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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
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ベルトコンベア

 車工場へと侵入した。蔦の生い茂る壁に、ツェツィーリヤが口内から取り出した爆弾を設置した。


「何をしてるの?」

「爆弾設置してる」

「扉から入れば良いんじゃないの?」

「ばっか、お前。そうするに決まってんじゃん」


 設置した爆弾を放置して、裏の扉から施設内に侵入した。

 と、そこでツェツィーリヤがスイッチを手にした。ぽち、とスイッチが押される。


 それが意味をするのは、爆発。

 壁が吹き飛ぶ爆音が轟いた。足場が揺れる。


「な、何でこのタイミングで!?」

「しっ! 静かに」


 茫然とするミロンをツェツィーリヤが黙らせた。ミロンの唇をツェツィーリヤが人差し指で抑える。


 赤面するミロンに、ネリーが呆れたような表情を返した。


「残り者も馬鹿じゃない。音が聞こえた方に行く」

「それ馬鹿じゃない?」

「後、逃走ルートを増やすため」

「な、なるほどね」


  プロの言うことには大人しく従うのが、ミロンであった。

 ミロンの背後で、アリアが「いや、それはおかしいのでございます」と呟いていたが気にしない。


 寂れた通路を歩く。

 昼間だというのに、この通路は薄暗い。『創り者』の身体能力を持ってすれば、見えないということもないが、念の為にツェツィーリヤが懐中電灯を持っていた。


 下手に光を灯せば、残り者に見つかるかもしれないので、必要なときしか点灯はしないようである。


 できるだけ物音を立てず、ミロンたちは施設内を探索する。


「ちっ。交戦中じゃねえみたいだな」


 救出対象が戦闘中であれば、それに助けに入るだけで良かった。

 今は非戦闘状態。

 つまり、救出対象は既に離脱しているか、逃走中なのか。それとも……手遅れなのか。


 やけに物静かな廃工場は、ミロンの目にはとても不気味なように思えた。

 砕けそうになる意思を叱咤して、ネリーたちの後ろをついていく。


 警戒しながら歩いていると、徐々に機械の駆動音が聞こえてきた。

 ゴウンゴウン、という腹の底に響くような思い音である。ここは廃という前提がつくが工場である。


 機械が動いていても、なんらおかしくはない。


 一方で疑問が湧き上がる。

 一体、誰が、何の目的で動かしているのだろうか、という疑問である。


「私が行くわ」


 と、ネリーが告げてくる。

 けれども、ツェツィーリヤがそれに首を横に振るった。


「駄目だ。もし敵がいるならば、下手をすると戦闘になる。すると、お前の力は派手過ぎだ」


 行くならアリアだ。と、ツェツィーリヤが結論を出した。

 ツェツィーリヤだと、戦闘方法が重火器による鎮圧となる。それは当然物音を立てるので悪手だ。

 ミロンには、まだ経験が足りていない。


 この中で最も適任なのは、アリアであった。


 アリアがミロンへと視線を向けてくる。指示を出せ、と彼女の瞳は物語っていた。


 ミロンは控え目に首肯すると、アリアに命令した。


「頼むよ。でも、あんまり無茶しないでね」


 アリアは一度、ミロンを庇って負わなくとも済む怪我をしたことがあった。またあのようなことをされては、ミロンの罪悪感がどんどん膨らんでしまう。


「畏まりました、御主人様」


 ミロンに傅いたのも束の間。

 アリアは物音一つ立てずに、けれども猛烈な勢いで床を蹴った。

 音の正体へと数瞬のうちに近づいてしまったのだ。


 特に待つこともなく、アリアが戻ってくる。その顔は涼しげでありながら、主命を果たせたことによる喜びで満ちていた。


 アリアが報告する。


「特に何もございませんでした。ただ、ベルトコンベアが起動されておりました」

「ベルトコンベア。意味がわからないわね」


 アリアの言葉に反応したのは、ネリーであった。


「動いているということは、誰かが動かしたということよ。残り者にそんな頭脳があるかしら」


 あるとして、どうしてベルトコンベアを動かす必要があったのか。

 残り者に車が必要だとは思えない。


「『創り者』が動かしている可能性もあるかと」


 ミロンの背後で、アリアが可能性を上げる。


「何のために?」

「それは不明でございます。誰かが何かを作っているのか。それとも、何らかの理由で負け犬ども(エヴァのチーム)が動かしているのか」

「なるほど。まあ、今の所は推測しかできないね」


 考えることは大切だが、それによって動かないのでは思考停止である。

 ミロンたちは改めて施設内を探索する。


 曲がり角が見えてくる。そこは先程、アリアが曲がり、安全を確認している。

 先にあるのはベルトコンベアのみである。


 安心して、曲がり角を行く。

 そして、ミロンは目を見開いた。ベルトコンベアが動いていたのだ。


 ゴウンゴウン、と音を立てて、一定のリズムで運んでいる。


 血塗れの……肉を。


「な、何これ」

「臭いと見た目から考えると、こりゃ人肉だろうな。しかし、何でだ? これじゃあ、まるで『創り者』を創……」

「どうして、そんなに冷静なのさ!」

「ああん?」


 ツェツィーリヤが不思議そうな表情を作る。まるでずぶの素人が、独創的な芸術家の作品を見たときのように。


 ミロンは、逆にそのことが信じられない。このような惨状を前にして、平然としていられる神経がわからない。


 ハッと気が付いて、ミロンはアリアへと振り返る。


「アリア! どうしてこんなことになってるのに、何も言わなかったのさ!」

「え? 申し訳ございません。自分の言葉が不足しておりました」


 アリアも、である。

 ベルトコンベアが動いている、とだけ告げてきた。けれども、アリアに悪気はない。


 アリアにとっては、ただベルトコンベアの上に人肉が流されていただけである。ただ、それだけ。


 その事実はベルトコンベアが動いていた、ということよりも優先度が低いと判断していたのだ。


 価値観が根底から異なっていた。


「さ、気にはなるが、今はこれに構ってる暇はね。後日、ギルドに依頼を出しゃいい」


 ツェツィーリヤが強引に捜査を続行する。ミロンは大人しく、それに従うことにする。


 早くも、ミロンは悟っていた。

 覚悟なんて幾らしても足りないのだ、と。

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