魔法の特訓
さて、道具は揃った。
後は使用するだけである。ミロンとネリーは魔道具の性能を試すべく、広い場所を探していた。
魔法の効果を直に確認する必要もあるし、魔法を行使したことのないミロンが練習をするのだ。
誰もいなく、また壊しても構わない場所が望ましい。
「何処に行く?」
「そうね。……ツェツィーリヤの家に行きましょうか」
「え、どうしてここでツェツィーリヤが出てくるの?」
「彼の家は広いわ。それに壊しても文句は言わない」
「や、言うと思うけど」
渋々ながらミロンはネリーの背後をついていく。
無論、ネリーの言を信じた訳ではない。家を壊されれば、ツェツィーリヤは必ず怒ることであろう。
しかし、同時に、ツェツィーリヤならば、良い感じにかわせるだろうとも思えた。
ツェツィーリヤの屋敷はすぐに目に入ってきた。周囲が石造りの家だというのに、この家だけが木造であった。
かなりの広さである。
ネリーは特に遠慮することもなく、屋敷に侵入した。その姿には、まったくの申し訳ない感が見られない。
「ほ、本当に大丈夫なの?」
「ええ」
「ぼくは果てしなく不安なんだけど」
「問題ないわ。彼は何かあればうちに来ても良いと言ってくれたもの」
絶対に意味が違う、という言葉をミロンは呑み込んだ。ツェツィーリヤがそのような言葉を述べた真意はわからぬが、あまり深く関わっても意味がない。
申し訳ないが、今は人命が第一である。
ということで、長い廊下を抜けて道場のような場所に到着した。空手家や剣道家が修行をやっていそうな場所である。
「兄様、構えて」
言葉の直後、ネリーが拳を放ってきた。ミロンはそれをかわすことができず、顔面を殴打される。鼻が折れ、血液が流れ出てくる。
「な、なにふるのさ!」
「私は教えるのが得意じゃない。ので、実戦形式で、身体に覚えて貰うわ」
「魔法ってそんなので覚えられるの?」
「わからないわ」
「おい!」
ミロンは慌てて、まずは理論を教えてくれと請うた。ネリーが曖昧に頷く。
「えっと。……魔法には二つの段階がある、わ。一つ目が『喚起』」
『喚起』は魔法の姿形を決める為の行動である。
例えば、水球を生み出す。というような行為のことを指す。
「続いて、『操作』よ」
『操作』とは、言い換えるならば運動エネルギーである。
ただ物体を生み出すだけでは、魔法足り得ない。それを動かす必要がある。
水球を前進させたり、後退させたりは全て『操作』で行うのだ。
「つまり、『喚起』が拳銃に弾丸を込める行為で、『操作』が銃弾を放つ行為なんだね?」
「そうね」
「で、それの違いって何? どうやって分けてるの?」
「引き出す感じと押し出す感じ」
ミロンは首を捻るが、やってみようという気になった。魔道書のページを捲り、「えい」と掛け声を出す。
何も起こらない。
「あ、そうか。『喚起』!」
何も起こらない。
あるのはただ静寂のみ。
「引き出す感じよ」
と、ネリーが懐から教鞭を取り出してアドバイスを始めた。けれども、ミロンには理解できない。
「体内の魔力を二つに分けるの。で、その魔力を餌にして、魔道具から魔法を引き出すの」
「な、何言ってんの!?」
「早く」
「それにさ。喚起と操作で、二回魔法を使うんだよね? でも、魔道書は一ページにつき一回しか使えないんじゃあ」
ミロンの質問に対して、ネリーはふふんっと胸を張った。無表情にドヤ顔を配合して、偉そうにミロンを見つめる。
「ページには裏と表があるのよ」
言われてから、ミロンはページを見る。表には赤い魔印。裏には白の魔印がある。
表の赤い魔印で喚起、裏の白い魔印で操作をしろ、ということなのであろう。ミロンは納得して、魔法を引き出そうとする。
無理であった。
「えっと」
ネリーの言葉を思い出す。体内の魔力を二つに分ける。
瞳を閉じ、ゆっくりと思考する。魔力が何かはわからない。それでも、何となく思考する。
気分的には、体内の血液を半分に割る印象。
そして、右半身の血液を引き出し、それと魔道書を混ぜる感覚。
目を見開き、叫ぶ。
「『喚起』!」
何も起こらなかった。
「何でなのさ!」
魔道書を地面に叩き付ける。
「兄様、落ち着いて」
教鞭でミロンの頬を突くネリー・ナイトラウ。比較的温厚なミロンも、苛立ちを感じた。
無表情でネリーから教鞭を奪い取った。
「や、め、て」
「ごめんなさい」
むー、と唸りながら魔道書を拾い直す。
「これをさ。どうやって引き出すのさ」
教鞭でページを指してから、それをネリーへと突き付ける。
そして、
「……何か出た!」
炎が教鞭の先に顕現していた。それもただの炎ではない。尋常ではない程の火力である。教鞭の先から現れた炎は、既にツェツィーリヤ家の道場の天井を燃やし始めていた。
「う、うわ」
「兄様、炎を飛ばしてみて」
まったく動じずに、ネリーが更なる指示を飛ばす。思い切って、ミロンは教鞭を前へと振るう。
体内の血液のもう半分を絞り出すイメージ。
そして、叫ぶ。
『操作!』
炎が前進した。
その速度は術者であるミロンですらも捉えきれない。炎は一瞬でツェツィーリヤ家の壁を焼却してしまった。
巨大な穴が開く。
ミロンの頬を汗が伝っていった。




