ベルトコンベア
車工場へと侵入した。蔦の生い茂る壁に、ツェツィーリヤが口内から取り出した爆弾を設置した。
「何をしてるの?」
「爆弾設置してる」
「扉から入れば良いんじゃないの?」
「ばっか、お前。そうするに決まってんじゃん」
設置した爆弾を放置して、裏の扉から施設内に侵入した。
と、そこでツェツィーリヤがスイッチを手にした。ぽち、とスイッチが押される。
それが意味をするのは、爆発。
壁が吹き飛ぶ爆音が轟いた。足場が揺れる。
「な、何でこのタイミングで!?」
「しっ! 静かに」
茫然とするミロンをツェツィーリヤが黙らせた。ミロンの唇をツェツィーリヤが人差し指で抑える。
赤面するミロンに、ネリーが呆れたような表情を返した。
「残り者も馬鹿じゃない。音が聞こえた方に行く」
「それ馬鹿じゃない?」
「後、逃走ルートを増やすため」
「な、なるほどね」
プロの言うことには大人しく従うのが、ミロンであった。
ミロンの背後で、アリアが「いや、それはおかしいのでございます」と呟いていたが気にしない。
寂れた通路を歩く。
昼間だというのに、この通路は薄暗い。『創り者』の身体能力を持ってすれば、見えないということもないが、念の為にツェツィーリヤが懐中電灯を持っていた。
下手に光を灯せば、残り者に見つかるかもしれないので、必要なときしか点灯はしないようである。
できるだけ物音を立てず、ミロンたちは施設内を探索する。
「ちっ。交戦中じゃねえみたいだな」
救出対象が戦闘中であれば、それに助けに入るだけで良かった。
今は非戦闘状態。
つまり、救出対象は既に離脱しているか、逃走中なのか。それとも……手遅れなのか。
やけに物静かな廃工場は、ミロンの目にはとても不気味なように思えた。
砕けそうになる意思を叱咤して、ネリーたちの後ろをついていく。
警戒しながら歩いていると、徐々に機械の駆動音が聞こえてきた。
ゴウンゴウン、という腹の底に響くような思い音である。ここは廃という前提がつくが工場である。
機械が動いていても、なんらおかしくはない。
一方で疑問が湧き上がる。
一体、誰が、何の目的で動かしているのだろうか、という疑問である。
「私が行くわ」
と、ネリーが告げてくる。
けれども、ツェツィーリヤがそれに首を横に振るった。
「駄目だ。もし敵がいるならば、下手をすると戦闘になる。すると、お前の力は派手過ぎだ」
行くならアリアだ。と、ツェツィーリヤが結論を出した。
ツェツィーリヤだと、戦闘方法が重火器による鎮圧となる。それは当然物音を立てるので悪手だ。
ミロンには、まだ経験が足りていない。
この中で最も適任なのは、アリアであった。
アリアがミロンへと視線を向けてくる。指示を出せ、と彼女の瞳は物語っていた。
ミロンは控え目に首肯すると、アリアに命令した。
「頼むよ。でも、あんまり無茶しないでね」
アリアは一度、ミロンを庇って負わなくとも済む怪我をしたことがあった。またあのようなことをされては、ミロンの罪悪感がどんどん膨らんでしまう。
「畏まりました、御主人様」
ミロンに傅いたのも束の間。
アリアは物音一つ立てずに、けれども猛烈な勢いで床を蹴った。
音の正体へと数瞬のうちに近づいてしまったのだ。
特に待つこともなく、アリアが戻ってくる。その顔は涼しげでありながら、主命を果たせたことによる喜びで満ちていた。
アリアが報告する。
「特に何もございませんでした。ただ、ベルトコンベアが起動されておりました」
「ベルトコンベア。意味がわからないわね」
アリアの言葉に反応したのは、ネリーであった。
「動いているということは、誰かが動かしたということよ。残り者にそんな頭脳があるかしら」
あるとして、どうしてベルトコンベアを動かす必要があったのか。
残り者に車が必要だとは思えない。
「『創り者』が動かしている可能性もあるかと」
ミロンの背後で、アリアが可能性を上げる。
「何のために?」
「それは不明でございます。誰かが何かを作っているのか。それとも、何らかの理由で負け犬どもが動かしているのか」
「なるほど。まあ、今の所は推測しかできないね」
考えることは大切だが、それによって動かないのでは思考停止である。
ミロンたちは改めて施設内を探索する。
曲がり角が見えてくる。そこは先程、アリアが曲がり、安全を確認している。
先にあるのはベルトコンベアのみである。
安心して、曲がり角を行く。
そして、ミロンは目を見開いた。ベルトコンベアが動いていたのだ。
ゴウンゴウン、と音を立てて、一定のリズムで運んでいる。
血塗れの……肉を。
「な、何これ」
「臭いと見た目から考えると、こりゃ人肉だろうな。しかし、何でだ? これじゃあ、まるで『創り者』を創……」
「どうして、そんなに冷静なのさ!」
「ああん?」
ツェツィーリヤが不思議そうな表情を作る。まるでずぶの素人が、独創的な芸術家の作品を見たときのように。
ミロンは、逆にそのことが信じられない。このような惨状を前にして、平然としていられる神経がわからない。
ハッと気が付いて、ミロンはアリアへと振り返る。
「アリア! どうしてこんなことになってるのに、何も言わなかったのさ!」
「え? 申し訳ございません。自分の言葉が不足しておりました」
アリアも、である。
ベルトコンベアが動いている、とだけ告げてきた。けれども、アリアに悪気はない。
アリアにとっては、ただベルトコンベアの上に人肉が流されていただけである。ただ、それだけ。
その事実はベルトコンベアが動いていた、ということよりも優先度が低いと判断していたのだ。
価値観が根底から異なっていた。
「さ、気にはなるが、今はこれに構ってる暇はね。後日、ギルドに依頼を出しゃいい」
ツェツィーリヤが強引に捜査を続行する。ミロンは大人しく、それに従うことにする。
早くも、ミロンは悟っていた。
覚悟なんて幾らしても足りないのだ、と。




