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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
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ネリー無き闘い

「ネリー!」


 青褪めるミロンの元に、エレノアが駆け寄ってくる。その両手には謎の白い光。


「御主人様! 今はそれよりも」


 突進に近しい接近を目論んでいたエレノアの側頭部に、アリアの鋭い蹴りが炸裂した。

 メイド服に大量の返り血が付着する。


「まずは敵の殲滅でございます。おそらく、この狂った女(エレノア様)神々の死体(ホラーチャーム)持ち。自分が相手します」

「いひ、ひひひ。こ、殺さないで。その『壊れ者』、壊さ、ないで」


 頭を蹴りによって吹き飛ばされた筈のエレノアが懇願するかのように言う。


 おかしい。

 エレノアは無傷であった。とっくに頭がない筈なのに。

 それに、アリアにやられる前にも、エレノアは腹ペコに喰らわれていた。


 だというのに、エレノアの身には傷一つ見受けられなかった。


「この女の能力でございましょうか」


 アリアとエレノアの激突が開始された。

 そうなれば、当然、


「食物! 飯飯飯飯飯飯飯」


 腹ペコがミロンへと向けて踊りかかってくる。腹ペコの巨体が、ミロンのいる場所へと落下してくる。


「……」


 爆風が巻き起こる。

 床が砕け散り、その破片が様々な場所へと飛び散る。腹ペコは床を突き破り、一階へと移動していた。


「何処? 食物、何処? 何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処何処おおお」


 キョロキョロと周囲を見渡す腹ペコの頭上に、薄い岩の刃が顕現していた。


「こっちだよ」

「飯いいいい!」


 岩の刃が振り落とされた。それは容易く、腹ペコの右腕を両断していた。


「ぐぎいいい!!」


 腹ペコの涎に、血液が混じる。


「ぼくは今、きみに構ってられるほど、落ち着いてないんだ」


 更に、土の弾丸が発射された。それは腹ペコの腹に突き立った。


「余程お腹が空いていたんだね。でもね、だからってぼくはきみを許せない」


 腹ペコはネリーを襲った。

 一番許せないのは、ネリーの首を切断したエレノアだが、その次に腹ペコが許せなかった。


「理性ではわかるさ。ネリーは生きてる。首だけになっても、『創り者』は死なない。肉を食べさせれば元通りさ」


 でも、とミロンは炎を喚起した。


「それでも許せないや」


 普段の彼の姿からでは思い浮かべられない程の冷徹さで、魔弾が発射された。炎の弾丸は腹ペコを怯ませるだけに止まった。


「飯いいいい! 喰いたい!」


 腹ペコが、その見た目の印象とは真逆の速度で、ミロンへと飛び掛ってきた。


「ッ!」


 腹ペコが着地した場所に、ミロンはいなかった。


操作(スポールト・ザカース)』により、自身の肉体を操作しきる。バックステップで、その場から離脱していた。


 お返し、とばかりに魔法が炸裂した。


「痛い。らだ。らりだがるは。飯を飯ぃ!」


 巨体が飛ぶ。

 素早い飛び掛かりが何度も放たれた。ミロンはその全てを冷静に回避していく。


 ミロンの回避の度に、魔法の閃光が煌めいた。


「御主人様……もう魔法をそこまで」

「止めて! その人を殺さないで欲しいっす」


 アリアとエレノアの激闘は未だ続いている。


 だが、今のミロンはそれを思いやれる程、優しくはなかった。


 冷静に、魔法が腹ペコを打ち続ける。

 しかし、やがて、


 ーーチョーカーが砕け散った。

 回避の為に、『操作(スポールト・ザカース)』を連発していたのが問題となった。


 一転して絶対絶命。

 腹ペコが嗤う。そうして、最後の飛び掛かりが行われた。


「火力が足りてないや」


 迫る巨体に、ミロンは怯えていた。だが、それはあくまで彼の思考が震えていただけに過ぎない。


 彼の本能は、至って冷静であった。


 腹ペコに匹敵するくらいの巨岩が発生した。更に、ミロンは教鞭で数枚のページを指していく。


 それが意味することとは……


「退いて」


 数十回分の操作魔力が、一気に魔道書から引き出される。

 一回分でも十分な程の力を持った『操作(スポールト・ザカース)』を数回分、一気に行使すればどうなるか。


 結果は語るまでもない。


 世界が慟哭したかに思えた。

 爆音を掻き鳴らし、巨岩が雷のような速度で腹ペコを貫く。


 腹ペコと巨岩の大きさはほぼ同じ。

 後には、激しく飛び散った肉片しか残らなかった。


 ミロンの勝利であった。


 だが、そこまでだ。


 彼は両膝を地面に付け、大量の汗を流していた。その現象は……魔力切れを意味していた。


 魔法は体内の魔力を使用して引き出している。魔力の損失は、肉体に多大な負荷を与えた。


「兄様」


 と、首だけになっているネリーがミロンへと声をかけた。口さえあれば話せるのだろう。喉や肺がないのに話せるのは不思議だが、それが『創り者』だと言われれば、納得するしかあるまい。


「ツェツィーリヤからお肉を貰ってきて」

「う、うん」


 フラつく足を叱咤して、ミロンはどうにかツェツィーリヤの元へと向かう。鋼鉄のドアは閉められていた。ツェツィーリヤが閉めたのだろうか。


 鉄のドアをのしかかるようにして開く。


 その先は、戦場であった。

 無数とも言える残り者相手に、重火器を縦横無尽に扱うツェツィーリヤの姿があった。


「その足音、ミロンか? すまねえ。逃走経路は確保できそうにねえ」

「『壊れ者』は一体、始末したよ」

「マジか! よし、じゃあ、逃げるぞ」

「でも、エレノアさんが突然襲いかかってして、ネリーがやられた」


 ミロンの言葉に、ツェツィーリヤがギョッとして、こちらを振り向いた。

 泥のようにくらい顔色であった。


「壊れちまったのか……わかった。これを持ってけ」


 そういうと、ツェツィーリヤはミロンへと肉を投げ渡してきた。彼はフラつく身体でどうにかそれをキャッチする。


「楽にしてやれ」

「うん。行ってくるね」


 早く、ネリーを復帰させねばならない。ミロンの足取りは若干安定した。

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