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かつてゲームの大魔王  作者: 一崎
第一章 ミロン・アケディが恐れること
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魔道書

 ツェツィーリヤは不機嫌そうにミロンに告げた。


「助けたばっかですまねえな。次の任務が決定した」

「らしいね」

「できれば、お前にも来て欲しい。だから、任務が発令されるまでに、どうか魔法を覚えてくれ」


 無茶苦茶なお願いである。

 戦ったこともないミロンに、急に戦場に出ろと言うのだ。更には、魔法を使えるようになれ、という無茶振り付きである。


 普段のミロンならば、首を横に振っていたであろう。しかし、今回ばかりはミロンにも思うところがあるらしい。


 ミロンは首を縦に振った。


 決意の篭ったミロンの瞳を見て、ツェツィーリヤはにやりと破顔した。そして、ミロンの肩をバンバンと何度も叩きつけた。


「おお! それだよ! お前、男だぜ、ミロン! お前ならそう答えてくれると思ってた!」


 意外そうな声音とは真逆のことをツェツィーリヤが述べる。

 嬉しそうなツェツィーリヤとは裏腹に、ネリーがかわいらしく小首を傾げた。


「怖くないの、兄様?」

「怖い、けどさ。でも、エヴァさんたちはもっと怖いだろうから」


 知らない場所にひとりぼっちにされて、周りも化け物だらけ。ミロンは怖かった。

 そして、助けられて、ミロンは嬉しかった。


 それは今のエヴァチームも同様であろう。であれば、ミロンは頑張ろうと、そう思えたのである。


「ようし! ミロン。お前はネリーに魔印と道具を選んで貰え! 俺はアリアの腕を直して貰いに行く」


 そう言って、ツェツィーリヤは先程ギルドから受け取った布袋をミロンへと投げた。

 キャッチする。


「それで良い武器買えよ! じゃあな、行くぞアリア」

「却下します。自分の御主人様はミロン様でございます。両性類(ツェツィーリヤ様)ではございません。故に、貴方には従いません」

「はあ!? 人が折角格好良い金の渡し方したのに……」

「御主人様に金銭を譲渡するのは当然かと」

「お前、どんだけミロン信者なんだよ!」


 ツェツィーリヤが自身の綺麗な髪を掻き乱す。ミロンは慌てたように、アリアに言う。


「アリア。きみも腕がないと不便でしょ? 直してきて貰ったら?」

「はい」


 アリアが恭しく一礼する。

 彼女は改めてツェツィーリヤに向き直ると、これまた深くお辞儀した。


「御主人様が仰ってくださいましたので、貴方に従って差し上げます」

「こいつ、主人とその他の扱いの差が激しくないか?」

「いいえ、そのようなことはございません。自分は完璧なメイドかと」


 自称完璧なメイドはミロンへと完璧な礼を送ると、そのままツェツィーリヤに連れて行かれてしまった。


 ネリーとミロンのみが取り残される。


「さ、行くわよ」

「うん」


 それから少し歩いた場所に、目的の店は存在した。活気に溢れる通りであった。


 様々な露店が出ており、店員が大声で客を呼び込んでいる。ただ、ミロンには何を売っているのかよくわからなかった。


 未知のものばかりである。


 気にはなるが、今優先すべきは魔法である。


「ここが武器屋さんよ」


 優しく微笑む女性の店員。彼女の背後には数多の武器が存在していた。


 剣は大きさ毎に分けられて並べられており、その更に隣には槍。

 薙刀や弓、盾やスコップなども置いてある。


 品揃えは無駄に良いようだ。


「で、魔法だよね? 杖でも選ぶの?」

「違うわ。この辺りの」


 ネリーが指をさした場所にあったのは、アクセサリー類であった。

 指輪やピアスが所狭しと並んでいる。その種類は実に多彩。唯一共通点があるとすれば、どのアクセサリーにも似たような紋様が刻まれていることだけである。


「一番安いの、一回使って良い?」

「はい、どうぞ」


 ネリーが定員に断りを入れてから、適当な指輪を手にする。


喚起(ヴィーゾフ・ザカース)


 ネリーはじっと指輪を睨んだ後に、そう呟いた。彼女の掛け声に応じて、指輪が光を纏う。


 そして、奇跡が起きた。


 ネリーの眼前に、水球が現れたのだ。その水球は空中で静止して、動く気配はない。


操作(スポールト・ザカース)


 ネリーのその指令と同時に、水球が高速で動き始める。その水球はミロンの顔の周囲をブンブンと蠅のように飛び回る。

 速度が尋常ではなかった。


 ミロンの目では追いきれない程の速度である。


 彼がいよいよ目を回そうとしている時、ネリーが持っていた指輪から音が聞こえた。

 砕けたのである。


「……これ、買うわ」

「ありがとうございます!」


 商品を壊してしまったらしく、ネリーはしゅんっと肩を落としていた。


「これが魔法よ」

「なるほど」

「魔法は、魔印(まいん)を刻まれた物体の可能性を喰らって発動するの」

「ど、どういうこと?」

「……使ったら壊れるの」


 わかりやすい説明がなされ、ミロンにも理解が及ぶ。指輪が砕けたのは、使用回数を超えてしまったからなのであろう。


 つまり、魔法は消耗品であるということである。


「じゃあ、あんまり高いのは買えないね」

「そうでもないわ。高い方がコスパが良いもの」

「コスパ」


 コストパフォーマンスの略である。


「魔印が刻まれていれば、何でも良いわ。初心者には指輪がお勧めよ」

「じゃあ、指輪にしようかな。……強い?」

「刻まれた魔印によるわ。さっきのは水の魔印」


 できれば、使えるものにしたい。好戦的ではないミロンも、一応今回ばかりは戦闘に参加する必要がある。


「ああ、刻まれた魔印によって、効果が変わるんだね」


 水の魔印が刻まれた道具は、水系の魔法しか使えないのだ。となれば、武器選びは重要となる。


 どの魔法が刻まれた指輪を選ぶか、ミロンがうーんうーんと唸り悩んでいると、店員が笑みを強めた。


「多少値は張りますが、魔道書など如何でしょうか?」

「魔道書?」

「はい。これです」


 店員が巨大な本を手渡してくる。辞書程度もある本である。


 ページを開くと、一ページ毎に違う魔印が刻まれていた。


「一回使う毎に一ページ消滅しますけれど、量は多いですよ。それに、魔法の種類も沢山です」


 刻まれた魔印が一ページ毎に違うということは、一ページ毎に能力が違うということを示している。


「ネリー、どう思う?」

「悪くないと思う」

「指輪も便利そうだけど、こっちにしようかな。選ぶの難しいし」

「わかったわ」


 ネリーの判断で魔道書を二冊購入した。それだけでツェツィーリヤの金は全て消滅した。


 ミロンは一人、表情を青くした。

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