表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
25/113

折れそうな覚悟

 魔法の特訓はある程度キリの良い所までいった。後は依頼が発注されるまで、各自休息を取ることとなった。

 ネリーやツェツィーリヤの見立てでは、明日くらいには依頼が出るそうだ。


 つまり、休みは明日までである。


 さらにつまり、ミロンは今日中に戦闘の覚悟を決めておかねばならないのだ。


「付き合ってくれてありがとう、アリア」


 ミロンの背後では、アリアが畏まった様子で控えている。


 ネリーやツェツィーリヤは準備の為に、今はここにいない。

 準備を欠かした者から、『創り者』は肉体を失うという。ネリーやツェツィーリヤの準備が戦闘の準備だとすると、ミロンの準備とは覚悟であった。


 どのみち、現段階のミロンでは戦闘に必要な道具もわからない。


 持っていくものは四つだけ。

 魔道書、教鞭、チョーカー、そして眼鏡だけである。


「一応、ネリーからお金を貰ったけど」

「御主人様。新しいお洋服を購入されては如何かと」

「服?」


 指摘されて、ミロンは初めて己の服を見やる。そして、顔を顰めた。


「わ、これは酷いね」


 所々が破れ、また血だらけである。ここが『創り者』の世界でなければ、とうの昔に通報されていたであろう。


「確かにね。服を買わなきゃね。アリアは?」

「メイド服以外は身に纏いませんので」


 アリアの服は、片方の腕の部分がなかった。腕を切断されていたのだから当然であろう。


「それに自分は裁縫もできますので。購入せずとも、問題はございません」

「凄いね」

「勿体なき御言葉でございます」


 口調は淡白。声音も抑えられている。けれど、何処か弾んだ様子のある声。アリアに尻尾があれば、左右にご機嫌に揺れていたことであろう。


 さて、アリアはこだわりでメイド服以外を着るつもりがないらしいので、服の購入は諦めるしかあるまい。

 もし、あれば購入するのも良いが。


「じゃあ、服屋さんを探さないとね。場所わかんないや」

「御安心下さいませ。お節介(ツェツィーリヤ様)にある程度お聞かせ頂きました」


 あちらでございます、とアリアが掌で方向を示してくれる。

 メイドは主人よりも前へ出てはいけない。このようなときでも、アリアはその基本を遵守していた。


 若干呆れつつも、ミロンは言われた通り服屋へと向かった。服屋はそこまで離れた場所にはなかった。

 ミロンが武器を買った店と、そう離れていなかったのだ。まあ、それは当然であろう。店を固めておくことは、決して悪いことではない。

 商店街のようなものである。


 服屋さんもやはり露天商であった。木製の店舗には、無数の服が吊り下げられている。


「御主人様、これなど如何でございましょうか」


 と、アリアが服を勧めてくる。彼女が手に持っているのは、男性用のスクール水着であった。


「却下」

「わかりました。ちなみに、御主人様。ここにお名前を書く箇所がございますので、紛失の可能性は少ないかと」

「却下」

「はい」


 しょぼん、とアリアが肩を落とす。

 メイドは主人の言葉を拒否してはならない。故に、勧め方が迂遠であった。


(スクール水着を紛失する心配なんかしたことないよ)


「これはどうでしょうか」


 次にアリアが見せてきたのは、ふんどしであった。ミロンは肩を怒らせ、喚いた。


「どうして、下半身の防御力だけ上げようとするのさ!」

「大切ですので」

「うん、凄く大切! だけど、今は要らないの!」

「これは差し出がましい真似を。ちなみに、今このふんどしを購入すれば、もう一着ついてくるそうでございます」

「お得! でも、要らない!」


 ミロンは渡された水泳水着とふんどしを両手で握り締めながら地団駄を踏んでいた。

 アリアへとジト目を向けている。


「どうしてこんなんばっかり見せるのさ」

「御主人様には嘘は吐けません。正直に申しますと、御主人様の肉体をこの目で舐めるように観察したかっただけでございます」

「……嘘って大切なんだね」


 真理。

 世界は意外と嘘で回っている。そのことを理解させられたミロンは、肩を落として落ち込んだ。


「では、これなどは如何でしょう?」

「却……普通だ!」

「はい。どうでしょうか」


 アリアが選んだのは、何と普通のパーカーであった。シンプルながらも中々にお洒落である。


「意外だ。でも、いいね」

「御主人様。大分顔色が良くなりましたね」

「え?」


 言われて、ミロンは自覚する。アリアに対してツッコミをするので必死で、明日の戦闘についての憂鬱を忘れていたのだ。


「御主人様。覚悟は大切でございます。けれども、御主人様は初心者。覚悟など、戦場では即座に覆ることでしょう」


 戦場の恐怖はミロンの覚悟を容易く潰す。潰された、折られた心は、すぐには回復できない。

 幾ら人肉を貪ろうとも。


「ですから、御主人様。どうか、気を楽に」


 アリアの言いたいことを理解した。

 悩んでも仕方がない。覚悟をすれば、した分だけ、折れたときの危険が上昇する。


 ミロンに必要な覚悟とは、戦う覚悟ではなかった。

 悩まない。

 考えない。


 ただ目の前の問題を解決することだけを考える。


「ありがとう、アリア」


 ミロンはパーカーとスクール水着とふんどしを購入した。ふんどしはお得なことに、もう一つついてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ