初戦闘
ギルドより依頼が発注されたと、受付員がツェツィーリヤに告げた。
ツェツィーリヤは覚悟の硬い表情でそれに応えて、依頼内容をミロンたちに報告した。
「エヴァチームの回収を目的とした任務だ。救出する人数は三。エヴァ、エレノア、ゴルズだ」
「その三人を助ければ良いんだね」
「ああ。行くぞ」
今回のエヴァ救出チームは三チームの参加となるらしい。
その内の一つが、ネリーのチームである。
ネリー、ツェツィーリヤ、アリア、そしてミロンの四人一組となる。
戦闘能力は申し分ない。ただ、懸念があるとすれば、経験のなさであろう。ネリーはこの間最初の任務を終えたばかりであるし、ミロンは今回が初任務である。
アリアなどは言うまでもない。
この中で唯一経験があるのは、サポーターであるツェツィーリヤだけであった。
ツェツィーリヤが口からトラックを吐き出した。助手席にミロンが座る。
「今回の目的地は?」
「廃工場だ。この近くにある。車を作ってたらしいな」
アクセルが踏まれて、トラックが発進する。
「本当は迂回しなけりゃなんねぇが。今回はちょっと省くか」
第二ドームは未だに敵に見つかっていない。
その理由は多々ある。
その内の一つが、周囲の地形であった。多数の岩がまるでビルのように建っている。
それが上手く第二ドームを隠蔽しているのだ。
もう一つの理由は、幻術を生み出す神々の死体保有者がいることである。
『創り者』が外に行くときは、敵にアジトがバレないように、道を誤魔化しながら進む。
しかし、今回の任務は急ぎである。
無論、道の隠蔽はできる限り行うが、普段よりは簡素なものとなる。
トラックで飛ばして一時間。
視界の先に、寂れた施設が入ってきた。如何にも工場、といった風情の建物である。
「あそこだね」
ミロンは少しだけ声を弾ませる。
「喜んでもらんねぇみたいだぜ」
と、ツェツィーリヤが窓から外を眺めた。彼の視線は目の前の目的地ではなく、別の場所を向いていた。
ミロンもそちらを凝視する。
発見する。
数体の残り者が、危なげな足取りでこちらを目指している。
「作戦中に背後を取られるとめんどい。今の内に叩いておく」
ツェツィーリヤは急ブレーキを踏む。思わぬ勢いに競り負けて、ミロンが顔面を窓へと強かに打ちつけた。
「ミロン、アリア。行ってこい」
アリアが荷台から飛び降りた。そして、そのまま軽い足取りで残り者たちへと向かう。
残り者の数は五体。それぞれが得物を持つこともなく、ゆっくりとした足取りで近寄ってくる。
「御主人様。作戦に入る前に、実戦経験を積んでおいたほうがよろしいかと」
「う。うん。そ、そそうだよね」
魔道書のページを捲りつつ、ミロンは助手席から降り立った。
「では、自分が四体を片付けます!」
言って、アリアは地を蹴った。それだけで、彼女は残り者たちの間合いに侵入する。
「ぁぁ」
残り者たちが力なく、両の手を振りかざした。
アリアはそれに構うこともなく、地面を全力で蹴りつけた。地面に亀裂が入り、残り者たちはそれに足を囚われる。
メイド服が風になびいた。と、同時に、四体の残り者たちの頭が食い千切られていた。
アリアがその圧倒的なまでの握力で握り締めたのである。頭を失ってなお、残り者たちは動き続ける。
そこへ、アリアは容赦のない蹴りを放つ。
肉に風穴が開く。
四つの肉片が生まれた。
アリアはまるで軽く家事をこなした、くらいの気安さでミロンの背後へと回った。
「どうぞ、御主人様」
残る残り者は一体。ふらふら、とこちらへと接近してくる。
「『喚起』!」
ミロンの前方に、石球が出現した。それはミロンの眼前をふよふよと浮遊している。
その石の弾丸に、教鞭を打ちつけた。
『操作』によって、その石弾には強烈な運動エネルギーが加えられる。
それは真っ直ぐ、飛んでいった。
「外した!?」
「ぁぁぁあああ!」
残り者が駆け始める。猛烈な勢いで、ミロンとの距離を狭める。
ミロンは恐怖で頭が真っ白になる。それでも、手は自然と動く。
二発目を装填して、射出していた。
石の弾丸が残り者の片腕を捥ぎ取る。
だが、敵の勢いは止まらない。残り者が蹴りを放った。それはミロンの腹に命中し、彼を空へと吹き飛ばした。
アリアの悲鳴が響き渡る。
「っ! でも、まだ」
アリアが悲鳴を上げたことによって、ミロンの思考は落ち着いていた。
苦痛に表情を歪めつつも、空中で教鞭を振るった。
顕現するのは十の石弾。
命中率が悪いのならば、数打ちゃ当たるに頼る他ない。ミロンの判断は迅速であった。
教鞭を振るい、前進の命令を叩き込む。命令通り、石弾が放たれた。
数個の弾丸は命中しなかったが、残りの弾丸は全弾命中。残り者の肉を削ぎ落とした。
しかし、残り者はまだ動き続けている。
ミロンは地面に落ちていた石ころを拾う。そして、チョーカーから操作魔法を引き出し、腕力を強化した。
投擲。
石ころが残り者の足を貫いた。
「まだ魔法の扱いにはなれない、ね」
「上出来よ」
ミロンが額の汗を拭っていると、トラックの荷台からネリーが評価を下した。
想像よりも良い評価に、ほっと胸を撫で下ろす。
ここまで来て不合格であれば、全員が困る結果となっただろう。
改めて、助手席に戻る。
隣のツェツィーリヤが破顔した。
「初戦闘、おめでとう。じゃあ、いよいよーー」
本番である。




