


 ミロンは懐から教鞭を出そうとして気が付いてしまう。彼は両腕を失っていた。

 両腕無き今、ミロンは武器を震えない。


「アリア!」

「承りました」


 ミロンの言いたいことを理解して、アリアが飛び出した。


 だが、遅い。

 エレノアの腕は、既にネリーの頭部に触れていた。あれに腕を切断されたミロンには理解できていた。


 あの神々の死体(ホラーチャーム)の持つ威力が。

 ネリーと言えど、一瞬で切断されてしまうだろう。ミロンは焦る。


 エレノアの手に白い光が灯ったときだった。


 ミロンの瞳が痛み出した。これまでにない程の痛みであった。初めてのときよりも、倍は痛む。


 絶叫を上げながら、ミロンは己の目を抑えた。


「今は、そんな場合じゃ……や、やめてよ」


 世界が停滞して見える。

 ネリーの頭部に触れて、悲しそうな表情を浮かべるエレノア。

 瞳を閉じて、これから起こるであろうことを受け入れているネリー。

 ミロンの命を果たそうと走るアリア。


 全てが止まって見えた。


「やめろ……」


 だというのに、ミロンの肉体はもっと遅かった。今からでは駆けつけることはできない。


 せめてもの抵抗が、やめろと呟くだけであった。


「やめろおおおおおおおおお!」


 停滞世界に鈍い光が宿る。真っ赤な、光である。


 その光はミロンの瞳から放出されていた。普段よりも更に紅い光が放たれている。


 エレノアの手の光が強まったかと思うと、急に色を失った。


「……え?」


 エレノアの唖然とした声が、虚しく響いた。だが、ミロンの言葉は終わらない。


「今すぐ、そこを退け」


 まるでミロンの命令に従うかのように、エレノアが吹き飛んだ。不自然な動きであった。

 エレノアの身体に糸がつけられていて、それを乱雑に引っ張られたかのような動きであった。後方へと舞い、そのまま天井に背中を叩きつけられた。


 あり得ない状況の中、全員が驚きに身を震わせた。

 ミロンを襲う目の痛みも、みるみる引いていく。


 理由は不明だが、一難去った。

 アリアが駆けつけ、ネリーの前に立つ。ネリーは頭だけで器用に動き、ミロンが落とした肉を頬張った。


 ネリーの肉体が構築されていく。


「詰みよ、エレノア」

「い……いひひ。いひひ。別に、いいすよお。あたしは、それでええ!」


 手に光の輪をはめて、再度ネリーへと襲いかかるエレノア。

 だが、ミロンはそれをくだらなさそうに制止した。


「やめなよ、エレノア」


 ミロンの声音は落ち着いていた。先程のことが嘘かのように、彼は落ち着いていた。まるで何かに乗り移られたかのように、その目は虚ろである。


「ぼく、わかっちゃったよ。エレノア。きみ、まだ『壊れ』てないよね」


 ミロンの発言に、その場の全員が気圧された。

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