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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
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突き当たり

 探索は続行された。

 コツコツ、と硬い廊下を打つ靴音。その音の出所はミロンの足元のみである。

 他のメンバーはプロなだけあり、足音を立てることすらしない。


 ドアが見えた。

 ツェツィーリヤは無言でサインをネリーに送っている。


 二人が素早い動きで、ドアの前に陣取った。


「……!」


 更なる合図によって、ネリーが室内へと無音で侵入する。

 ドアの外では、ツェツィーリヤが拳銃を構えている。


「……大丈夫」


 何もいなかったらしい。ネリーがションボリと肩を落としながら出てくる。


 現在、彼らネリーチームは室内の探索へと入っていた。

 物音が一つもしないということは、エヴァチームが戦闘していないということを示している。


 であれば、最悪の可能性として、肉体を失っていることも考えられる。もしくは、残り者に肉体を貪られているか、である。


「残り者が『創り者』を襲うのは、肉を食うためだからな」


 と、ツェツィーリヤが教えてくれる。

 アリスを名乗っていた残り者は、ミロンに襲いかかろうとはしてきていなかった。残り者にも色々いるのだろうか。

 というよりも、ミロンはまだ残り者と『創り者』の差異を知らない。後日、ゆっくりと聴くことになるだろう。


 二つ目のドアが開かれる。

 その部屋も、また無人であった。残り者の影一つ存在しない。


 ネリーチーム内には、人の探索に優れた人材はいない。ミロンがおそらく探知系だということは周知の事実であるが、彼の能力は敵の存在を知らせるのみ。


 味方の位置は掴めない。

 故に、手当たり次第な探索をするしか道はないのである。


「せめて、他に人員がいればな」


 今回の依頼を受けたのは、全部で三チーム。そのうち二チームは今日、依頼の存在を知ったのだ。準備があるのだろう。

 この廃工場に到着するのは、もう数時間かかるという。待つ手もあったが、ツェツィーリヤは速度を優先した。


 ツェツィーリヤの表情に焦燥の色が見え隠れする。彼は仲間意識が強いのだろう。


 三つ目のドアが見つかった。ネリーが突入体勢を取った時、部屋の内部から物音がした。


「ーーっ!」


 ミロンは咄嗟に魔道書を構える。教鞭で炎の魔印が刻まれたページを指しながら、固唾を飲んでドアを見つめる。


「……!」


 無言の合図。

 ツェツィーリヤがドアを静かに、けれども迅速に開く。ネリーが矢のように飛び出す。


 白の長髪が数瞬、置いていかれる。


「残り者しかいないわ」

「ちっ」


命の灯(アラハ・ハール)』が繰り出された。ミロンの目には、部屋中を紅髪が無茶苦茶に暴れ回っているようにしか見えない。

 が、それは明確な意思の宿る攻撃である。


 髪がなびく度、残り者の肉片が飛び散った。血液が髪に付着しているが、それもあっという間に蒸しきる。


 部屋は殺戮し尽くされた。


 残ったのは、血塗れの部屋に佇むネリーだけであった。


「物音も立ててねえな。だが、おそらく、援軍くらい呼ばれちまっただろうな」

「二手に分かれる?」

「速度を上げる!」


 ツェツィーリヤが駆け始める。魔道具を口から取り出して、『操作(スポールト・ザカース)』までを駆使しての疾駆である。


 負けじと、ミロンとネリーは魔道書を行使する。アリアは自力で高速であった。


 ドアを次々に開いていく。内部の残り者はネリーやアリアが始末していく。


「本当に、何処にいるんだよ」


 高速で部屋を殲滅して回ることになっている。


 走りつつ、ミロンはツェツィーリヤに提言する。


「少し落ち着こうよ。ネリーの体力消費が激しいし」

「肉を食えば治る」


 それだけ言い放ち、ツェツィーリヤは速度を更に速めた。援軍が大量に現れたときの方が危険度が高いと判断したのだろう。


 一階全ての部屋を見回ったが、そこにエヴァたちはいなかった。


 階段を駆け上がる。

 階段を登った先には、大きなホールがあった。そのホールを中心として、道が二つ広がっていた。


「どっち?」

「右だ」


 ネリーの質問に、ツェツィーリヤが素早く返答する。異論はない。

 廊下を暫く駆け続けていると、アリアがその足を止めた。


「残り者でございます」

「数は?」

「不明です。廊下中にびっしり、と」

「争ってる音は?」

「聞こえませんね」

「引き返すぞ」


 ミロンたちは反転し、逆方向へと駆け出した。廊下には、ツェツィーリヤが口から取り出した壁を置いておく。これで背後から攻められる可能性が減少した。


「良かったの? そんなに残り者がいるなら、いる可能性もあるんじゃ」

「いるかもな。だが、そんだけの数相手に、戦闘をしてねえんだ。いたとしても、もう手遅れだろうよ」


 苦虫を噛み潰すように、ツェツィーリヤが答えてくれる。彼の判断は間違っていない。


 依頼の内容が救出である以上、対象が消滅していた場合は大人しく帰るのが得策なのである。


 しかも、である。

 ミロンは思い出す。

 エヴァたちのチームは『壊れ者』の討伐を目的としていた。それはつまり、この施設の何処かに『壊れ者』がいるということ。


 大量の残り者だけならばともかく、『残り者』の参戦を加味するならば、この場は逃げるしかない。


 反対側の通路に辿り着いたので、速度を落とす。不思議と、こちら側にはまったく残り者がいなかった。


 安全極まりない。

 そう錯覚しかけたミロンの足が、ふと止まる。


 暗闇の中、廊下の先が目に入る。突き当たりであった。

 こちら側から見えるようにという配慮なのだろうか。ドアが開いていた。


 だからこそ、見える。

 部屋の内部が。部屋の内部で行われている悍ましい光景が……


「ひっ」


 そこでは、顔の半分を失った少女と、その少女を貪る化け物の姿があった。

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